【「労働映画」のリアル】

第48回 労働映画のスターたち(48)伊藤 沙莉 と 岡山 天音


清水 浩之

《1994年生まれ・25歳 働く「さとり世代」の気質とは?》

 今からおよそ10年前、「平成生まれ」の新入社員が初めて入って来た頃。僕と同期入社のFくんが管理職の立場から「今の新人は“ゆとり世代”だからなぁ」と心配していたが……いやいやどうして、平成生まれの皆さんは僕らバブルの頃の若者と比べたら、はるかに真面目で優秀だと思う。不況の世の中しか知らずに育ち、大それた夢や欲望を表に出さないことから“さとり世代”とも呼ばれるが、インターネットネイティブで情報の収集と整理が上手く、競合より融和を尊重する性質が、現代の職場での円滑な業務を支えているのは間違いない。

 映画やテレビドラマで描かれる「職場の若手」像について、いまバイプレーヤーとして引っぱり凧の伊藤沙莉(いとう・さいり)さんと岡山天音(おかやま・あまね)さん、共に1994年生まれ・25歳のおふたりの役柄から、その気質を探ってみよう。

 伊藤沙莉さんは2017年のNHK朝ドラ『ひよっこ』で、集団就職で上京した青年に片想いを募らせる米屋の跡取り娘「ヨネ子」役を演じ、全国的に知られるようになった。子どもらしさの残る丸顔に、一度聴いたら忘れられない特徴あるハスキー・ヴォイス。同級生の中に必ずいそうな「世話焼きタイプ」がよく似合う女優さんとして、映画、ドラマ、そしてCMでも、その姿と声の出てこない日はない。
 千葉市の出身で、9歳の時にドラマ『14ヶ月~妻が子供に還っていく~』(2003、読売テレビ)で子役として初出演。10代のあいだはAKB48に代表されるグループアイドルの全盛期。同世代の女の子たちと共にオーディションを受け続けるうちに、次第に現在の「立ち位置」=センターに立つヒロインを引き立たせる、味わい深いキャラクターが培われてきた。

 新垣結衣主演のドラマ『獣になれない私たち』(2018、日テレ)では、社長が主人公ばかり頼って仕事を進めている状況にも、「私、勝とうと思ってないから~」と笑ってやり過ごす同僚の役。主人公みたいに超人的な働き方は、自分にはできない……と諦めているが、「男社会」の中で奮闘するヒロインがピンチに陥った時には、すぐに助け舟を出せる同性。そんな彼女の健気な生き方が、ドラマを視聴する同世代の女性たちの共感を集めた。
 多部未華子主演のドラマ『これは経費で落ちません!』(2019、NHK)でも、慣れない経理の仕事に戸惑いながら、経費の不正使用を追及するヒロインを手助けしようと頑張る後輩の役。常人には見破れない「高度な」不正を巡って火花を散らす先輩たちの丁々発止。それを見守る「常人」としての彼女の視点は、視聴者が自分たちの職場に置き換えて考えるための入口として機能した。

 今年はマクドナルド「大人のクリームパイ」で真木よう子“先輩”から大人の生き方を学んだり、サントリー「伊右衛門プラス」で本木雅弘“先生”に糖質制限の方法を教えられたりと、CMでも「私たち」=働く20代女性のアイコンを演じている。

 一方の岡山天音さんは、柔和な笑顔が魅力的な垂れ目系男子。東京・国立市出身で漫画家を夢見ていた15歳の時、NHK『中学生日記』の公募に合格し、「少年は天の音を聴く」(2009)に本人役で主演。撮影現場の非日常的な空間に魅了されて俳優の道に進んだ。彼もまたオーディションに落ち続けた経験を通して、自らの「立ち位置」=どこのクラスにも必ずいそうな、男同士でつるんでばかりいる、文科系の純朴青年のキャラクターを築いていった。
 多くの人に知られるようになったのは、伊藤さんと同じくNHKの朝ドラ『ひよっこ』(2017)。若き日の藤子・F・不二雄をモデルとした新人漫画家を演じ、ちょっと無謀な「大志」を抱いて貧乏生活を送る姿が人気を集めた。

 これ以降、映画では田舎で暮らすモラトリアム青年を、テレビでは都会で慣れない仕事に悪戦苦闘する若手社員やアルバイトの役を演じることが多い。梅農家の跡取り息子に扮した映画『ポエトリーエンジェル』(2017、監督・飯塚俊光)では、「何もない」故郷でどう生きていくかを見失ったままの、鬱屈した青春を体現した。
 弁当工場を舞台にしたドラマ『週休4日でお願いします』(2019、NHK)では、パートさんのシフトに苦慮する正社員の役。世間体を気にして就職はしたが、仕事にやりがいを見出せない日々を送っていた彼は、趣味を大事にして「週休4日」を希望する同世代の女性(飯豊まりえ)と出会ったことから、働くこと、生きることの意味を見つめ直していく。

 今年の春はマクドナルド「てりたま」のCMで新入社員に扮し、“天使”唐沢寿明の予言通りに出世街道を歩むべきか、自分の未来はそれでいいのか……と悩む役どころを演じた。

 男子が「なぜ働くか」で葛藤しているうちに、女子はさっさと「どう働くか」を見つめている。実際の職場でもよく見られる光景だが、彼たち・彼女たちがこれからどう成長し、第一線で活躍する時代がどうなるか……「先が見えない」今だからこそ、楽しみにしたい。

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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労働映画短信

働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、毎月第2木曜日に労働映画鑑賞会を開催しています。お気軽にご参加ください。(参加費無料・事前申込不要)
・会場:連合会館 201会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)

5月労働映画鑑賞会 中止のお知らせ
 新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受け、5月労働映画鑑賞会の開催中止を決定いたしましたので、お知らせいたします。参加者の皆様、関係者の健康・安全面を第一に考慮した結果であり、ご理解をいただきますようお願い申し上げます。
 なお、6月以降の予定につきましては改めて状況判断を行い、皆様にご報告させていただきます。
 詳しくは、働く文化ネット公式ブログをご確認ください。 http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島!
※《労働映画列島》で検索!  http://shimizu4310.hateblo.jp/

「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」をご紹介します。

 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、政府からの外出自粛要請が続く中、閉館の危機にさらされている全国の小規模映画館を守るためのプロジェクト「ミニシアター・エイド基金」が立ち上げられました。各地のミニシアターを愛する人々の支援をクラウドファンディングで集め、ミニシアターを少し先の未来へと存続させるための活動です。5月14日までに集まった金額が、全国の85劇場・72団体にファンディングされます。
  https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid

日本の労働映画百選

 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会
  http://hatarakubunka.net/symposium.html

「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612

「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077

『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf

日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen.pdf

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