【「労働映画」のリアル】
第73回 労働映画のスターたち(73)
オダギリジョー
清水 浩之
《氷河期世代の「男はつらいよ」 ― 飄々と生きれば、なんとかなるさ!》
就職氷河期世代……またの名を「ロストジェネレーション」。バブル崩壊後の就職難の時代(1993~2005年頃)に就職活動をした世代を指す。厚生労働省は2023年秋から「就職氷河期世代活躍支援」と題して、求人や職業訓練、社会参加支援などの取り組みを始めたが、バブル世代(1986~91年入社)に属する私たちとしては、90年代の中頃に職場で耳にした「アウトソーシング」という言葉に感じたモヤモヤ(「ひとを育てる気はないってこと?」)に、ようやく答え合わせが来たみたいで、ちょっと切ない気持ちになる。
ロスジェネ世代はいま、40代から50代。「働きざかり」と呼ばれる年齢の人々が《どう働いてきたか》を検証する時期になったんだな……と気づかせてくれるドラマを見た。オダギリジョーさん主演の『僕の手を売ります』(2023年・フジテレビ)だ。
♪ゴミ拾い~ ドブさらい~ 草むしり~ 砂運び~ 山崩し~ 棚卸し~ (主題歌の歌詞)
主人公の職業は「プロアルバイター」。土木工事から家の修繕、古墳の発掘、野生動物の調査など、ありとあらゆる仕事を引き受けるスペシャリストだが、その収入は毎月20万円の借金返済に充てられる。20万×12か月×20年……もう少しで5,000万円を完済!という段階に漕ぎつけた男の半生が語られる。
彼は理系の大学院に進んだ秀才だったが、卒業した年は「超氷河期」。就職を諦めた仲間と共にネットビジネスを起業し、すぐに大失敗。“逃げ遅れた”彼が責任を負わされ、借金返済をライフワークとする人生が始まった(「完済」が見えてくると不安になる姿が、可笑しくも切ない)。仕事道具を摘んだワゴン車で日本各地を回り、仕事先で様々な面倒ごとに巻き込まれる。常に貧乏くじを引きながら、彼と出会った人々はその人柄を愛し、最終回にはマイナスがプラスに転じる(「ぼく、貯金ができたよ!」)。
どんな仕事も器用にこなすが、生き方はからっきし不器用 ― ロスジェネ世代ならではの「男はつらいよ」を、飄々としたキャラクターで知られるジョーさんが、うっすらと困り顔で演じる。私たちの身近にもいそうな今どきのおじさんの一喜一憂を見て、ちょっと温かい気持ちになる。チャップリンや小津を連想させる人間喜劇を味わえた。
オダギリジョーさんは今年の年男(1976年生まれ)。『仮面ライダークウガ』(テレビ朝日)の主演に抜擢された2000年当時、それまでの「美男子」に代わる「イケメン」という言葉がぴったりとはまった。「平成仮面ライダー」はその後、要潤、佐藤健、菅田将暉、竹内涼真……と受け継がれていくが、その第1号となったジョーさんの存在が、「非ジャニーズ系」男性スターの流れを切り拓いたことになる。デビュー直後の素朴な好青年から、ロン毛&ヒゲのスタイルに転じると、同世代のファッションリーダーとして多くのフォロワー(オダギリジョー風のお兄さん)を生み出した。
ブレイク後は映画『アカルイミライ』(2003年・黒沢清監督)、『ゆれる』(2006年・西川美和監督)、『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(2007年・松岡錠司監督)などの話題作に相次いで主演。もともとは映画監督を志していた彼は、出演作の企画や脚本に積極的に関わることで知られ、「脱力系」のミステリーコメディ『時効警察』(2006~19・テレビ朝日)を手始めに、映画『ある船頭の話』(2019年)、ドラマ『オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ』(2021年・NHK)で、自ら脚本・監督を手掛けた。
40代に入ってからは、味のある助演者としても活躍。松たか子主演のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年・関西テレビ)では、ビジネス上の敵でありながら恋の相手という厄介な色男を、NHKの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(2021年)では、深津絵里が演じるヒロインを温かく見守り続ける無職の夫(!)を好演。一方で、『花束みたいな恋をした』(2021年・土井裕泰監督)、『アトムの童(こ)』(2022年・TBS)では、若者たちの前に立ちはだかる「悪いオトナ」を余裕綽々と演じ、こちらの方向での快演&怪演も楽しみになってきた。「トシのとり方」でも同世代のファッションリーダーになっていく気がします。
『僕の手を売ります』 2024年1月17日(水)からフジテレビで放送中
(FOD、Amazon Prime Videoで全10話配信中)
https://www.fujitv.co.jp/bokunote/
(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。
第92回 ~息をしている限り、まだ間に合う。~
日時:2024年2月8日(木)18:00開始 (17:45開場)
会場:連合会館 2階 203会議室/千代田区神田駿河台3-2-11/地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口(丸の内線 淡路町駅、都営新宿線 小川町駅との連絡通路あり)
上映作品:『杜人(もりびと)~環境再生医 矢野智徳の挑戦~』 2022年 101分
製作:リンカランフィルムズ 監督:前田せつ子
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=Q1SJyxWPIa0
【内容】30年以上のキャリアを持つ造園技師・矢野智徳氏。「環境再生医」として知られる彼は、植物や虫、大地の声を代弁する。全国で頻発する豪雨災害は、本当に「天災」なのか?風のように草を刈り、イノシシのように大地を掘って、環境問題の根幹に風穴をあける矢野氏の活動を、3年にわたり記録した。
働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/
◎【上映情報】労働映画列島!1月~2月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/
◇新作ロードショー
ニューヨーク・オールド・アパートメント 《1月12日(金)から 東京 新宿 シネマカリテほかで公開》 安定した生活を求め、祖国ペルーを離れ不法移民としてニューヨークで暮らす一家のドラマ。(2022年 スイス 監督/マーク・ウィルキンズ)
https://m-pictures.net/noa/
燈火(ネオン)は消えず 《1月12日(金)から 東京 Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほかで公開》 香港名物のネオンサイン職人だった夫。彼の亡き後、妻が仕事を継承しようと奮起する。(2022年 香港 監督/アナスタシア・ツァン)
https://moviola.jp/neonwakiezu/
ローリング・ガール 《2月2日(金)から 東京 シネマート新宿ほかで公開》 母が経営する韓国料理・キンパの店を任された女性が、様々な客との出会いを通して成長していく。(2023年 韓国 監督/クァク・ミンスン)
https://rolling-girl.com/
フジヤマコットントン 《2月10日(土)から 東京 ポレポレ東中野ほかで公開》 山梨県の障害福祉サービス事業所「みらいファーム」の日常を記録。農作物や花を育てたり、綿花を栽培し、糸にして織物にする日々。(2023年 日本 監督/青柳拓)
https://fujiyama-cottonton.com/
◇名画座・特集上映
▼全国
【札幌シネマフロンティア/ほか全国67館】 「午前十時の映画祭13」 2/2~29 「アメリカで生きていく」…リバー・ランズ・スルー・イット/スケアクロウ(2週ずつ上映)
▼北海道・東北
【苫小牧 シネマ・トーラス】 1/20~3/8 「北海道の民放テレビ局発 ドキュメンタリー映画特集」…ヤジと民主主義/新根室プロレス物語/奇跡の子 夢野に舞う
【横手市十文字地区交流センター】 2/3・4 「第31回 あきた十文字映画祭」…テレビで会えない芸人/高野豆腐店の春/せかいのおきく/二人静か/福田村事件/花腐し/他
▼関東・甲信越
【前橋シネマハウス】 1/27~2/9 「ペルー映画祭vol.2」…クッキング・アップ・ドリームス/アルパカと生きる喜び/母なる勇気/ファルファン 路地裏からの栄光/サミチャイ、牛飼いの祈り/他
【東京 京橋 国立映画アーカイブ】 2/6~3/24 「日本の女性映画人(2)―1970-1980年代」…遠い一本の道/ねむの木の詩がきこえる/六ケ所人間記/杉の子たちの50年/病院はきらいだ/他
【東京 神保町シアター】 1/27~2/23 「女優魂―忘れられないこの1本」…やっさもっさ/乳房よ永遠なれ/洲崎パラダイス 赤信号/非行少女/霧の旗/鬼畜/秋津温泉/執炎/他
【伊那 赤石シネマ】 2/7~10 音の映画 Our Sounds/目の見えない白鳥さん、アートを見にいく
▼東海・北陸
【静岡シネ・ギャラリー】 1/26~2/8 「ナショナル・シアター・ライブ」…ライフ・オブ・パイ/フランケンシュタイン/オセロー/善き人/ベスト・オブ・エネミーズ
【ナゴヤキネマ・ノイ】 2024年2月以降開館予定(クラウドファンディング:1月31日まで)
▼関西
【京都文化博物館】 1/23~28 「第15回 京都ヒストリカ国際映画祭」…狂った一頁/チャーリーとチョコレート工場/ベンジャミン・バトン 数奇な人生/デッドマン/山猫/桜色の風が咲く/他
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 2/3~3/1 「生誕百年記念 映画女優 高峰秀子」…虹を抱く処女/宗方姉妹/女の水鏡/二十四の瞳/流れる/二人で歩いた幾春秋/放浪記/他
【宝塚 シネ・ピピア】 2/2~29 「日本ドキュメンタリー映画の現在」…東京組曲2020/国葬の日/チョコレートな人びと/ぼくたちは見た ガザ・サムニ家の子どもたち/絶唱浪曲ストーリー/他
▼中国・四国
【広島市映像文化ライブラリー】 2/10~24 「ドクターたちのドラマ」…酔いどれ天使/静かなる決闘/本日休診/背徳のメス/赤ひげ/ヒポクラテスたち/病院で死ぬということ/ディア・ドクター/白い巨塔
【高知 安田大心劇場】 1/20~27 下町の太陽(1963年 監督/山田洋次)
▼九州・沖縄
【福岡市総合図書館 映像ホール シネラ】 2/1~25 「蘇ったフィルムたち チネマ・リトロバート映画祭」…無防備都市/カルプナー/時は止まりぬ/私は彼女をよく知っていた/異人と霧/他
【鹿児島 ガーデンズシネマ】1/27~2/9 ちゃわんやのはなし–四百年の旅人–(2023年 監督/松倉大夏)
◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。
『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view
(2024.1.20)
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