【「労働映画」のリアル】

第71回 労働映画のスターたち(71)尾美としのり

清水 浩之

《あいつ今、何してる? いくつになっても気になる「同級生」の半世紀》
 
 いくつになっても気になるのが「同い年」の存在。1967年生まれの私にとって、原田知世さんや清原和博さんのニュースは必ず目に留まるし、同学年の政治家の言動に一喜一憂したりもする(蓮舫、米山隆一、立花孝志、杉田水脈……「憂」の方が多いかも)。
 
 これと同じように、子役から活動を続けている俳優さんは、同世代の生き方を現在進行形で見せてくれる存在として気になり続ける。1965年生まれ、現在57歳にして芸歴50年以上のキャリアを持つ尾美としのりさんは、私たち50代 ― 1980年代に青春を過ごした世代にとって、まさに“あいつ今、何してる?”という気にさせる「同級生」俳優だ。
 
 40代以下の観客なら「オミさん」と呼ぶけれど、50代以上には今でも「オミくん」。10代から20代にかけて、日本映画史上の傑作に次々と出演し、特に大林宣彦監督の「尾道三部作」で、どこにでもいそうな中高生役を演じた「われわれ世代の代表」的存在。40年後の現在は、主人公の父親や職場の上司として登場するが、顔と声に往時の面影がしっかり残っているので、「オミくんのその後」を想像したくなる。
 
 東京・目黒の出身。毎日同じ時間に幼稚園へ通うことに疑問を感じ、「仮病を使う代わりに」劇団ひまわりに入団。初出演映画は1973年夏のザ・ドリフターズ主演 『チョットだけヨ 全員集合!!』(渡邊祐介監督)。加藤茶の弟役で、達者な台詞回しを披露する。当時7歳。
 
 中学に進んだ頃には、クリッとした瞳でちょっと幼い印象の顔立ち、変声期を経て低く落ち着いた口調が出来上がり、市川崑監督 『火の鳥』(1978)、相米慎二監督 『翔んだカップル』(1980)、そして大林宣彦監督の「尾道三部作」 ― 『転校生』(1982)、『時をかける少女』(1983)、『さびしんぼう』(1985)に、主演や準主演で起用された。
 
 中学生の男女の心と身体が入れ替わるSFコメディ『転校生』では、共演の小林聡美が「少年」を溌剌と演じて高く評価されたのに対し、「男の子の身体に戸惑う少女」を演じた彼は些か損をした感じもあったが、40年後の今あらためて観ると、「やめてよ~!」と身をよじる演技が可愛らしく、快活なキャラクターの聡美さんよりも、内気で繊細な乙女になりきっている気がした。
 
 20代に入ると、フランスで便利屋を開業する青年に扮した映画『アラカルト・カンパニー』(1987、太田圭監督)や、シナリオライターを志す若者がキャバレーのボーイとして働くドラマ『独身送別会』(1988、NHK)など、社会に出たばかりの若者の青春を演じるようになる。1989年からは二代目中村吉右衛門主演の時代劇『鬼平犯科帳』(フジテレビ)に、若い同心・木村忠吾役でレギュラー出演。色白でぽっちゃりした風貌、ちょっと頼りないが愛嬌のある男=「うさ忠」は、シリアスなストーリーを和ませる好人物として親しまれる。2016年のシリーズ終了まで、足掛け27年にわたる当たり役になった。
 
 30代以降は、若者から「おじさん」へ役柄をシフト。会社員や刑事など、背広を着た姿が定着していくが、2003年、宮藤官九郎脚本のドラマ『マンハッタンラブストーリー』(2003、TBS)で、ヒロインのタクシー運転手(小泉今日子)とバカ話に興じる、ガラの悪い同僚役を演じたことから、以後はクドカン作品の常連となる。
 
 クドカン先生は1970年生まれで「尾道三部作」直撃世代。“憧れのスター”をお迎えする姿勢で、「尾美さんがどんなキャラクターで登場すると面白いか」考えてあて書きする。『タイガー&ドラゴン』(2005、TBS)のそそっかしい蕎麦屋、『あまちゃん』(2013、NHK)の頼りないパパ、『監獄のお姫さま』(2017、TBS)の義理堅いやくざ者、そして今年6月にNetflixから配信された『離婚しようよ』(2023)では、お坊ちゃん世襲議員(松坂桃李)を献身的に支えるベテラン秘書……と、一見地味な存在だが、いざとなったら大胆な行動力を発揮する「影の主人公」として、現代社会を笑いと涙で戯画化するクドカンワールドを支え続けている。
 
 近年は父親役が多いが、『64 ロクヨン』(2015、NHK)や、『日曜の夜ぐらいは…』(2023、ABC)のように、「善人のように見えて実は…」「悪人だと思ったら…」という二面性のある役柄を担うと、抜群に面白い。旧来の「男らしさ」とは無縁で、ふだんは母親の存在の蔭に隠れているが、子どもが成長する過程で、その「影の薄い」生き方がじわじわと影響を与えている ― そんな21世紀型の「お父さん」像を、的確に体現していると思う。
 
 参考記事:《尾美としのり、幼稚園の仮病で始まった芸能人生 「NGが一回出ると落ち着く(笑)」》 週刊FLASH 2021年6月22日号 ほか
 
 (しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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第90回 ~黒木和雄の実験的ドキュメンタリー 奇なる事実に語らせてみたら・・・~
日時:2023年11月9日(木)18:00開始 (17:45開場)
会場:連合会館 2階 203会議室/千代田区神田駿河台3-2-11/地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口(丸の内線 淡路町駅、都営新宿線 小川町駅との連絡通路あり)

上映作品(1):『わが愛 北海道』 1962年 48分 カラー
脚本・監督:黒木和雄/台詞:清水邦夫/音楽:松村禎三/助監督:東陽一、小川紳介
◎北海道の風土と基幹産業を紹介する PR作品 だが、アラン・レネの『二十四時間の情事』(1959 年)に刺激されていた黒木は、一組の男女に旅 をさせるという構成にしてそのドラマ志向を実現 させた。

上映作品(2):『恋の羊が海いっぱい』 1961年 20分 カラー
脚本:羽田澄子/演出:黒木和雄/美術:朝倉摂/衣裳:森英恵/主題歌作詞:寺山修司/作曲:山本直純/出演:ペギー葉山、フォーコインズ、ほか
◎羊毛の宣伝用に書かれた羽田澄子の脚本を、黒木がミュージカル風に改変した、日本のPR 映画史の中でも特筆すべき異色作。

上映後解説:井坂能行 氏(元 岩波映像顧問)
◎今回取り上げる黒木和雄監督の初期ドキュメンタリー2作品を、今日の時点からどうみるかについて、解説していただきます。なお、1955年製作の『北海道』(企画:北海道電力、製作:岩波映画製作所)からの抜粋映像も参考上映します。

・働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島!10月~11月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/

◇新作ロードショー
私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰? 《10月20日(金)から 東京 Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかで公開》 フランスの原子力企業で労働組合代表を務める女性が、技術移転をめぐる国家的スキャンダルに立ち向かう。(2022年 フランス=ドイツ 監督/ジャン=ポール・サロメ) 
http://mk.onlyhearts.co.jp/

理想郷 《11月3日(金)から 東京 Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかで公開》 スペインの村に、スローライフを求めて移住した夫婦。だが、二人は地元住民との対立を深めていく。(2022年 スペイン=フランス 監督/ロドリゴ・ソロゴイェン) https://unpfilm.com/risokyo/

駒田蒸留所へようこそ 《11月10日(金)から 東京 TOHOシネマズ日比谷ほかで公開》 富山県南砺市のアニメ制作会社、P.A.WORKSの「お仕事シリーズ」第5弾。実家のウイスキー蒸留所を継いだ女性が、幻のウイスキーを復活させようと奮闘する。(2023年 日本 監督/吉原正行) 
https://gaga.ne.jp/welcome-komada/

リアリティ REALITY 《11月18日(土)から 東京 渋谷 シアター・イメージフォーラムほかで公開》 大統領選に関する国家機密をリークした罪で逮捕された、25歳の女性職員。FBIによる尋問の音声記録を再現する。(2022年 アメリカ 監督/ティナ・サッター) 
https://transformer.co.jp/m/reality/

◇名画座・特集上映
▼全国
【東京 新宿ピカデリー/他】 10/20から 「熱風!!南インド映画の世界」…ヤマドンガ/マガディーラ 勇者転生[完全版]/プシュパ 覚醒/サイラー・ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者

▼北海道・東北
【札幌 庭ビル】 10/28・29 「映画とごはんの世界旅行 vol.6 台湾編」…幸福路のチー(2017年 監督/ソン・シンイン)
【紫波町日詰 平井邸2階大広間】 11/11 「シワキネマ 第24回上映会」…出来ごゝろ(1933年 監督/小津安二郎)
【にかほ市 仁賀保勤労青少年ホーム】 11/18・19 「にかほ市映画まつり」…浮雲/嵐を呼ぶ男/眠狂四郎殺法帖/網走番外地

▼関東・甲信越
【東京 日比谷・有楽町・銀座地区】 10/23~11/1 「第36回 東京国際映画祭」…PERFECT DAYS/野獣のゴスペル/ペルシアン・バージョン/開拓者たち/ロシナンテ/相撲ディーディー/他
【東京 テアトル新宿】 10/21~11/23 「時代劇が前衛だった」…丹下左膳余話 百万両の壺/大活劇 爭鬪/忠次旅日記/新しき土 日英版/人情紙風船/下郎の首/反逆児/雄呂血/他
【鎌倉市川喜多映画記念館】 10/24~1/14 「映画監督・是枝裕和のまなざし」…誰も知らない/ワンダフルライフ/テレビドキュメンタリー集/童年往事 時の流れ/エル・スール/幻の光/他
【上田映劇】 11/17~19 「27thうえだ城下町映画祭」…ケイコ 目を澄ませて/メタモルフォーゼの縁側/旅する映写機/おーい!どんちゃん/貸間あり/Single8/もっと超越したところへ。/他

▼東海・北陸
【名古屋 大須シネマ】 11/13~12/3 「デビュー70周年 芦川いづみ特集」…青春怪談/死の十字路/洲崎パラダイス 赤信号/風船/ジャズ・オン・パレード1956年 裏町のお転婆娘
【可児市文化創造センターala】 10/27・28 「35mmフィルムで味わう名作映画鑑賞会」…浪華悲歌/西鶴一代女/風の中の子供/蜂の巣の子供たち

▼関西
【奈良 ホテル尾花】 10/20~22 「ならシネマテーク」…82年生まれ、キム・ジヨン(2019年 監督/キム・ドヨン)
【神戸映画資料館】 10/21・22・27~29 「神戸発掘映画祭2023」…女ハムレット/海を渡る祭礼/ 深川美談 孝女てい子/唄入り観音経/あざみ寮・もみじ寮 今日もみんな元気です/他

▼中国・四国
【呉ポポロシアター】 11/1~3 「信友良則さん 103歳記念上映」…ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~(2022年 監督/信友直子)
【島根県内13会場】 9/23~12/10 「第32回 しまね映画祭」…荒野に希望の灯をともす/ただいま、つなかん/小さき麦の花/わが青春に悔なし/がんばっていきまっしょい/さかなのこ/高津川/他
【高知 安田大心劇場】 10/21・22 「第3回 林業映画祭2023」…杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦(2022年 監督/前田せつこ)

▼九州・沖縄
【本渡第一映劇】 11/3~7 「天草市民シアター」…裸の島/煙突の見える場所/この広い空のどこかに/名もなく貧しく美しく
【鹿児島 ガーデンズシネマ】 10/21・22 「建築CINEMA映画祭2023」…アアルト/前田建設 ファンタジー営業部

◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view

(2023.10.20)
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