■海外論潮短評【番外編】              初岡 昌一郎  

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  今月も日本外国人記者クラブ機関誌『ナンバーワン新聞』8月号から、北海道
でのG8サミットを取材したデービッド・マクニール記者の感想の核心部を超訳
的に紹介する。


◇G8からの手紙


  ブッシュ米大統領から10分ばかり離れただけのG8プレスセンターは多数の
警官に囲まれて、地上にこれほど安全な場所はない。道の真向かいにあるセブン
・イレブンに行こうとすると、はるか向こうにある横断歩道を渡れと警官に阻止
された。ゆっくり走っている警備のオートバイ1台以外には車は見当たらないの
に、それでも警官は「ジャパニーズ・ルール、プリーズ」と譲らない。

 センターは許可証携帯者以外入れないのだが、空港以上の警備でテーレコーダ
ーに爆弾が隠されていないか、ペットボトルに爆発物が入っていないかを徹底的
に調べる。"ライジングサン"という民間警備会社が、黒いナチス紛いの制服を着
た警備員を大勢配置している。

 センターから35キロ離れたウィンザーホテルにあるサミット本部から出され
る、見るだけで気が滅入りそうな発表文書を取りに行くのが毎日の仕事だ。サミ
ット中に何回も思ったが、なぜリモートコントロールで記者発表をしないのか。
最もそれでは、誰もその無内容な発表に見向きもしないだろうが。

 活動のクライマックスは、2日目の7月8日、気候変動に関する発表だった。
2050年までに炭酸ガス排出を50%削減する目標が目玉として発表された。
しかし、その文章は回りくどく、内容は明確でない。記者発表文では、待望の画
期的合意だとしているが、その具体的道筋には少しも触れられていない。半減と
いっても、いつのレヴェルを基準にするのか。EU代表団は、京都議定書で19
90年に合意された水準だというし、日本代表団は2008年を出発点にすると
いう。そのような基礎的な合意もない文書だ。

 これを送信すると、ダブリンの『アイリッシュ・タイムズ』外信部長パディ・
スミスはすでに目を覚ましており、「旅費の無駄ずかい」とコメントしてきた。

 イギリスの『ガーディアン』や、BBCは歴史的文書と主催者発表どうりに伝
えたが、NGOが現地で配ったプレス・リリースは、「機会を無駄にした」と手
厳しい。外務省報道官はやや控えめに、「突破口とはいえないが、重要な前進」
と解説する。環境運動家たちは押しなべて手厳しい評価だが、日本政府だけが手
柄話をしている。

 第3日目の主要行事は、主催国日本による記者会見だった。福田首相はまこと
に丁重だが、討議の事実には触れず、あいまいな説明に終始した。早速、「ファ
イナンシャル・タイムズ」の記者が、半減合意の基準年次について質問した。福
田首相の答の通訳では、アーとかエーが連発されるばかりで、意味が通じたのは
「したがって、混乱はありません」という結びだけだった。

 サミット終了後、日本のある雑誌記者が、私に感想を求めてきた。「日本の報
道は発表に忠実だが、外国紙の報道は記者の判断によるところが大きい」と答え
ておいた。

 イタリア人記者が、「50億円も掛けたこのメディアセンターが、会議後は直
ぐに解体されるのを知っている」と大声で問いかける。他の記者が、「金持ち国
の政治家が、高価なシャンペンを飲み、キャビアと乳のみ子豚を食べながら、食
糧危機と飢餓を論議する場だよ」と皮肉る。後に、解体される建物の工事費は、
30億円であり、50億円ではないと外務省から訂正があった。

 会議後、頭をよぎったイメージは、太平洋上を飛んで帰国するテキサスのビジ
ネスマンが、ダイエットコークを飲みながら、「使命達成」とにんまりする図で
あった。

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