【沖縄の地鳴り】

確実に高まるオスプレイ撤去
― 全基地撤去を求める沖縄の声 ―

桜井 国俊


 私の沖縄生活は18年目に入った。那覇市の新都心が見渡せる現在のアパートに居を構えてからでも早いもので14年になる。新都心には新しい建物が次々と建ち、景観は日々変化してきたが、私の居住環境は5年前に激変した。怪鳥ミサゴ(ミサゴの英名は Osprey である)が我が家の上を頻繁に飛び、腹に響く独特の爆音・低周波音が、窓を閉めていても侵入してくるようになったのだ。思わずベランダに飛び出し、その飛行方向を確かめるのが習慣となってしまった。怪鳥は新都心の上を米海兵隊普天間飛行場の方向を目指して飛んでいく。

 ミサゴは沖縄も含め日本全国で見られるタカ科の留鳥で、ホバリング飛行して空中で静止し、急降下して獲物の魚を捕らえるその華麗な姿は多くの人々を魅了している。しかし事故の多さから「未亡人製造機」と恐れられたオスプレイ(米海兵隊に配備されるのはMV22オスプレイ、米空軍に配備されるのはCV22オスプレイ。米陸軍は危険性の故か使用せず)は、沖縄県民の反対を押し切って2012年10月に12機が普天間基地に配備された。9月9日に10万余の県民が結集して「オスプレイ配備に反対する沖縄県民大会」を開催したわずか3週間後のことであった。そこで翌2013年1月27日に沖縄県下の全自治体41市町村の首長・議会議長らは、寒風の中の日比谷集会と銀座へのデモを行い、翌28日には内閣総理大臣宛に「建白書」を提出してオスプレイ配備撤回を求めた。しかし安倍政権はこの沖縄の声に耳を閉ざし、2013年9月には更に12機が追加配備されたのである。1月27日の銀座へのデモの際に、上京団体に投げかけられた「うじ虫、売国奴、日本から出て行け」とのヘイトスピーチは、今に至るも沖縄の人々にとって深刻なトラウマとなっている。

●名護市安部沖でのオスプレイの墜落

 昨年(2016年)12月13日夜、名護市の東海岸安部(あぶ)沖に米海兵隊普天基地所属のオスプレイMV22が墜落し、県民の恐れが現実のものとなった。夜間の空中給油訓練中の事故であった。また、後日判明したことだが、同夜普天間基地に戻った僚機のオスプレイも脚が出ず、胴体着陸した。そして墜落事故の原因究明がなされないまま6日後の12月19日に飛行が再開され、今年の1月6日には空中給油訓練も再開された。防衛省は米軍の訓練再開の発表をそのまま伝えるだけであり、県民の安全を確保する意思も能力もないことが明らかとなった。

 2017年4月2日付け琉球新報紙は、一面トップで「オスプレイ、クラスA事故突出」と報じている。クラスA事故とは、被害総額が200万ドル以上か、死者が出た時などが対象となる。米海兵隊が発表した2012年会計年度から16年度までの5会計年度のMV22オスプレイのクラスA事故率は10万飛行時間当たり3.44件で、同じ会計年度の米海兵隊の航空機全体のクラスA平均値の2.83を上回っている。

 オスプレイの危険性としてよく知られているのは、オートローテーション機能の欠如である。ヘリコプターには、エンジンが止まっても、機体が降下する際の相対的な上昇気流を利用して回転翼(ローター)を回し、揚力を得て比較的ソフトな着陸ができる機能がある。これがオートローテーションである。

 ところがヘリと飛行機のいいとこ取りをしたといわれるオスプレイは、ヘリコプターに比べるとローターが小さくかつ機体が重いため、このオートローテーション機能が欠如している。航空法第10条が定める耐空証明が取れず、民間機であれば同法第11条により飛行が許されない。海兵隊や自衛隊(17機の購入と佐賀空港への配備が計画されている)のオスプレイが飛行できるのは、航空特例法や自衛隊法で航空法の多くの条項が適用除外となっているからである。軍用機に関しては軍事目的が優先し、空の安全が軽視されているのである。

●明らかになった新たな危険性

 今回の墜落事故は、空中給油の際に事故を起こす可能性が非常に高いと言うオスプレイの構造上の欠陥を明らかにした。新たな危険性の浮上である。オスプレイは25名の兵士を載せ、かつ燃料タンクを満タンにして離陸することは出来ない。重すぎるからである。そこで満タンにせずに離陸し、作戦続行のため空中給油するのである。軍事上は夜間の作戦が必要であることから、とりわけ困難な夜間給油に習熟するための訓練が沖縄の東の海のホテル・ホテル訓練区域で行われていたのである。

 オスプレイは、給油を受ける際、飛行機モード(ローターを前面に出す)で飛ぶ。ヘリモード(ローターが上にある)では機体がブレやすく、給油機とのホース接続が極めて困難だからである。しかし大きなローターが前面に出ているため、ローターに給油ホースが衝突し傷つける危険性が高い。前方の給油機が引き起こす後方乱気流によってオスプレイが揺れることでその危険性は更に高まる。固定翼のあるオスプレイは、ヘリよりも後方乱気流の影響を受けやすいことが分かっている。

 自ら認めることはないが、オスプレイが構造的に夜間給油訓練で事故を起こしやすいことを米軍は十分に認識しているはずだ。安部での墜落機の残骸の回収が済まないうちに訓練を再開したのは、事故の原因は米軍にとって自明で、重要なのは事故の防止ではなく、軍事作戦上必要な夜間給油技術の習熟だからである。

●ハワイ事故が明らかにしたあと一つの危険性

 オスプレイにはあと一つ、重要な構造的欠陥がある。それを明らかにしたのが2015年5月17日のハワイのオアフ島のベローズ空軍基地での海兵隊オスプレイMV22の着陸失敗による2名の死亡と20名の負傷事故である。

 オスプレイはヘリに比べれば重い機体をヘリより小さいローターで飛ばさなければならない。そのため、ローターの回転数を上げる必要があり、離着陸の際、通常のヘリの4倍の風速の下降気流が地面を叩きつける。これが埃や砂を舞い上げ、エンジンがそれを吸い込んでタービン翼に固着する。それが揚力を失わせ、着陸失敗となったのである。

 このようにオスプレイには構造的に致命的な欠陥が数々ある。にもかかわらず軍事優先で沖縄の空を飛び回り、危険極まりない低空飛行訓練、夜間給油訓練が繰り返される。辺野古新基地が建設されれば、現在の4倍の100機ものオスプレイが配備されると言われている。墜落の危険性が飛躍的に高まることになる。沖縄に暮らす人々が辺野古新基地の建設とオスプレイの配備に反対するのは当然であろう。

●名護市でのオスプレイ配備撤回決議

 名護市は、1970年に5町村が合併して発足した自治体で55の地区がある。そのうち安部を含む13区は東海岸沿いに展開する旧久志村であり、辺野古新基地建設の地元の辺野古、豊原、久志の久辺3区を含む。この旧久志村の13区が12月21日に、墜落に抗議し、オスプレイの配備撤回を求める決議を行った。苦渋の決断で辺野古新基地建設を容認していると言われる久辺3区を含む形で決議がなされたことは、いかに今回の墜落事故が人々を恐怖させたかを物語っている。

 この13区の決議を受けて55地区からなる名護市区長会は12月26日に、墜落に抗議し、オスプレイ配備の即時撤回を求める決議を採択した。そして直接の当事者の安部区も12月28日に配備撤回、即時飛行中止を求める決議を行った。いずれも画期的なことである。

●オスプレイ学習会・講演会の開催

 オスプレイ配備撤回という県民の要求を実現するには、オスプレイに関する諸々の事柄を徹底的に知る必要がある。なぜオスプレイは危ないのか、オスプレイは沖縄でそして日本本土でどのように導入が計画され、地元となる地域ではどのように反応しているのか、そしてオスプレイはいかなる法的根拠で日本の空を飛んでいるのかなどである。

 そこで筆者もメンバーである「沖縄の基地と行政を考える大学人・研究者の会」は、本年の2月11日、12日、13日に名護市でオスプレイに関する学習会、沖縄大学で講演会、安部区で学習会を開催した。それぞれ約180名、80名、15名の参加があった。講演者は、リムピース編集長の頼和太郎氏(オスプレイの機体と安部の墜落事故について)、オスプレイ東日本連絡会の新倉裕史氏(オスプレイ事故率と飛行訓練関係自治体の動向)、そして日本弁護士連合会人権委員会基地問題調査研究部会副部会長の福田護氏(オスプレイの飛行の法的側面)の3名である。福田氏はビデオによる出演であった。

●連携したフライトプランの開示要求が重要

 頼氏の報告は、上述の通り、機体の構造と軍の論理からオスプレイ墜落の危険性は今後とも高いというものであった。新倉氏の報告は、2017年から横田基地に米空軍のオスプレイCV22が配備され(米国防総省は横田への配備は最長3年延期すると2017年3月13日に発表した)、10県80自治体に及ぶ訓練空域で飛行することからオスプレイの危険性を危惧する声が本土でも高まっており、これらの自治体やそこの住民と連携していくことがオスプレイ配備撤回を求める沖縄の運動にとって重要であろうというものであった。また福田氏は、訓練空域は日米地位協定に定めがなく、法的裏付けがないことを指摘した。2012年10月の普天間へのオスプレイ配備に先立ち、米海兵隊が示した環境レビュー中に示された低空飛行訓練ルートも何ら法的根拠のないものであるとのことだった。

 福田氏が指摘した事柄の中で特に重要だったのは、航空法の多くの規定が米軍機には適用されない中で、航空法第97条(航空計画及びその承認)は米軍機にも適用され、航空計画(フライトプラン)は国土交通大臣に事前に提出されているが、地元自治体に開示はされていないという点である。フライトプランの提出は空の安全のためのものであり、ドクターヘリの運用など民生面での空の安全確保のためにも地元自治体に開示される必要がある。国土交通省と防衛省は「相手のあることであり」として開示に消極的であるが、沖縄の自治体はオスプレイが飛ぶ本土の自治体と連携して集団でフライトプランの開示を求めていくことが重要だ。そうすれば、フライトプランに沿わない危険極まりない飛行の実態が浮かび上がってくるに違いない。

●安全性を偽装する日本政府

 前述のようにオスプレイは2012年10月1日に普天間基地に配備されたが、それに先立つ9月19日に防衛省と外務省はオスプレイの「運用に関する安全性」を発表した。その中で「日米合同委員会合意」として、日本での運用は「低空飛行訓練について、最低安全高度(地上500フィート)以上の高度で飛行」と説明していた。ところが2009年8月31日付けの米海兵隊司令部が出した「オスプレイ戦術即応マニュアル」では「オスプレイの飛行最低高度は地上200フィート」と定めている。名護市安部で墜落したオスプレイの操縦士の物と見られるチェックリストの「レーダー高度」の欄にも手書きで「200フィート」と記入されていた。数々の証拠から、実際の最低安全高度は200フィート(60メートル)に設定されていると見て間違いない。政府の地元への説明と実際の運用は大きく食い違っており、政府は明らかに安全性を誇張している。

●危惧される海の汚染

 あと一つの問題が、墜落したオスプレイがもたらす海の汚染である。残骸の回収に当たった米軍兵士達が白い防護服とマスクという物々しいいで立ちで作業を行ったことから、危険物の存在が危惧されたのである。

 墜落現場の安部の海岸は地元の人たちがイザリ漁(大潮の夜に歩いて行う漁)を行う大切な場所であることから、米軍自身による残骸の回収の他に、地元ボランティアによって清掃活動が繰り返されている。調査に当たった沖縄県は1月20日に「環境汚染なし」との発表を行ったが、それは主に油と放射能が正常レベルにあるということであり、それで懸念が解消したわけではない。
 特に危惧されているのが炭素繊維である。オスプレイでは機体の軽量化を図るため炭素繊維が使用されているが、岩礁に墜落し大破した際に、細塵化して飛散した可能性が高い。またガラス繊維も多用されていると思われるが、粉々になって海の底に沈み、海に潜る人々やジュゴンなどの海棲生物を脅かす恐れがある。3回の学習会・講演会の中で、頼和太郎氏も危険物として炭素繊維の可能性を指摘していた。

 2017年4月1日付けの沖縄タイムス紙は「浜下り 事故の記憶刻む」という見出しで、旧暦3月3日にあたる3月30日にオスプレイ墜落の名護市安部の海で行われた「浜下り(はまうい)」の模様を伝えている。浜下りは奄美・沖縄地方に伝わる年間行事の一つで、女性がごちそうを持って浜辺に行き、潮に手足を浸して清め、健康を祈願する。この日は、県内各地の海岸は潮干狩りなどを楽しむ家族連れなどでにぎわった。沖縄タイムス紙の記事は「昨年の浜下りは安部区内外から浜を埋めるほどの人でにぎわったが、今年は30人ほど。そのうちの一人が貝を掘り出しながら「あの事故があったからかも知れないね」とオスプレイが墜落した沖合を見詰めた」と報じている。

●辺野古座り込み千日集会

 2017年4月1日、辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前での座り込みは大きな節目を迎えた。座り込みは国が辺野古での新基地建設に向けた工事を始めた2014年7月に始まったが、この日、座り込み千日目となったのである。「基地の県内移設に反対する県民会議」の呼びかけで集会が開かれ、約600人が集まり、「勝つまで諦めない」との決意を新たにした。

 またこの日から、岩礁破砕許可が切れた。工事で海底の地形を変えるには、県知事の岩礁破砕許可が必要であるが、仲井眞前知事が与えた岩礁破砕の許可が3月31日で切れたのである。国(沖縄防衛局)は県に更新申請をせず、「無許可」の状態で工事を続けようとしている。申請すれば、翁長知事が知事権限を行使して工事を阻止すると考えているためだ。また国(沖縄防衛局)は、名護漁協に臨時制限区域内の完全な漁業権放棄を依頼し、2017年1月13日に名護漁協と放棄にかかる損失補償契約を結んでおり、名護漁協の漁業権放棄を根拠に施工海域の漁業権は消滅しており再申請の必要はないと主張している。しかしこれは、漁業権の変更(一部放棄)には知事の許可が必要という漁業法の従来の解釈をねじ曲げたものである。この解釈変更には、事業者である防衛省だけでなく、法務省や水産庁など関係省庁が文字通り一体となって当たっている。これが安倍政権の「日本は法治国家である」という主張の実態であり、ここ沖縄では国によるありとあらゆる無法が罷り通っている。

 安部沖での墜落後の国の対応を見て、オスプレイ配備撤回を求める沖縄県民の声は今や臨界点に近づきつつある。そして全基地撤去と自己決定権・自決権の確立を求める運動に向け地下のマグマが急速に膨れ上がりつつある。

 (沖縄大学名誉教授)

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