【コラム】槿と桜(122)

異常気象

延 恩株

 日本では「異常気象」や「地球温暖化」といった言葉が夏の高温化、冬の温暖化、海水温度の上昇、さらには局地的大雨、洪水、土砂崩れなどが起きるたびに飛び交っていますが、韓国も例外ではありません。
 また、今から15年ほど前にミカンの栽培は韓国の南の島・済州島(제주도 チェジュド)でしかできないと言われていたものが、その栽培地が済州島から北上して韓国本土の南部(全羅南道や慶尚南道)でも栽培できるようになっていると、地球温暖化に警鐘を鳴らす意味で、すでにマスコミでも取り上げられていました。
 こうした現象はミカンだけでなくブドウ、モモ、麦などの栽培地がこれまで生育しなかった地域にまで北上し、リンゴは逆に栽培面積が減少し、2070年には韓国でリンゴ栽培地は消滅するという衝撃的な報道(2023年時点での予測)もありました。
 これらの原因は繰り返しますが、地球の温暖化です。
 そして、今年の2024年9月27日の『KOREA WAVE』では、今夏の記録的な猛暑によって、白菜生産量が極端に減少し、白菜の価格が一束、日本円で1000円前後と大幅に値上がりして、多くの人びとが白菜の購入を控えているとの記事がありました。
 白菜は気温が18~20度程度の低温性野菜であるだけに、白菜の特産地として知られている江原道(강원도 カンウォンド)地域で高温の日が続き、生育状況に大きく影響してしまったわけです。
 韓国ではなぜこの時期、人びとが白菜を求めるのかと言えば、11月頃から年末にかけて韓国人の食卓に欠かせないキムチ(김치 Kimchi)を大量に漬ける「キムジャン」(김장)の季節を迎えるからです。

 このように韓国人の国民食と言えるキムチが異常気象の影響による高騰で、買えない、漬けられないという状況は身近な野菜であるだけに人びとに地球温暖化への不安と危機意識を、日常的な感覚で抱かせたのでしょう。したがって、次のようなアンケート調査結果が出てくるのも当然かもしれません。
 韓国の『中央日報』と東アジア研究院が2024年8月26日から28日までの3日間に全国の成人男女1006人を対象に行ったアンケート調査、「韓国が直面している脅威」とは何かを訊いたもので、その調査結果が10月7日に発表されていました。それによりますと、現時点で韓国人が考える最大の脅威は「気候変動」をあげる人が最多で51.2%、「北韓の核やミサイル」の51.1%より僅かですが超えていました。調査対象人数が限られているため参考程度として見ておくべきでしょうが、気候変動が韓国民に大きな関心を呼び起こしていることは間違いありません。

 年々、夏の猛暑日が増えてきていて、今年も韓国の気象庁(기상청 キサンチョン)の報告によりますと、9月の平均気温と全国平均の猛暑日数が1973年の統計開始以来、最多記録を更新し、なんでも今年6月〜8月までの平均気温が25.6度で、これまでの最高平均気温だった2018年の25.3度を超えて、過去50年間で最高の暑さになったということです。また、この3カ月間の海水温度の平均も23.9度と、この10年間で最も高くなっていました。さらに熱帯夜(日本と同じく、夜間の最低気温が25度以上のこと)の日数は、南部の済州(제주 チェジュ)で56日、ソウル(서울)では39日となったようです。もちろん過去最多でした。
 日本でも真夏日(1日の最高気温が30度以上の日)や猛暑日(1日の最高気温が35度以上の日。2007年以前には日本にこの言葉はありませんでした)が確実に増加していて、2024年6月〜9月初頭までの日本での熱帯夜は東京40日、大阪59日、神戸62日でした。
 このように韓国と日本の熱帯夜だけを比較しても韓国の方が地球温暖化の影響が大きく現われていることがわかります。なぜなら、東京の緯度はおよそ35,6度、ソウルの緯度はおよそ37,3度、日本で同程度の緯度では新潟市あたりになります。韓国は日本より北に位置していますから年間平均気温は日本より低くなります。これまでの統計ではソウルと東京の7月から9月までの月単位の平均気温ではソウルの方が7、8月は約1度、9月は約3度低くなっています。

 それではここで取り上げています熱帯夜についてはどうでしょうか。ソウルが3カ月間で39日だったことは上述しましたが、ほぼ同じ緯度の新潟市は6月が0、7月が3日、8月が13日、9月が1日の合計21日でした(「新潟県新潟市の気温に関する統計情報」より)。
 また、済州島の緯度はおよそ33,2度で日本では長崎、福岡、高知といった地域と似たような緯度となります。これらの地域の6月から8月までの熱帯夜数は、福岡54日、長崎53日、高知49日といずれも済州島の熱帯夜数を下回っていました(ただし、日本は大陸性気候ではありませんので、9月になっても気温が急激に下がるということはなく、熱帯夜が続き、福岡19日、長崎17日、高知12日もありました)。それだけ日本でも、地球温暖化が決して他人事でないことがわかります。

 再度、『中央日報』と東アジア研究院の調査報告に戻りますと、昨年2023年におこなった同一の質問(「韓国が直面している脅威」)に対する解答で、最も多かったのは「北韓の核やミサイル」が56.3%で、「気候変動と環境問題」は41.0%でした。昨年は15ポイントも下回っていたものが、一気に逆転してしまったことになります。
 こうした韓国人の「脅威」を裏づけるように、韓国政府は昨年(2023年)、すでに気候変動対策への取り組みの報告書をまとめています(2023年4月18日公表)が、その中で韓国の温暖化は、世界の平均を上回る速度で進んでいるとしていました。
 それによりますと、1912年から2020年までの109年間で、韓国の年平均気温は1.6度上昇し、世界平均の1.09度を上回り、海水の表層水温は1968年から2017年までの50年間で1.23度上昇し、世界平均の0.48度の2.6倍に達しています。
 こうした温暖化にともなって猛暑、暖冬、厳しい寒波、大雨といった異常気象の発生頻度も増していることが指摘されていました。
 なぜこうした地球温暖化が起き、異常気象が頻発するのか、その理由は世界中の国がわかっています。工場や車、その他などからの排出ガスによるもので、これらは人間がその原因を作っているわけです。
 2024年に公表された光州科学技術院とアメリカのユタ州立大学との共同研究の結果によれば、2030年代以降、朝鮮半島では毎夏、猛暑レベルの暑さが日常化するそうです。ただしこれは何も対策を実施しなかった場合で、対策を実施した場合は「猛暑の日常化」は2040年代中盤以降に遅らせることができるとの見通しを立てていました。
 しかし、それでも人間によって引き起こされている地球温暖化は遅らせることはできても解消することはできませんし、韓国一国だけが排出ガス削減の努力を続けても効果は薄いと言えます。
 この問題は地球規模で、つまり世界中の国が、特に先進工業国が率先して積極的に動かなければならないはずなのですが、各国の思惑が優先されて排出ガス規制の目標数値に届いていないのが現状です。それだけにアジアの先進工業国の韓国や日本が排出ガス削減への努力を積極的に進めていってほしいものです。
 でも残念なことに、世界の動きを見ますと、トランプ次期アメリカ大統領は明確に自国ファースト政策を打ち出していますし、ヨーロッパ諸国の一部や中国もそうした傾向を強めてきています。自国を最優先させる内向き国家運営が強まれば、地球規模で取り組まなければならない問題解決に消極的になる可能性が強まることが危惧されます。
 地球温暖化を食い止める努力を怠れば、やがて〝人類滅亡〟が決してSF世界のことと片付けられない状況に追い詰められていくにちがいなく、その点を私たちはしっかり認識しておかなければならないでしょう。

 大妻女子大学教授

(2024.11.20)
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