【オルタ広場の視点】
沖縄3区と大阪12区補欠選挙と地方選 戦後最低の投票率
① 沖縄補欠選挙 出口調査と投票結果から、与党支持者の投票行動
② 沖縄3区補欠選で戦後最低の43・99%、経歴詐称に見る油断
③ 大阪12区は、府知事選得票率比較では維新得票大幅低下
④ 維新大阪12区結果に橋下氏敵失だ 府知事選と比較4万票減少
⑤ 大阪・名古屋では自公民社民共産の既成政党連合が連敗つづき
⑥ 地方選挙戦後最低を更新 過半数以上が投票しない異常事態
⑦ 野党票統一なら乱立64選挙区で与党上回る…読売新聞試算
◆沖縄補欠選挙 出口調査と投票結果から、与党支持者の投票行動
4月21日投開票の衆院沖縄3区補欠選挙で、琉球新報社と共同通信社は21日、合同で出口調査を実施した。その結果、初当選したフリージャーナリストで新人の屋良朝博氏(56)=無所属=は「支持する政党はない」と答えた無党派層の76.2%を取り込み、自民支持者の2割近くを切り崩した。公明は約3割、維新は6割超が屋良氏に流れた。
屋良氏は、3区補選最大の争点だった米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する立憲民主党や共産党など国政野党の9割超を固めたほか、県政与党第一党の社民党は95%、社大党は88.5%を固めた。
辺野古移設容認の姿勢を打ち出した元沖縄北方担当相で新人の島尻安伊子氏(54)=自民公認、公明、維新推薦=は自民の81.9%の支持を得た。公明は68.6%、維新は36.4%だった。無党派層は23.8%にとどまった。
年代別では、全ての世代で屋良氏が島尻氏を上回った。とりわけ60代がその傾向が強く、72.8%が屋良氏を支持した。島尻氏は20代と30代が他の世代より高い傾向が表れた。20代は47.7%、30代は46.7%だった。性別で見ると、男性は63.1%、女性は67%が屋良氏を支持し、いずれも島尻氏を上回った。(琉球新報 2019・4・22)
沖縄県における直近の国政選挙は2017年の総選挙だったが、沖縄3区の比例区票を総計すると、自公維新の与党が上回っている。しかし上記補欠選挙の出口調査では、自民支持者の約2割、公明支持者の約3割、維新支持者の約約6割がオール沖縄の屋良氏に投票している。ということは、自公維新支持者の島尻への得票は59,423票だが、本来の政党支持者が島尻に投票しておれば、少なくとも2割増の、71,000票には到達していた。逆に屋良の得票は約77,000だったが、2割減少すると約65,000票で落選ということになる。
オール沖縄や本土の野党共闘が一本化によって2016年に一人区32区中、11選挙区で勝利を収めたのも同じ投票構造、すなわち野党が一本化することで、自公支持者の2割以上、維新支持者の4割以上が野党候補に投票している。そして沖縄で常に5割前後存在する無党派層の約7割以上が野党候補に投票するという結果を生んでいるのだ。
沖縄3区補欠選挙で、琉球新報社と共同通信社
◆沖縄3区戦後最低の43.99%の意味と経歴詐称に見る油断
沖縄は、県知事選、辺野古県民投票で圧勝した。デニー知事の後継の屋良朝博氏の優位は当初から想定されていた。しかし低投票率と予想外の得票差については、看過し得ない問題がある。それはオール沖縄の連勝による勝って当たり前という空気が、選対全体のゆるみとなったのではないかという指摘である。
宜野湾市長選挙を自公維新が取り、続いて名護市長選挙も勝った。この勢いで県知事選挙をと全力投球をした。菅官房長官と創価学会副会長の談合で、学会員4,000名を送り込み、さらに維新の下地幹朗議員らが土建業者をも動員してハッパをかけたが惨敗した。勝てば官軍だが、勝ち続けるとどこかに驕りと油断が出てくる。
その象徴的な出来事が屋良氏自身の経歴詐称事件である。ハワイ大学東西センター研究員であったことを、客員教授としたことが問われた。選挙公報、法廷ビラに印刷された後に発覚した。それを自公などが経歴詐称で告発するという事態になった。屋良氏は選挙の冒頭、事務局のミスであったと謝罪したが後遺症は残った。そもそも候補者自身が経歴表に書かなければ、事務局が間違うはずもない。屋良氏自身のミスであることは明らかだ。
勝利の影にミスは帳消しにされたように見えるが、そうではなかった。オール沖縄の幹部は次のように言った。「経歴詐称で1万票は島尻氏に流れ、1万票は投票に行かず、計2万票は流れた」と指摘する。(琉球新聞 2019・4・24 揺るがぬ民意 第3区補選の舞台裏 オール沖縄にひずみ)
戦後最低の43.99%の投票率となり、デニー知事の、3区選挙に実績より大幅に得票を減らした背景には、屋良選対の油断と緩みがあった。次の参院選や総選挙勝利のためにも、この油断は重要な教訓だ。
◆大阪12区は、既成政党の敗北だが維新票も大幅に減少
衆院大阪12区、沖縄3区の両補欠選挙が4月21日、投開票された。大阪12区で日本維新の会が擁立した新人の藤田文武氏、第2次安倍政権の発足以降、自民党が補選で敗れるのは、不戦敗だった2016年の衆院京都3区補選を除けば初となる。
大阪12区補選は自民党の北川知克氏の死去に伴う補欠選挙だった。藤田氏は大阪ダブル選での維新勝利を追い風に支持を拡大。北川氏の甥で「弔い選挙」を掲げた自民党新人の北川晋平氏(32)=公明推薦、選挙区での返り咲きを狙った元総務相で無所属元職の樽床伸二氏(59)、無所属元職の宮本岳志氏(59)=共産、自由推薦=を破って当選した。
大阪府選管最終結果によれば以下の図表の通りだが、当選した藤田文武の得票60,341票に対し、樽床、北川、宮本など反維新陣営の総計は96,410票となる。藤田の得票率は投票総数の38.5%に過ぎない。府知事選挙と同じく大阪都構想を掲げた維新だが、補欠選挙では、大幅に得票を減らしたことになる。だが、大阪維新の改革路線に、共産党も含めて既成政党がすべて反対して来た結果、大阪の有権者は維新を勝利させたという側面を見落としてはならない。なぜ既成政党連合が敗北したかを検証せずして今後の展望は見えない。なかでも大阪民主の惨敗停滞、大阪府議一名、市議会ゼロの惨状を見よ。
大阪12区補欠選挙候補者別得票数
◆維新大阪12区結果に橋下氏敵失だ 府知事選と比較4万票減少
上記の4候補の総得票数は156,751票、藤田氏の得票数は60,341票だが得票率は38.5%だ。大阪府知事選挙では維新の吉村知事が、大阪12区では総計約10万票と過半数超える得票で、自公民社民連合ブラス共産の既成政党連合に圧勝している。旬日を経ない補欠選挙で4割に満たない得票では大勝利とは言えない。これについて最も適切なコメントを橋下徹氏が出している。
「確かに藤田さんは優秀な人で一生懸命頑張ったけれど、前回一騎打ちで負けたときよりもむしろ票数は少し落としているし、勝てた理由は相手方が割れたから。敵失だ。吉村さんは府知事選のときに同じ大阪12区で10万票取っているけど、藤田さんは6万票。本人はそこを認識しているけれど、周りは自分たちのちからを客観的に把握しなきゃ。なかなか伝わらないけど、市長選、府議選、市議選、そして後半戦でも八尾市長選、池田市長選で大阪維新の会が勝てたのは、松井さんと吉村さんの実績が本当に評価されたから。そこでは確かに民意のうねりがあったけれど、それをもって日本維新の会は“国政でもはずみがつく“と言っているけれど、調子乗ったらえらい目に合う。風は吹いていないし、ちゃんと冷静になろうよ」(橋下徹ツイッター)
◆大阪・名古屋では自公民社民共産の既成政党連合が連敗つづき
民主党政権が2009年8月の総選挙で大勝してから今年で10年だ。翌年7月の参院選挙で菅首相の消費税自公案5%値上げへの抱き付き発言で敗北。以後の国政選挙で野党は連戦連敗を続けている。まさに悪夢を見る思いだった。その反面、大阪維新は民主党が投げ捨てた改革をやった。府議会や市議会の定員減、予算削減などに大ナタを振るい、これに対して自公民社民共産党などの既成政党は連合して維新の改革に反対して来た。共産党も含め既成政党は定員の削減や給与削減には一貫して反対している。
名古屋市の河村たかし市長の2009年当選以降の10年間を見ると、何よりも身を切る改革の実践だった。市長当選直後、市長歳費2,750万円を800万円に減額、さらに一期で4,220万円の退職金を廃止することと同時に、市民税減税10%を提案した。自公民社民共の既成政党すべてがこれに反対した。河村は議会の同意を得るために河村市長在任中という特例条例を可決させ、「ゼロ(不支給)」とした。
続いて市議会議員の年間歳費1,600万円を半額の800万円にすると提案したが議会のすべての会派の反対で暗礁に乗り上げた。しかし中途で公明党議員団が、学会支持者から、市長より高い給与はもらい過ぎという批判が出て、やむを得ず市長提案の年間800万円に賛成した。しかし議会の過半数を占める公明を除くすべての会派の反対で通過しそうにないと分かった。そこで河村市長は市議会解散の署名運動を呼びかけた。
かくして戦後初めて政令都市による市議会解散署名の有効数が過半数を超えて住民投票実施に至った。そして市民の圧倒的支持によって市議会解散に成功した。011年3月の出直し市議会選挙では、自らも市長を辞任し圧勝した。たった1名の与党減税日本の議員は、議会第一党となる躍進を遂げた。結果として市議会議員歳費の年間800万円も市議会で承認された。013年4月の市長選挙では63万票を獲得、3選を果たしたが、翌年014年の市議会選挙では、与党減税日本は半減、自公民の野党3党が三分の二を占める結果となった。
その結果、市議会議員800万円の歳費は、016年4月市議会で、自公民議員団の提案によって1,455万円に値上げすることが可決された。河村市長は少数のときも多数派となったときも、市長当選当時の所信を頑固に守り抜いた。多数派に迎合せず、身を切る改革の先頭に立っている。2017年の4回目の市長選挙でも、投票率は低下したが、前回の市長選挙の得票率62.20%を上回る67.84%を獲得しているのも、ブレナイ河村市政への市民の評価が定着してきたからだ。
名古屋市長選挙出口調査(中日新聞 017・4・24)
◆地方選挙戦後最低を更新 過半数以上が投票しない異常事態
統一地方選後半戦でも59市長選投票率47.50%と前回比3.03ポイント低下で過去最低更新した。総務省は4月22日、21日投開票された統一地方選後半戦の市区町村長選、市区町村議選の平均投票率を発表した。59市長選の平均投票率は前回より3.03ポイント低い47.50%で過去最低となり、初めて50%を割った。283市議選も45.57%と過去最低を更新。48.62%だった前回に続いて2回連続で50%を割り、有権者の関心の低さをうかがわせた。ほかに過去最低を更新したのは、東京特別区の20区議選42.63%(前回比0.18ポイント減だった。(毎日新聞 2019・4・23)
4月7日開票の統一地方選挙前半戦でも、11道府県知事選挙の平均投票率は47.72%で、10道府県知事選があった前回2015年57.14%からわずかに持ち直した。41道府県議選の投票率は、44.08%となり、統一選として過去最低だった前回2015年の45.05%を下回った。6政令市長選は50.86%、17政令市議選は43.28%で確定し、いずれも過去最低だった。11道府県知事選の投票率は47.72%で、過去最低だった前回の47.14%とほぼ同水準となった。
あれほど騒がれた大阪市長選とダブル選となった大阪府知事選ですら投票率は49.49%と5割に満たなかった。
もうひとつは無党派層の存在だ。時事通信の調査では無党派層は常に5割前後、政権選択選挙でも、地方選挙でも与野党対決となった選挙区では、無党派層は野党候補に流れやすい。辺野古や原発、改憲など争点が明確な場合、無党派層の動向が大勢を決める。地域は異なるが、沖縄、大阪、名古屋などでは無党派層が圧倒的に、オール沖縄、維新、名古屋河村市政を支持している。2016年の参院選一名区で野党が11勝したのも、無党派層の支持で圧倒したからである。
朝日新聞の直近の二、三カ月の調査でも、自民党支持率は30%台だが、支持政党なしは、常に40%前後に達する。政治的無関心、政党不信などが生んだ日本的特徴だが、この無党派層の存在をどうとらえるか。あるいは無党派層をいかに投票行動に駆り立てるか。今後の参院選などの国政選挙に共産党も含む野党統一候補を推して闘う体制ができるかどうか。とくに32の一人区における共闘体制が組めるかどうかが、安倍政治轉換の最大のテーマである。
市長村長、市町村議選投票率の推移(毎日新聞 019・4・23)
◆野党票統一なら乱立64選挙区で与党上回る…読売試算
2017年の衆院選直後に、読売新聞が複数の野党系候補が競合した227選挙区について分析した結果、野党系候補の得票を足し合わせると、64選挙区で与党候補の得票を上回ることが、読売新聞の試算でわかった。読売は要旨以下のように分析している。朝日新聞も同じ時期に同様の分析をしている。
――東京ではこうした例が特に目立ち、自民が勝った19選挙区のうち14選挙区で野党系候補の合算票が与党候補の得票を上回った。この試算では、民進党出身者が所属する立憲民主党と希望の党に加え、民進党出身の無所属候補ら、共産党、社民党――の間で候補者が一本化されたと仮定し、各選挙区の野党系候補の得票を合算した。 民進党が2016年7月の参院選で共産、社民、生活(現・自由党)と連携し、改選定数1の1人区(計32選挙区)で候補を一本化して11勝を挙げたことを踏まえた。
自民、公明両党の候補に対し、複数の野党系候補が挑む構図となったのは227選挙区。 実際の選挙では、このうち184選挙区で与党候補が勝利し、与党の勝率は8割以上に達した。 しかし、試算では64選挙区で野党系候補の合算票が与党候補の得票を上回った。 たとえば東京8区では、石原伸晃・前経済再生相(自民)が9万9,863票を獲得して当選したが、立憲民主、希望、共産の3候補の得票を足し合わせると13万票を超える。 立憲民主と希望の2人だけでも11万票余で石原氏を上回る計算だ。
自民党の伊吹文明・元衆院議長が8万8,106票で12回目の当選を果たした京都1区では、共産党の穀田恵二国会対策委員長が6万1,938票を集めた。 穀田氏と希望の嶋村聖子氏の得票を合わせると9万票以上となり、伊吹氏をしのぐ。 一方、与党と野党の「1対1」の対決構図となった57選挙区のうち、与党が勝ったのは39選挙区だった。野党系候補が乱立した場合に比べ、与党は苦戦した――(読売新聞 2017・10・26)
2017年総選挙における各党の比例区票では、自民33.28%と公明12.51%、維新6.07%を合算してみると合計51.88%だが、立憲19.88%、希望17.36%の合計は37.2%で自民の33・28%を上回る。共産7.90%、社民1.69%を足すと合計46.83%だ。しかし小選挙区の恐ろしさである。議席率は自公政権が議席の3分の2以上を占めて、改憲可能な状況が2期連続続いている。少なくとも野党が安倍政権の改憲反対を叫ぶなら、小異を捨てて大同につくのが至上命題だろう。野党統一こそが勝利の可能性を追究してゆく至上命題だ。その可能性を見せたのが、2016年の一人区における野党共闘だ。野党共闘で勝利した11選挙区は、自公の約2割のリベラル票と維新の4割以上、そして無党派層が5割前後は野党に投票している。その教訓に学べと言いたい。(図表参照)
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参議院の議席数と参院選での一人区議席数(毎日新聞 09・5・13)
(『オルタ広場』編集委員 公害問題研究会代表)
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