【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(10)

私のかわいいパキスタン人生徒たち(1)

坪野 和子
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 暑い日が続きます。私の勤務校は日本一暑い熊谷の隣の市である羽生市にあります。住まいの千葉県から埼玉県の乗り換え駅に着くと気温が2度上がり、勤務校ではさらに2度上がります。自宅と4度も気温差があります。
 さて、羽生市は埼玉県内では特別外国人が多いとは言えません。ただ定住外国人の国籍別順位として、中国・ブラジルに次ぎパキスタン人が3番目に多いという特殊な地域事情があります。自動車部品メーカーがあるためではないかと思われます。私の生徒の親御さんは中古車販売(ネットオークション)と解体、部品関係と自動車にかかわる仕事をしていらっしゃいます。

◆ 1.教師は全員日本国籍・私の生徒は全員パキスタン人

 定時制夜間部。初日、国語科の先生から私の生徒が全員パキスタン人男子5人だと説明をいただきました。「アッサラーム・アライクム」(神の平和があなたの上に/こんにちは)とご挨拶したら全員が大人に対する礼儀正しい動作つきご挨拶を返してくれました。挨拶がきちんとできないと言われている日本人の若者よりも家庭や宗教の場でのしつけがきちんとできているようです。
 彼らの良いところを日本出身者に理解していただけるような日本語や対人関係のコミュニケーション能力を身につけるように指導していきたいと思いました。

 「アープ・ケエセエ・ヘーン」(元気?)と続けました。「先生、ウルドゥ語を知っているの?」私はインドにいたことがあって少しだけヒンディがわかる、インド映画はウルドゥ語に近いから少し。挨拶だけですぐに近づきました。「ああ、ウルドゥとヒンディは同じだからね」その日、授業補助に入って「イェ・キャー・ヘーン」(これは何?)「イェ…日本語で繭…」早速試されました。また悪口もちょこっと。

 しかし、彼らのうち、ウルドゥ語を母語とする子は1人だけです。1人はパンジャーブ語(インド諸語)、私の日本語訛りのウルドゥ語?はパンジャーブ語に近いと別の子が言っていました。
 3人はパシュトゥ語(ペルシャ語系列)母語です。主なパシュトゥ語圏は連邦直轄部族地域(FATA)やハイバル・パフトゥンハー(KP)州です。ノーベル賞のマララさんの出身地域です。他の子もカラチやパンジャブ州出身、日本の外務省から危険だから行かないでと止められている地域の出身です。実質亡命までいかなくても、危険回避の移住の子たちです。

◆ 2.ラマダン

 言葉が少しわかることよりも、彼らとすぐに仲良くなれた理由は彼らの文化をある程度知っていて、知っている範囲のことは理解につながっていることのほうが大きいと感じています。勤務初日から職員室で「そろそろラマダンですがどのように対応されているのですか?」と質問。学校側はすでに3年間パキスタン出身の子たちを見ていますので、「ああ、そういえばその時期だ。断食明けの時間10分お祈りと食事のために教室を出ていいことにしています」…ということでラマダン期間の日没時間・お祈り時間の表を職員室の掲示板に貼りました。

 この表は“Muslim-pro”というアプリから取って印刷しました。このアプリをインストールしていたので簡単でした。生徒たちは iPad にこのアプリを入れていたので「誰に教えてもらったの?」と質問しました。「誰かに教えてもらったけれど忘れました」「なぜ入れているの?」「私は仏教徒、インストールしていた理由は私自身の生活リズムで何か一所懸命にやっていたことをリセットするのに必要だった。宗教の良い習慣は自分の生活にも取り入れたかったからね」指導のためでなく、自分のためという答えは彼らにとって嬉しかったようです。日本語指導よりも自分の文化の良さを(彼らから見て)外国人の先生に言われたのですから。

 コーラン朗誦の時間に彼らのアプリではなく私のアプリからコーランが聞こえてしまうことがないような設定はしています。ですが、時々彼らの誰かのアプリから聞こえてきて「私じゃないよ」というと笑いにつながります。断食はお腹がすくことよりも喉が渇くことのほうが辛いようです。「サースティー」。そして、学校が許可した10分間。5分くらい前から心は食事とお祈りです。しかも2回ほど「スペシャルデー」があり、学校早退。行っているモスクで違うようです。

 ラマダンは約1か月続きました。ラマダン明け「イード・モバラク」は欠席・遅刻の生徒が皆無の日に言いました。生徒のひとりが「イーディ(日本でいうお年玉)もらえるの?」と言ったので、「お金をあげるのは日本では問題があるのでお菓子ね」お菓子は日本産だとショートニングや乳化剤が豚由来の可能性があるのでヨーロッパ原産のビスケットを選びました。
 次回に続く。高校生が語る深い話と政治の話。

 (高校日本語講師&専門学校時間講師)

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