【沖縄の地鳴り】

沖縄独自外交の必要性(3)
― 米軍が残した史上最強の毒物 ―

国際法市民研究会


 自治体の基本的責務は「住民福祉の増進」にある。このため沖縄では、県としても県下の41市町村としても、住民生活を阻害する「米軍基地の異常なまでの集中[註1]」を解消することが求められ、それには当然、外交努力も含まれる(「沖縄の誇りと自立を愛する皆さまへ」第37・38号参照)。
 そればかりではない。米軍は、原状回復義務のない地位協定をよいことに、基地内に有害化学物質を大量廃棄したため、沖縄は汚染された跡地を浄化しなければならない。そもそも地位協定は、基地に“毒物”が廃棄・埋設されることなど想定していない。このため日本は、枯葉剤などの大量廃棄について、原状回復の免責規定を適用することを拒否すべきである。それを日米両政府に訴え、沖縄の対米外交でも取り上げる必要がある。
 とくに、枯葉剤に含まれるダイオキシン類の一種2・3・7・8-TCDDは“史上最強の毒物”といわれ、急性毒性が青酸カリの1万倍、サリンの17倍といわれている。このため、米国の道義的責任も追及されなければならない。

●オレンジ剤5千万リットル、ドラム缶24万本

 2012年8月米連邦議会の報告「オレンジ剤によるベトナム人犠牲者とアメリカ・ベトナム関係[註2]」によると、「オレンジ剤とそれに伴うダイオキシン」による損害は「ベトナム戦争の残した未解決の遺産[註3]」。オレンジ剤 Agent Orange は、枯葉剤(強力除草剤)の別称でダイオキシン類が含まれ、容器にオレンジ色のマークがある。他の除草剤にも、オレンジ剤を混ぜるか“粗製乱造”したものには、副合成物質のダイオキシン類が含まれる。
 2011年以来、米議会でペンディングになっている「2011年オレンジ剤被害者救済法[註4]」は、「オレンジ剤に被曝した一定の個人への援助を国務省に命じ、ベトナム戦争退役軍人の子孫への医療提供の拡充を退役軍人省に命じる」もの。同法は、南ベトナムで1961~71年、15種類の除草剤1900万ガロン=7,192万リットル(1ガロン=約3.785リットル。55ガロン=208リットル入りドラム缶34万5,455本)を散布し、うちオレンジ剤は68%=1,300万ガロン(4,920万リットル、ドラム缶23万6,364本)だったとしている。

●米議会の調査報告

 以下、沖縄におけるベトナム戦争の遺産問題の参考となるポイントを、米議会報告の Summary(S)、General Issues(G)、Pending Legislation(P)の3項目から抜粋(訳出)し、若干補足する。数字は上記と少し異なるが大きな矛盾はない。

・米軍は1961~71年、南ベトナムの10%の地域で1,100~1,200万ガロン(前出ドラム缶なら20~22万本)のオレンジ剤を散布した。(S)
・ある研究によると、210~480万人のベトナム人が直接被曝した[註5]。ベトナムの被害者支援団体は、300万人以上がオレンジ剤に含まれるダイオキシンの健康被害に苦しんでいると主張。(S)
・ベトナムの多くのNGOは、ダイオキシンの除去とオレンジ剤被曝者のケアを求め、ベトナム政府に圧力をかけている。政府の一部はそれに共鳴しているが、他の一部はダイオキシンの危険を問題にするとベトナム・アメリカ関係に好ましくない結果を招くことを憂慮している。(S)
・ベトナム政府は、これまでアメリカに援助を求めてきた。アメリカ政府は科学的・技術的なサポートをしたが、援助の法的責任を繰り返し否定したため、両国政府間の軋轢は大きくなった。(S)
・近年のアメリカは資金提供に前向きで、連邦議会は2007年以来、ダイオキシンの除去とヘルス・ケアに5,950万ドルを充当してきた。ベトナム政府と国民は、オレンジ剤犠牲者へのさらなる援助と、オレンジ剤のホット・スポット(ビエンホアやダナン)の浄化支援をアメリカに求めている。(S)

●法的・道義的責任の回避

 以下も米議会報告からの抜粋。アメリカ政府は、ベトナムに対する法的・道義的責任を回避するため「人道援助」と称して、わずかな支出を決めている。

・ベトナム戦争中、カンボジアとラオスでもオレンジ剤が散布されたとすれば、被害者とみられる人々は、以上と同様の対応を要求するだろう。それは、この戦争遺産への対応に大きなコストと行政上の困難をもたらす。(G)
・しかし、たとえばベトナムにおける地雷とエイズ被害者へのこれまでの人道援助は、アメリカの法的・道義的責任を認めることを意味しない。先天異常の出生登録の改善やベトナムにおける障害者人口の大きさについて、もっと包括的に評価するための技術援助は、単なる医療援助であって、法的・道義的責任につながるという反対意見も少ないはずだ。(G)
・ペンディングになっている「2011年オレンジ剤被害者救済法」が実施されれば、国務省に対して、法定期間中にオレンジ剤に被曝したベトナム国民またはその子孫のヘルス・ケア計画の策定を要請することになる。(P)
・「2013年国務省・外務省関係プログラム歳出法[註6]」が実施されれば、ベトナムのダイオキシン汚染地域の改善に2,000万ドル以上と、健康・障害に関する活動に500万ドル以上を支出する。上院歳出委員会は、その実施を勧告している。(P)
 (続く)

[註1]沖縄県による国地方係争処理委員会への2016年3月22日「審査申出書」p185。
[註2]Congressional Research Service (CRS) Report for Congress, Vietnamese Victims of Agent Orange and US-Vietnam Relations, Michael F. Martin, August 29, 2012.
[註3]One major legacy of the Vietnam War that remains unresolved is the damage that Agent Orange, and its accompanying dioxin, have done to the people ant the environment of Vietnam.
[註4]The Victims of Agent Orange Relief Act of 2011.
[註5]ミー・ドアン・タカサキ My Doan Takasaki 内田正夫訳「ベトナムの枯葉剤/ダイオキシン問題―解決の日はいつ」―和光大学『東西南北』2006年1月p211―によると、コロンビア大学ステルマンらの研究。タカサキ論文では、散布された南ベトナム国土は20%。
[註6]The Department of State, Foreign Operations, and Related Programs Appropriations Act, 2013.

 (文責:河野道夫)

※この記事は「沖縄の誇りと自立を愛する皆さまへ」(辺野古・大浦湾から 国際法市民研究会)第39号から転載したもので文責はオルタ編集部にあります。


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