【「労働映画」のリアル】

第65回 労働映画のスターたち(65)間宮祥太朗 [#j6456e99]

清水 浩之

《今どきの「カメレオン」な好青年 仕事と恋のハッピーエンドを目指して・・・》

 マミヤ・ショータロー。江戸時代の北方探検家ではなく、鉄人28号を操縦する少年探偵でもない。身長179cm、筆で書いたような凛々しい眉、キラキラと輝く大きな瞳。どこの街でも必ず見かけそうな、今どきのイケメン好青年なのだが、量産型のサイボーグのように、役柄を変えて様々な場所に出没する。

 ここ数年、ドラマや映画を見ていて「あ、またあのお兄さんだ」と思う経験が度々。今年は正月の『ファイトソング』(TBS)で内気なミュージシャンに扮していると思ったら、春の『ナンバMG5』(フジ)では地元最強の喧嘩番長。夏の『魔法のリノベ』(関テレ)では離婚歴2回のお人好しシングルファーザー……季節ごとに全く違う役回りで登場する、まさに「カメレオン俳優」として注目を集めている。

 さらに、7月に公開された島崎藤村『破戒』の60年ぶり3度目の映画化(監督・前田和男)では、小学校教師・瀬川丑松役で主演。明治時代後期、その生い立ちと身分を隠して生きることに葛藤する青年を瑞々しく演じきり、21世紀ならではの文芸青春映画の成立に貢献した。

 1993年生まれの29歳で、生まれも育ちも平成。中学生の頃に雑誌の読者モデルとなり、やがて学園ドラマの生徒役などで俳優としての活動を始める。シリアスな役からコミカルなキャラクターまで積極的に取り組み、2012年、独立系民放局が共同制作する歴史コメディ番組『戦国鍋TV』で、歌って踊れる赤穂浪士「AKR四十七」のメンバー・堀部安兵衛に扮したあたりから、単なる二枚目に収まらない個性を発揮し始めた。

 2016年、映像配信サイト向けのコメディドラマ『ニーチェ先生』で初主演。コンビニで働き始めた大学生が、「お客様は神様だろう?」と因縁をつけてくる客に対し、「神は死んだ…」と哲学用語で返り討ちにするのをはじめ、接客業で受け継がれてきた常識を次々とひっくり返していく展開。喜怒哀楽を表情に出さず、効率重視の現実主義といわれる「さとり世代」の若者像を、しっかりと実体化させた演技で評価された。

 全国的に知名度を高めたのは、2018年春のNHK朝ドラ『半分、青い』。永野芽郁の演じる主人公・すずめは漫画家を目指すが挫折し、打算的に結婚したり、発明起業の夢を追いかけたり……と、従来の「立身出世」型ヒロインとは一線を画す、行き当たりばったりな人生遍歴のリアルさが印象に残る異色作だった。間宮青年の役は、未来の巨匠を目指す映画助監督。ヒロインと急転直下の恋に落ち、一旦は妻子を養うために就職するが、夢を諦めきれず……。

 これ以降、ヒロインと急接近しながら最終的にはうまくいかず、他の男性にハッピーエンドを譲る、いわゆる「当て馬」的な役どころが続いた。シーズンごとのドラマを楽しんでいる視聴者は「ああ、今回もダメだったか…」と思い、だんだん「次こそは、うまくいきますように」と、秘かに応援するようになる。現実の世界でも、仕事や恋愛で「競争」している20代にとって、彼の運命は他人事とは思えないようになっていった。

 このタイミングで引き受けた映画の主演作が、全国水平社創立100周年記念作品として制作された『破戒』。当初は池部良主演・木下惠介監督の1948年版、市川雷蔵主演・市川崑監督の1962年版に太刀打ちできるか懸念されたが、人権教育作品を長年手掛けてきた東映教育映像部が企画開発を、時代劇の老舗・東映京都撮影所が制作を、若者向けコンテンツのノウハウを持つ東映ビデオが配給を受け持つ、他社には真似のできない連携が功を奏し、間宮祥太朗という「現役」の若者を通して、21世紀の観客が差別というテーマを「自分ごと」として考えられる作品に仕上がった。

 住宅リフォームをテーマにしたドラマ『魔法のリノベ』は、「家」をめぐる家族それぞれのドラマと、住宅設備機器メーカー・LIXIL監修のリノベーション例を巧みに組み合わせた構成で、毎回楽しませてくれている。今回の間宮青年は無事にハッピーエンドを迎えられるのか、それとも……? 9月末の最終回が待ち遠しい。

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。次回は10月20日(木)の予定です。

第79回~農の営みは唄とともに~

日時:2022年10月20日(木)18時開始(17時45分開場)
会場:連合会館2階203会議室 (地図:https://rengokaikan.jp/access/
(1)『ぬかものがたり』 1949年/17分/白黒
制作:日本映画社 脚本:岩佐氏寿 演出・撮影:栗林実 音楽:三木鶏郎
経済安定本部がスポンサーとなった短篇。農家に米ぬかの再資源化とその有効活用法を説く。当時NHKラジオ「日曜娯楽版」で絶大な人気を博していた、三木鶏郎とその「冗談音楽」グループ(三木のり平、小野田勇、丹下キヨ子)が出演し、一種の音楽映画に仕上げている。
(2)『刈干切り唄』 1959年/43分/白黒 〈労働映画百選34〉
制作:記録映画社 脚本・監督:上野耕三 撮影:金山富男 出演:小島善太郎
「刈干切り唄」で有名な天孫降臨伝説の地、宮崎県日向や高千穂地方の焼畑農業など、山地農民のたくましい生活を、秋の草刈り作業で歌われる「仕事唄」にのせていきいきと描く。
・働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島!9月~10月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/

◇新作ロードショー
スーパー30 アーナンド先生の教室 《9月23日(金)から 東京 新宿ピカデリーほかで公開》
貧しい家庭出身の30人の生徒に、食事と寮と教育を無償で与える私塾を開いた講師の実話を映画化。(2019年 インド 監督/ヴィカース・バハル)
https://spaceboxjapan.jp/super30/

丸木舟とUFO 《9月24日(土)から 東京 ポレポレ東中野ほかで公開》
東京から石垣島に移住し、木造船「サバニ」の大工になった吉田さん夫妻。若者のいない集落のために走り回る日々の記録。(2022年 日本 監督/水本博之)
http://belumg2-na-uai.info/marukibune_pc.html

サポート・ザ・ガールズ 《10月7日(金)から 東京 シモキタ-エキマエ-シネマ K2ほかで公開》
 スポーツバーの女性マネージャーと従業員たちが、日常にはびこるセクハラや女性蔑視、人種差別に立ち向かうコメディ。(2018年 アメリカ 監督/アンドリュー・ブジャルスキー)
https://gucchis-free-school.com/event/stgk2/

夜明けまでバス停で 《10月8日(土)から 東京 新宿 K’s cinemaほかで公開》
2020年に東京で起きた事件を基に映画化。新型コロナウイルス感染拡大の影響で仕事と住居を失った女性を主人公に、普通の人々の社会的孤立を描く。(2022年 日本 監督/高橋伴明)
https://yoakemademovie.com/

◇名画座・特集上映
▼全国
【kino cinema横浜みなとみらい/他】 9/30~12/22「キノフェスティバル2022」…シークレット・ガーデン(イギリス)/ブレイキング・ニュース・イン・ユバ・カウンティ(アメリカ)/パーフェクト・ナニー(フランス)/他

▼北海道・東北
【札幌パルコ屋上】 9/22~25「パルコトップシネマ2022」…パーティで女の子に話しかけるには/サマーフィルムにのって
【フォーラム山形】10/7~11「YIDFF 2021 ON SCREEN!」…炭鉱たそがれ/丸八やたら漬 Komian/蟻の蠢き/理大囲城/牛/カマグロガ/リトル・パレスティナ/燃え上がる記者たち/他

▼関東・甲信越
【東京 春日 文京区民センター】 10/16「現代中国映画上映会 第588回 日本人俳優特集」…鬼が来た!/戦場に咲く花/北京の恋 四郎探母
【東京 ラピュタ阿佐ヶ谷】 10/16~12/17「大映映画を支えたバイプレーヤーたち」…川のある下町の話/一粒の麦/軍国酒場/銀座のどら猫/愛の三分間指圧/ラーメン大使/団地夫人/他
【横浜 戸部 シネマノヴェチェント】10/15~30「『小さな恋のメロディ』公開50周年記念上映」…小さな恋のメロディ/卒業旅行(※マーク・レスターさん、トレーシー・ハイドさん来日予定)
【伊那 赤石シネマ】 10/2~5「インド特集」…秘境をぶっ飛ばせ!/呼ばれて行く国 インド

▼東海・北陸
【福井 メトロ劇場】 9/24~10/7「ウォン・カーウァイ 4K」…恋する惑星/天使の涙/ブエノスアイレス/花様年華/2046
【岐阜 ロイヤル劇場】 9/24~「東映70周年特集」…人生劇場 飛車角と吉良常/緋牡丹博徒 二代目襲名/二百三高地/動乱/武士道残酷物語/米/宮本武蔵(1961)

▼関西
【京都シネマ】「名画リレー」…10/7~13 無聲 10/14~20 フェルナンド・ボテロ 豊満な人生 10/21~27 瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと
【大阪 テアトル梅田】 9/16~30「さよなら興行 テアトル梅田を彩った映画たち」…アメリ/トレインスポッティング/ムトゥ 踊るマハラジャ/南極料理人/花束みたいな恋をした/他
【神戸映画資料館】 10/15~23「神戸発掘映画祭2022」…東京‘69–青いクレヨンのいつかは…/フィルム 私たちの記憶装置/夢で逢いましょう/明日は日本晴れ/当世新世帯/他

▼中国・四国
【広島市映像文化ライブラリー】 10/8~22「生誕110年 新藤兼人特集」…鉄輪/讃歌/心/わが道/竹山ひとり旅/ある映画監督の生涯/絞殺/北斎漫画/ブラックボード/他
【高知 喫茶メフィストフェレス】 「ゴトゴトシネマ」…10/1 人生ドライブ 10/9 素晴らしき、キノコの世界 10/22 サウナのあるところ 11/4~6 マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”

▼九州・沖縄
【福岡 KBCシネマ】「ONE SHOT CINEMA」…9/27 アドレノクロム 10/4 マタインディオス、聖なる村 10/11 幻の蛍 10/18 アンデス、ふたりぼっち 10/25 階段の先には踊り場がある
【本渡第一映劇】「天草市民シアター」…10/1~7 放浪記 10/8~14 必殺4 恨みはらします 11/3~7 大当り三色娘/ニッポン無責任時代/エノケンの頑張り戦術/君も出世ができる

◎日本の労働映画百選''''
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view

(2022.9.20)
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