【「労働映画」のリアル】
第49回 労働映画のスターたち(49) 宍戸 錠
《憎みきれない悪漢・・・・
「プロか、バカか」の世界を旅するドン・キホーテ》
「男には二種類しかいない。プロか、バカか」(映画『アゲイン』1984、監督・矢作俊彦)
今年1月に旅立たれたエースのジョー=宍戸錠さん。今から60年前、昭和30年代の日本映画に「ガンマン」「殺し屋」「私立探偵」といった荒唐無稽な職業を成立させられたのは、ジョーさんの才能と努力の賜物だと思う。悪役として登場した筈なのに主人公の味方に回ったり、キザなセリフの中に人懐こいユーモアが込められていたりする、憎みきれない「悪漢」のキャラクターが、幅広い世代に親しまれてきた。
敗戦により「兵隊にとられる」心配がなくなり、その代わりにアメリカ製の西部劇やギャング映画に憧れた男の子たちは、大きくなると探偵小説雑誌「宝石」(1946年創刊)や「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」(1953年創刊)を愛読する。やがて大藪春彦らがハードボイルド小説を、さいとう・たかを達が「劇画」を生み出し、上野のアメ横で売られていたモデルガンのブームも到来した。「読書による人格形成」を目指した戦前の教養主義とは明らかに違う、元祖オタク世代と呼べそうな《戦後育ち》の若者。その一人として社会に出たジョーさんも、騎士道物語を読み過ぎて虚実の境を超えてしまったドン・キホーテのように、人生とフィクションを両立させ、「楽しんで生きる」道を、後に続く世代に示してくれた。
1933年生まれ。東京・滝野川にあった家は1945年4月の空襲で焼かれ、疎開先の宮城県で高校卒業まで暮らす。日大芸術学部演劇科在学中の1954年、映画製作を再開する日活が募集したニューフェイス試験に合格。森繁久彌主演『警察日記』(1955、監督・久松静児)で若い巡査役に抜擢された頃は細面の美男子だったが、映画界の先輩たちから「生意気な新人」としてマークされてしまい、役がつかなくなる。
そんな時、オーディション会場で大女優の田中絹代から「前歯が大き過ぎね。差し歯になさい」とアドバイスされたことに触発され、まだ美容整形が珍しかった時代に、あえて「ふてぶてしく」見える豊頬手術に踏み切った。
同じ頃、「太陽族」ブームとともに年下の石原裕次郎、小林旭らが日活に入社。戦後に育った世代の屈託のない佇まいが若い観客に熱狂的に支持されたため、企画の方向性も若者向けのアクション映画にシフトする。先輩格のジョーさんは彼らの敵役に回り、ヒーローにはできない悪事を一手に引き受けた結果、水を得た魚のような活躍が始まった。
アメリカの探偵小説やギャング映画で親しんできた言葉遣いやファッションなどの知識を活かし、自ら注文した衣裳でカメラの前に立ち、台本に書かれたセリフの合間に、「どうも雑用が多くていけねぇ」「キザだって? むしろ文学的と言っていただきたい」といった軽口を挟み込む。その面白さが「わかる」若い観客が褒めると、次の作品ではスタッフや共演者も好きにやらせてくれるようになる。こうした好循環が毎週2本立・年間100本ペースの量産体制で加速した結果、「無国籍活劇」と呼ばれた路線が確立されていった。
1959年の『ギターを持った渡り鳥』(監督・斎藤武市)での、港町・函館を訪れたアキラの前に立ちはだかる「殺し屋ジョージ」役が注目され、以後「渡り鳥」「流れ者」などのシリーズでアキラと共演する。翌60年、“トニー”こと赤木圭一郎主演の『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』(監督・野口博志)では、射撃の名人・竜を好敵手として付け回す「コルトの銀」役。竜に頬を叩かれ、唇から出血したことに気づいた銀は、ニヤリと笑ってこう呟く。
「俺のツラに色をつけたのはお前で3人目だ。前の2人は墓の下でおねんねしてらぁ」
主役より愛されるようになった悪役はようやく主役の座を勝ちとり、1961年の『ろくでなし稼業』(監督・斎藤武市)、62年『危(ヤバ)いことなら銭になる』(中平康)、63年『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』(鈴木清順)などの軽妙洒脱なアクションコメディを、二谷英明、浅丘ルリ子、金子信雄などなど、気心の知れた「チーム日活」とともに送り出す。
一方で本格的なハードボイルド志向も根強く、1967年には『拳銃(コルト)は俺のパスポート』(監督・野村孝)、『殺しの烙印』(鈴木清順)、『みな殺しの拳銃』(長谷部安春)の3作に相次いで主演。30代に入ったジョーさんはそれまでの陽気さを封印し、組織の中で生きるスペシャリストが自らのプライドに苛まれ、疲弊していく姿を見事に演じた。
その後もジョーさんは、日本的な風土とは一線を画した「朗らかな悪漢」として、ドラマやバラエティ番組でも活躍。彼が生涯を通して演じ続けた「エースのジョー」とは、人生には魅力的な「フィクション」が必要だと教えてくれる、不朽のアンチヒーローだ。
(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月第2木曜日に労働映画鑑賞会を開催しています。お気軽にご参加ください。(参加費無料・事前申込不要)
・会場:連合会館 201会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)
◇3月から5月にかけての鑑賞会は、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を受け、開催を中止しました。6月以降の予定につきましては、あらためて状況の判断を行い、皆様にご報告させていただきます。
詳しくは、働く文化ネット公式ブログをご確認ください。
http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/
◎【上映情報】労働映画列島!
※《労働映画列島》で検索! http://shimizu4310.hateblo.jp/
■「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」
新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、政府からの外出自粛要請が続く中、閉館の危機にさらされている全国の小規模映画館を守るためのプロジェクト「ミニシアター・エイド基金」が立ち上げられました。クラウドファンディングは5月15日に終了し、2万9,926人から総額3億3,102万5,487円の支援が寄せられました。集まった支援は全国の118劇場・103団体へ分配されます。1団体あたりの平均額は約303万円です。
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid
◇営業中・再開決定の映画館(5月20日現在)
<北海道・東北>
【青森】青森シネマディクト/青森コロナシネマワールド/イオンシネマ弘前/フォーラム八戸/TOHOシネマズおいらせ下田
【秋田】イオンシネマ大曲
【岩手】フォーラム盛岡/盛岡中央映画劇場/盛岡ピカデリー・盛岡ルミエール/一関シネプラザ/イオンシネマ北上
【山形】フォーラム山形/ムービーオンやまがた/イオンシネマ天童/フォーラム東根/イオンシネマ米沢/イオンシネマ三川
【宮城】TOHOシネマズ仙台/フォーラム仙台・チネラヴィータ/MOVIX仙台/イオンシネマ名取/MOVIX利府/ユナイテッド・シネマ フォルテ宮城大河原/シネマ・リオーネ古川/109シネマズ富谷/イオンシネマ石巻
【福島】フォーラム福島(5/22から)/ポレポレシネマズいわき小名浜(5/29から)
<関東>
【栃木】宇都宮ヒカリ座/TOHOシネマズ宇都宮/MOVIX宇都宮/フォーラム那須塩原/ユナイテッド・シネマ アシコタウンあしかが/小山 シネマロブレ(5/22から)/小山 シネマハーヴェストウォーク(6/5から)
【茨城】日立 シネマサンライズ(5/22から)/土浦セントラルシネマズ(5/23から)/瓜連 あまや座(5/23から)
<甲信越>
【長野】長野相生座・ロキシー/長野千石劇場・シネマポイント/長野グランドシネマズ/松本シネマライツ/イオンシネマ松本/岡谷スカラ座/佐久アムシネマ/塩尻東座/飯田トキワ劇場/飯田センゲキシネマズ/伊那旭座/茅野新星劇場
【新潟】新潟 シネ・ウインド/ユナイテッド・シネマ新潟/イオンシネマ新潟西/イオンシネマ新潟南/JMAXシアター上越/上越 高田世界館/燕 イオンシネマ県央/佐渡 ガシマシネマ(6/3から)
<北陸>
【富山】富山 JMAXシアターとやま
【福井】福井コロナシネマワールド/福井 テアトルサンク(5/21から)/福井 メトロ劇場(5/23から)
<東海>
【静岡】静岡東宝会館/静岡 シネシティザート/MOVIX清水/浜松 シネマイーラ/TOHOシネマズ浜松/TOHOシネマズ サントストリート浜北/TOHOシネマズららぽーと磐田/イオンシネマ富士宮/シネマサンシャイン沼津/シネマサンシャインららぽーと沼津/南駿 シネプラザサントムーン/静岡シネ・ギャラリー(5/29から)
【愛知】名古屋 中川コロナシネマワールド/小牧コロナシネマワールド/安城コロナシネマワールド/豊川コロナシネマワールド/刈谷日劇/名古屋シネマテーク(5/20から)/名古屋 ミッドランドスクエアシネマ(5/22から)/名古屋 伏見ミリオン座(5/22から)/名古屋 シネマスコーレ(5/23から)/名古屋 名演小劇場(5/23から)
【岐阜】岐阜CINEX/大垣コロナシネマワールド/関 シネックス・マーゴ
【三重】イオンシネマ津/イオンシネマ津南/109シネマズ四日市/松阪大映/イオンシネマ桑名/イオンシネマ東員/イオンシネマ鈴鹿/109シネマズ明和/伊勢 進富座(5/30から)
<関西>
【和歌山】ジストシネマ和歌山/ジストシネマ田辺/新宮 ジストシネマ南紀/ジストシネマ御坊
【奈良】シネマサンシャイン大和郡山
【京都】京都文化博物館フィルムシアター(5/20から)/京都 千本日活(5/20から)/京都シネマ(5/22から)/京都 出町座(5/22から)/舞鶴八千代館(5/22から)/福知山シネマ(5/22から)/京都 おもちゃ映画ミュージアム(6/3から)
【大阪】大阪 国名小劇/大阪 上六シネマ/大阪 新世界国際劇場(5/21から)/大阪 新世界日劇シネマ(5/21から)/大阪 第七藝術劇場・シアターセブン(5/23から)/大阪 シネ・ヌーヴォ(6/1から)
【兵庫】シネマ神戸(5/23から)/神戸 パルシネマしんこうえん(5/29から)/豊岡劇場(5/29から)/神戸 元町映画館(5/30から)/宝塚シネ・ピピア(6/1から)/神戸アートヴィレッジセンター(6/1から)/神戸映画資料館(6/6から)
<中国>
【岡山】岡山メルパ/岡山シネマ・クレール/イオンシネマ岡山/MOVIX倉敷
【広島】広島映像文化ライブラリー/広島 横川シネマ/広島 横川有楽座/109シネマズ広島/呉ポポロシアター/福山エーガル8シネマズ・福山駅前シネマモード/福山コロナシネマワールド/シネマ尾道(5/23から)/広島 サロンシネマ・八丁座(5/29から)
【山口】宇部 シネマ・スクエア7/下松 MOVIX周南/イオンシネマ防府/シネマサンシャイン下関/萩ツインシネマ/山口情報芸術センター(6/4から)
【鳥取】倉吉 シネマエポック/MOVIX日吉津
【島根】松江東宝5
<四国>
【香川】高松 ホール・ソレイユ/イオンシネマ高松東/イオンシネマ宇多津/イオンシネマ綾川
【徳島】イオンシネマ徳島/シネマサンシャイン北島
【愛媛】松山 シネマ・ルナティック/松山 シネマサンシャイン大街道/松山 シネマサンシャイン衣山/松前 シネマサンシャインエミフルMASAKI/東温 シネマサンシャイン重信/TOHOシネマズ新居浜/ユナイテッド・シネマ フジグラン今治/イオンシネマ今治新都市
【高知】高知 あたご劇場/TOHOシネマズ高知
<九州・沖縄>
【福岡】小倉コロナシネマワールド/小倉昭和館(5/22から)/シネプレックス小倉(5/22から)/小倉名画座(5/22から)/福岡 中洲大洋映画劇場(5/22から)
【佐賀】佐賀 シアター・シエマ/109シネマズ佐賀/イオンシネマ佐賀大和
【長崎】長崎セントラル劇場/TOHOシネマズ長崎/佐世保 シネマボックス太陽
【熊本】ユナイテッド・シネマ熊本/嘉島 イオンシネマ熊本/本渡第一映劇/熊本 Denkikan(5/29から)
【大分】大分 シネマ5/別府ブルーバード劇場/日田 シネマテーク・リベルテ/中津 セントラルシネマ三光
【宮崎】宮崎キネマ館/セントラルシネマ宮崎/延岡シネマ/都城 シネポート
【鹿児島】鹿児島ガーデンズシネマ/鹿児島 天文館シネマパラダイス/鹿児島ミッテ10/鹿児島 TOHOシネマズ与次郎/鹿屋 リナシアター/シネマサンシャイン姶良/奄美 ブックス十番館シネマパニック
【沖縄】那覇 桜坂劇場/那覇 首里劇場
◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。
『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会
http://hatarakubunka.net/symposium.html
・「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催(働く文化ネット公式ブログ)
http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612
・「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション(働く文化ネット公式ブログ)
http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077
・『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)PDF
http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf
・日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)PDF
http://hatarakubunka.net/100sen.pdf
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