【「労働映画」のリアル】

第50回 労働映画のスターたち(50) 小芝風花 と 黒島結菜

清水 浩之

《コロナの春に奮闘する23歳 「新卒世代」のヒロインふたり》

 「コロナの春」となった2020年、日本の職場では入社式すら開けない状況が続いています。新社会人の皆さんにとっても、いきなり困難な門出となってしまいましたが、「人生、何が起こるかわからない」という経験は、今後必ず生かされるはずです。気長に、あせらずに、お仕事に馴染まれていくことを願います。あらためまして、おめでとうございます。

 さて、テレビの世界でも3月後半から撮影がストップし、放送が延期されたドラマシリーズが相次いだ。13年ぶりの続編『ハケンの品格』(日テレ)は6月中旬にようやく始まり、7年ぶりの新作『半沢直樹』(TBS)は現時点で未定のまま。実績あるベテランたちが「#StayHome」を余儀なくされる中、撮影開始が早かったため予定通りスタートできたのが『美食探偵 明智五郎』(日テレ)と、『行列の女神~らーめん才遊記~』(テレ東)。
 今年23歳になった「新卒世代」のふたりの女優 ― 小芝風花(こしば・ふうか、1997年4月生まれ)と黒島結菜(くろしま・ゆいな、1997年3月生まれ)が、2020年の「いま」を象徴するヒロインとして目覚ましい働きをしたことを記録しておきたい。

 東村アキコの漫画を原作とした『美食探偵』は題名の通り、美食家の青年探偵・明智(中村倫也)が、食にまつわる殺人事件の謎を解き明かすミステリー・コメディ。小芝さんが演じるヒロイン・小林苺はワゴン販売のお弁当屋さんで、常連客の明智に料理人としてのスキルを買われ、いつの間にか「探偵助手」として働かされることに。
 ホームズにワトソン、明智に小林。名探偵の相棒は、いつも私たち観客の目や耳となって事件を伝える。吉本新喜劇のようにハイテンポな展開の中で、小林は毎回猛スピードで事件に「巻き込まれ」、真相に辿り着く重要なヒントに「ぶち当たる」。高貴な美男子に徹した中村くんと、献身的にコメディエンヌを務める小芝さん。冷酷で情熱的な二十面相=小池栄子さんも含めた3人のアンサンブルが見事で、春のドラマの中でも出色の盛り上がりを生んでいる。

 大阪府出身の小芝さんは、フィギュアスケート選手から演技の世界に転じ、実写版映画『魔女の宅急便』(2014、監督・清水崇)で初主演。NHK大阪局の朝ドラ『あさが来た』(2016)での、主人公の女性実業家(波瑠)に反撥する娘役で広く知られるようになった。
 一見おっとりしたお嬢さんだが実は気が強く、大胆な発言や行動も辞さない役柄がよく似合う。映画『天使のいる図書館』(2017、監督・ウエダアツシ)では、奈良で働く堅物の新人司書。ドラマ『新・ミナミの帝王 ニンベンの女』(2018、関テレ)では、亡き父の仇をとるため大阪の裏社会に飛び込んだ娘。

 同じく大阪出身の沢口靖子さんの若い頃を髣髴とさせる…と思っていたら、テレ東の深夜ドラマ『マッサージ探偵ジョー』(2017)では、陽気なお姉ちゃんに大変身(この鮮やかな切り替えも、沢口さんに似ているかも)。去年=2019年は、自分の趣味をオープンにできない「こじらせOL」の葛藤を描いたドラマ『トクサツガガガ』(NHK名古屋局)での熱演が高く評価された。その後も若手漫才師に扮した『べしゃり暮らし』(テレ朝)、首都直下地震という極限状況の中で懸命にニュースを伝えるキャスターを演じた『パラレル東京』(NHK)などなど、休む間もない感じで出演作が続いている。

 テレ東のドラマBiz第9弾『行列の女神』は、久部緑郎・原作、河合単・作画の漫画を基に、ラーメン業界の舞台裏を描く、テレ東お得意の「B級グルメ」と「経済」の両方が味わえる好企画。黒島さんが演じるヒロイン・汐見ゆとりは、創作ラーメンのカリスマ(鈴木京香)の会社に押しかけてきた就活女子。濃紺のリクルートスーツに一つ結びのまとめ髪、どこにでもいそうな新社会人の視点から、起業ブームに沸くラーメン店の光と影、「客が求めているのは美味しさより“わかりやすさ”」といった身もフタもない業界事情を観察していく。
 まだ何も知らないくせにズケズケと物申す、職場の先輩にとっては「カワイイけどウザい」後輩……だがその姿は新人の頃の自分にそっくりというもどかしさ。小動物系のキュートな笑顔と、力むとすぐに裏返る(しゃくり上げる)声が持ち味の黒島さんが、役柄に見事にハマった。

 沖縄県出身で、CMなどでのモデル活動から演技の道へ。NHK広島局の戦後70年記念ドラマ『一番電車が走った』(2015)での、路面電車の運転士として8月6日の朝を迎えた女学生役で注目される。
 ショートカットの元気溌溂スポーツ少女というイメージで親しまれ、最初の代表作となったのが2018年のタイムスリップ時代劇『アシガール』(NHK)。500年前の戦国時代に紛れ込んでしまった女子高生が、戦場で出会った若君様(健太郎)に一目ぼれし、歴史の授業で知った彼の悲運を変えようと奮闘する。足軽姿で軽快に走り回るボーイッシュな姿に、老若男女を問わずファンが急増した。
 その後も映画『カツベン!』(2019、監督・周防正行)や朝ドラ『スカーレット』(2019、NHK大阪局)などで、屈託のないお嬢さん役を好演。何かと暗い世の中に明るい笑顔を届けてくれる、貴重な存在だ。

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信

◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、毎月第2木曜日に労働映画鑑賞会を開催しています。お気軽にご参加ください。(参加費無料・事前申込不要)
・会場:連合会館 201会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)

◇3月から5月にかけての鑑賞会は、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を受け、開催を中止しました。7月以降の予定につきましては、あらためて状況の判断を行い、皆様にご報告させていただきます。
詳しくは、働く文化ネット公式ブログをご確認ください。
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島!6月~7月
※《労働映画列島》で検索!  http://shimizu4310.hateblo.jp/

◇新作ロードショー

『ハニーランド 永遠の谷』《6月26日(金)から 東京 アップリンク渋谷ほかで公開》
 バルカン半島・北マケドニアの村で暮らす自然養蜂家の女性。「半分だけもらう」持続可能な生活を追ったドキュメンタリー。(2019年 北マケドニア 監督/タマラ・コテフスカ、リュボミル・ステファノフ) http://honeyland.onlyhearts.co.jp/
『マルモイ ことばあつめ』《7月10日(金)から 東京 シネマート新宿ほかで公開》
 1940年代、日本統治下のソウル。使用を禁じられた母国語を守るため、全国から言葉を集めて辞書を作る人々の苦闘を描く。(2019年 韓国 監督/オム・ユナ) https://marumoe.com/
『パブリック 図書館の奇跡』《7月17日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》
 オハイオ州シンシナティを襲った記録的な大寒波。行き場を失ったホームレスたちを守るため、図書館員たちが行動を起こす。(2018年 アメリカ 監督/エミリオ・エステべス)  https://longride.jp/public/

◇名画座・特集上映

<全国>
【TOHOシネマズ 全国60館】 6/5~7/23「男はつらいよ 4Kデジタル修復版上映」…男はつらいよ/柴又慕情/寅次郎忘れな草/知床慕情/花も嵐も寅次郎/寅次郎紅の花/他

<北海道・東北>
【札幌 シアターキノ】「KINOフライデーシネマ」…6/26 一人の息子 7/3 愛国者に気をつけろ!鈴木邦男 7/10ダンシングホームレス 7/17 ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ 7/24 ハワーズ・エンド
【フォーラム福島】 6/26~7/16「若尾文子映画祭」…赤い天使/刺青/ぼんち/華岡青洲の妻/女系家族/お嬢さん/しとやかな獣/赤線地帯/他

<関東・甲信越>
【東京 神保町シアター】 6/13~7/3「没後35年 源氏鶏太と大衆小説の愉しみ」…人間模様/大願成就/珍品堂主人/かくれた人気者/生きとし生けるもの/娘の中の娘/霧ある情事
【東京 ラピュタ阿佐ヶ谷】 6/17~7/18「酔っぱらい映画祭」…江分利満氏の優雅な生活/泣き濡れた春の女よ/軍国酒場/ほろよひ人生/どぶろくの辰/たそがれ酒場/父子草/他
【東京 渋谷 ユーロスペース】 6/26~30「浪曲映画祭─情念の美学2020」…韋駄天数右衛門/母の瞳/祖国の花嫁/招集令/忠次旅日記/岸壁の母/浪曲師になってしまった!/他
【横須賀HUMAXシネマズ】 6/5~7/16「鎌倉・松竹大船撮影所が生んだ 松竹クラッシック傑作選」…晩春/麦秋/東京物語/幸福の黄色いハンカチ/遥かなる山の呼び声/他
【長野 松竹相生座・ロキシー】 6/13~7/31「ミシェル・ルグランとヌーヴェルヴァーグの監督たち」…ローラ/シェルブールの雨傘/5時から7時までのクレオ/ロバと王女/女は女である/他
【佐渡 相川 ガシマシネマ】 7/1~31「東西の古老」…花のあとさき ムツばあさんの歩いた道/テリー・ギリアムのドン・キホーテ

<東海・北陸>
【金沢 シネモンド】 6/20~26「アニエス・ヴァルダ特集」…アニエスによるヴァルダ/ラ・ポワント・クールト/ダゲール街の人々 【岐阜 ロイヤル劇場】 6/27~7/10「文芸映画の巨匠 豊田四郎監督特集」…台所太平記/珍品堂主人(週替り)

<関西>
【京都シネマ】「名画リレー」 6/26~7/2 続・荒野の用心棒 7/3~9 フルートベール駅で 7/17~23 マイライフ・アズ・ア・ドッグ 7/24~30 嘘八百 京町ロワイヤル
【大阪 新世界国際劇場】 6/24~30 ハスラーズ/ダウントン・アビー/完璧な他人(3本立) 【神戸 元町映画館】 6/27~7/3「福間健二監督特集」…急にたどりついてしまう/岡山の娘/わたしたちの夏/あるいは佐々木ユキ/秋の理由

<中国・四国>
【広島市映像文化ライブラリー】6/18~28「映画/批評月間 フランス映画の現在vol.01」…ポール・サンチェスが戻ってきた!/マイ・レボリューション/ソフィア・アンティポリス/宝島/他
【高知 喫茶メフィストフェレス】「ゴトゴトシネマ」…6/20・21 第三夫人と髪飾り 6/27 少女は夜明けに夢をみる/アレッポ 最後の男たち 7/11~17 リンドグレーン/気候戦士 7/18~24 風の電話 【徳島市シビックセンター】「徳島でみれない映画をみる会」…7/19 私のちいさなお葬式 7/23 エセルとアーネスト ふたりの物語 8/16 存在のない子供たち

<九州・沖縄>
【福岡市総合図書館映像ホール シネラ】 6/17~7/26「イラン映画特集」…ハーモニカ/春へ/鍵/バデュク 砂漠の少年/神さまへの贈り物/ぼくは一人前/としごろ/私は15歳/他
【福岡 KBCシネマ】「ONE SHOT CINEMA」…7/7 ジョン・デロリアン 7/14 春画と日本人 7/21 虚空門GATE 7/28 スピリッツ・オブ・ジ・エア
【鹿児島 ガーデンズシネマ】 6/6~7/17「京マチ子映画祭」…雨月物語/羅生門/地獄門/偽れる盛装/鍵/黒蜥蜴

◎日本の労働映画百選

 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会
  http://hatarakubunka.net/symposium.html

・「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612

・「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077

・『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf

・日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen.pdf

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