■ 濱田さんへ 武田尚子
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濱田様: 2011年4月6日
はじめまして。オルタに書かせていただくようになってから、まだ日の浅い武
田尚子と申します。アメリカに住んでおります。このたびの災害は本当にたいへ
んでございました。ご自分の被災状況を詳しく書いてくださったことに感謝して
います。それにしても奥様ともども、ご無事でようございました。肩を痛められ
たようですが、早いご回復をお祈りいたします。
養鶏のお話しなぞ、まったく未知の世界でしたが、1万羽もの鳥たちのお世話
を一体何人でどんな風になさっていらっしゃるのかに好奇心をそそられ、さらに
機械生産にも似た大量飼育をなさりながら、鶏たちの健康のために、全てがビズ
ネスの為とはいえないように見える、真心を注いだ育て方をしていられることに
感動したのが、最初の浜田氏の文章との出会いでございました。それ以来、毎号
深い興味を持って読ませていただいています。
全てのものが不足する中で、鶏たちのために川まで水を汲みに行かれたとのこ
とですが、一体1万羽の鶏には一日にバケツ何杯の水が必要なのでしょう。そし
て地震のとき、鶏たちはどんな風だったのでしょう。ふだんと違う鳴き声とか、
鳥小屋の中での異常な喧騒とか、地がむくむくと波打つようなゆれ方をすれば、
鶏とて異変を感じないではいられないでしょうね。この災害で何羽かを失われた
りはしなかったのでしょうか、などと、私がとり年のせいか、鶏のことがたいへ
ん気にかかります。
数日前、近くに居る日本人の友人が卵を持ってきてくれたのですが、それには
ケースに「地鶏のたまご」と言う筆書きを印刷してあり、割ってみると美しいオ
レンジ色の卵黄が輝いていました。そのお味は超特級で子供のころ毎朝生でいた
だいた卵を鮮明に思い出しました。友人にあえて値段をたづねますと、ほぼ6ド
ルとのことでした。普通の卵は1ダース2,5ドルくらい、オーガニックと銘打
ったものは4,5ドルくらいですから、可なりお高いのですが、味は比較になり
ません。そのお店さえ近ければ、私はいつも其ればかりを買うことでしょう。
いつか、「うちの卵は美味だから、よそより高いが、手間をかけても採算が取
れる」という意味のことを書いていらしたと思います。その通りだと思います。
安い量産製品の氾濫する時代に、手つくりの味を知らないで育った世代には、こ
うした産物の真価は次第に分からなくなってゆくのでしょう。それでも、評価す
る人間はいます。ご健闘ください。
大災害に際して、盗難や略奪さえ皆無の≪筋金入りの日本人の遵奉順法精神≫
が世界をうならせたように、真に価値あるものを守ってゆきましょう。お元気で
おしごとをお続けください。奥様にも、鶏たちにもくれぐれも宜しく。
(米国ニュージャーシー州在住・翻訳家)
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