【「労働映画」のリアル】

第64回 労働映画のスターたち(64)福原 遥

清水 浩之

《今年の新入社員、MVPは「映(ば)える」ひよっ子》

 今や日本の伝統文化とも言える「お仕事ドラマ」の系譜。毎年4月スタートの作品では、時代の空気を反映させた新入社員がしばしば登場してきた。

 銀行を舞台にした『熱血!新入社員宣言』(1991・TBS)あたりから、ルーキーは職場のドラマに欠かせない存在となり、石田ひかりが商社の新入社員に扮したヒット作『悪女(わる)』(1992・読売テレビ)は、今年の春、今田美桜主演で30年ぶりにリメイクされた。時代ごとの働き方の変容はドラマにも影響し、2016年春の『ゆとりですがなにか』(日テレ)では、新人への指導がパワハラにあたるかどうかで悩む先輩も登場した。

 そして2022年の春ドラマ。新入社員の「MVP」を選ぶなら、NHK『正直不動産』、WOWOW『今どきの若いモンは』の2作に出演した福原遥さんで決まりだろう。どちらもマンガを原作としたサラリーマン社会の群像劇。令和の時代ならではの「健気さ」と「自己肯定感の低さ」を併せ持つ、スロースターターの大器晩成型新人が、ドラマを軽やかに牽引した。

 『正直不動産』の主人公は、「山P」こと山下智久扮するイケイケの不動産営業マン・永瀬。地鎮祭のときに祠を壊した祟りで嘘がつけなくなり、不本意ながら「正直」な営業に徹する破目になる。

 永瀬の下に配属されたのが新入社員・月下。「カスタマーファースト」をモットーに掲げる(志だけは高い)若者で、本来なら不動産の営業職には不向きなタイプだが、「正直者」の先輩の仕事ぶりを見習って、顧客のために日々汗を流す営業スタイルを切り拓いていく(顧客第一主義が度を超し、突飛な依頼を真に受けて「ステキな事故物件、見つけましょうね!」なる迷言も飛び出す)。「永瀬せんぱ~い!」と後を追いかけるひよっ子が、アクの強い面々が揃う不動産屋の社内を和ませる。

 一括借り上げとサブリース(又貸し)の違い、リバースモーゲージ(自宅を担保にした融資制度)のメリットとデメリット…といった不動産知識とともに、様々な家族のドラマが丁寧に描かれていく。マンションの管理委託料、地面師の手口など、不動産業界の裏側も学べることから、最終回の前から再放送が繰り返される人気作となった。

 一方、『今どきの若いモンは』の舞台は商社の営業部。課長・石沢(反町隆史)が題名通りのオヤジワードを呟きつつ、実際のところは「若いモン」たちを優しくフォローし、真心こめて育てる……今どきの「理想の上司」を描くサラリーマン・コメディ。約10分の短いエピソードで22話と、ネット配信を意識したフォーマットになっている。

 石沢の課に配属されたのが新入社員・麦田。誠実な性格で仕事に取り組むが、「右も左もわからない」不安を常に抱えている。先輩に注意されるたびにしょげた顔になり、上司に呼び止められただけで「叱られるのでは……」と怯えた表情を浮かべる。そのひよっ子な佇まいが「映(ば)える」新入社員だ。

 『GTO』(1998・関西テレビ)などの青春ドラマで人気を集めた反町さんも、今やアラフィフ世代。「新入社員の親」世代となった上司が、自らの仕事人生で積み重ねた経験や反省をふまえ、言いたい事も言えないPOISONな世の中を生きる「今どきの若いモン」と、どう付き合うか考え続ける。ドラマを見た年寄りは若いモンを、若いモンは年寄りを、あらためて観察したくなるのが良いと思う。

 このあと福原さんは、10月スタートのNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』のヒロインを務める。今年は国民的スターへの道を一気に駆けのぼる、大ブレイクの年となった。

 1998年生まれ、もうすぐ24歳。10歳の時にNHK-Eテレの子供向け料理番組『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』(2009)の主役に選ばれ、その後は常にカメラの前で成長を続けてきた。いくつもの学園ドラマや恋愛コメディで抜群の巧さを見せてきたので、朝ドラのヒロインとしての期待は大きい。あとは現在放送中の「米軍基地の出てこない沖縄本土復帰ドラマ」のような大惨事が起こらないことを祈ります。

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。次回は9月8日(木)の予定です。
・働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島!7月~8月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/

◇新作ロードショー
あなたと過ごした日に 《7月20日(水)から 東京 恵比寿 写真美術館ほかで公開》
1970年代のコロンビア。公衆衛生の専門家が自由で平等な社会の実現に取り組む姿を、息子の視点から描く。 (2020年 コロンビア 監督/フェルナンド・トルエバ)
https://www.amped.jp/anatato/

ハーティー 森の神 《7月29日(金)から 東京 新宿ピカデリーほかで公開》 野生のゾウたちと暮らす男が、リゾート開発計画から森林を守るために闘う、アクション・アドベンチャー大作。(2021年 インド 監督/プラブ・ソロモン)
https://haathi-movie.com/

アンデス、ふたりぼっち 《7月30日(土)から 東京 新宿 K’s cinemaほかで公開》 
アンデス山脈、標高5,000mの高地で暮らす老夫婦。都会に出た息子の帰りを待ち続ける二人きりの生活を描く。(2017年 ペルー 監督/オスカル・カタコラ)
https://www.buenawayka.info/andes-futari

とら男 《8月6日(土)から 東京 渋谷 ユーロスペースほかで公開》
未解決のまま時効が成立した殺人事件。元刑事が独力で再捜査を始める。実在の元刑事・西村虎男氏が本人役で主演するミステリー作品。(2021年 日本 監督/村山和也)
https://torao-film.com/

◇名画座・特集上映
▼全国
【シネマテークたかさき/他】 7/24~8/5「夏休みの映画館」…月世界旅行/荒武者キートン/セロ弾きのゴーシュ/キャロル/タレンタイム 優しい歌/ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記/他
【京都 出町座/他】 7/29から「追悼上映 “アディバ先生”ありがとう」…タレンタイム 優しい歌/細い目/ムクシン

▼北海道・東北
【砂川市地域交流センターゆう】 7/23・24「ゆうシアター 現代監督の足跡」…幻の光/愛を乞うひと/GO/ゆれる
【能代市文化会館/能代図書館】 7/30・31「第6回 能代おもしろ映画祭り」…煙突の見える場所/名もなく貧しく美しく/裸の島/この広い空のどこかに/パーソナル・ソング/他
【フォーラム山形】 7/15~8/25「山をめぐる映画の旅」…杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦/神々の山嶺/山歌/アルピニスト/チロンヌプカムイ イオマンテ/他

▼関東・甲信越
【野田市中央公民館】 8/6「シネマクラブのだ」…カマグロガ(2020年 スペイン 監督/アルフォンソ・アマドル)
【東京 京橋 国立映画アーカイブ】 8/2~28「生誕120年 映画監督 山本嘉次郎」…馬/青春酔虎伝/藤十郎の恋/春の戯れ/明日を創る人々/ホープさん/マナスルに立つ/他
【東京 ラピュタ阿佐ヶ谷】 8/14~10/24「昭和の銀幕に輝くヒロイン 第102弾 望月優子」…晩菊/おふくろ/米/うなぎとり/荷車の歌/二人の息子/かあちゃん/他
【松本CINEMAセレクト】 7/24「活弁でウクライナ問題を考える」…戦艦ポチョムキン/チャップリンの冒険 弁士:片岡一郎 楽師:上屋安由美

▼東海・北陸
【富山 ほとり座】 7/23~29 弁当の日-「めんどくさい」は幸せへの近道(2021年 監督/安武信吾)
【羽島市映画資料館】「映画のつどい」…8/13 大空のサムライ 9/10 螢川 10/8 遠き落日

▼関西
【京都 出町座】 8/5~11「変容都市 ベルリン」…ベルリン・アレクサンダープラッツ/時の翼にのって/人民警察/晴れた日/伯林 大都会交響楽/他
【奈良 ホテル尾花 桜の間】 7/22~24「尾花座復活上映会2022」…茜色に焼かれる/ぼけますから、よろしくお願いします。/わたしは光をにぎっている
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 7/23~8/26「生誕90年 映画監督 大島渚」…太陽の墓場/ユンポギの日記/忍者武芸帳/少年/御法度/アジアの曙/他
【神戸映画資料館】 8/13・14「国立映画アーカイブ所蔵 外国無声映画傑作選 vol.1」…トルブナヤ通りの家(1928年 ソビエト)/東洋の秘密(1928年 仏=独)

▼中国・四国
【広島市映像文化ライブラリー】 7/30・31「サウンド・アンド・サイレント」…カメラを持った男/日曜日の人々 ピアノ伴奏:柳下美恵
【山口情報芸術センター】 7/20~8/7「周縁に生きる人々を知る」…Coda あいのうた/私だけ聴こえる
【益田 Shimane Cinema Onozawa】 7/20~24「大九明子監督特集 全ユニバーサル上映」…私をくいとめて/もぎりさん/ウェディング・ハイ
【高知 喫茶メフィストフェレス】 「ゴトゴトシネマ」…8/5~7 夢みる小学校 8/19~21 猫が教えてくれたこと

▼九州・沖縄
【福岡市総合図書館映像ホール シネラ】 8/3~26「台湾映画特集」…海辺の女たち/あひるを飼う家/光陰的故事/冬冬の夏休み/老年萬歳/ある女の一生/村と爆弾/超級大国民/他
【ゆふいんラックホール】 7/22〜24「第24回 ゆふいん文化・記録映画祭」…風の記憶/蟹の惑星/教育と愛国/体験ツアー《由布院の水辺を巡る》/他
【本渡第一映劇】 「天草市民シアター 第44回」…7/23~29 恋人をさがそう(1967年) 8/6~12 名探偵コナン 時計じかけの摩天楼(1997年)

◎日本の労働映画百選
 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view

(2022.7.20)
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