【オルタ広場の視点】
統一地方選挙・衆議院補選の総括
◆◇ 亥年選挙
朝日新聞記者だった、故・石川真澄氏によれば、亥年の参院選は、保守系の有権者の棄権率が高まるという。亥年の1947年に第1回統一地方選挙と参院選が実施されたため、3と4の公倍数である12年ごと(参院選は3年に1度・統一地方選挙は4年に1度実施される)、すなわち亥年に統一地方選挙と参院選が同時に実施される。地方議員たちは、自分たちの選挙が終わった後に実施される参院選で、有権者への働きかけを怠るため、地方議員の働きかけで投票先を決めることが多い保守系の有権者が選挙に行かなくなるというわけである。
そのため、亥年の参院選は自民党が不調になることが多い。1971年の参院選では社会党が1人区を中心に善戦し、その後、野党が推す河野謙三参院議長が誕生するきっかけとなった。1995年の参院選では結成間もない新進党が躍進し、自民党は不調だった。2007年の参院選では民主党が躍進し、一方自民党は歴史的な大敗を喫し、2009年の政権交代の礎を築いた。しかし、野党が自民党以上に不振ならば、保守系有権者の棄権率が高まっても、亥年の参院選は自民党の勝利に終わる。1959年・1983年の参院選がその例である。
今年は亥年で参院選が予想されているが、1971・95・2007年型になるか、1959・83年型になるか、どちらであろうか。それは統一地方選挙と衆議院補選の結果で予測することが可能であると思う。そして、結論から先に言ってしまえば、今年の参院選は1959・83年型になる可能性がきわめて高いと思われる。
◆◇ 野党が不振だった統一地方選挙・衆議院補選
なぜならば、統一地方選挙・衆議院補選ともに野党は不振で、参院選で波乱を起こす要素が全く見られなかったからである。
旧民進党勢力(立憲民主党・国民民主党)は道府県議選・政令市議選で前回選挙より当選者を減らし、市議選では前回より当選者を8人増やしたに過ぎなかった。日本共産党は共に当選者を減らし、特に市議選では57人も当選者を減らしている。知事選では与野党対決に持ち込めたのは北海道のみで、それも候補者の選定に手間取って、完敗に終わっている。
ここまで野党が不振だった亥年の統一地方選挙も珍しいのではないか。参院選が野党の敗北に終わった1959年の統一地方選挙でも、社会党は知事選で不振だったものの地方議員数は大幅に増やしているし、1983年の統一地方選挙では北海道・福岡県知事選で野党候補が勝利している。
衆議院補選では大阪12区で共産党現職が辞職して無所属で立候補し、他党が協力する方式をとったが共産党支持層すら固められず、大敗している。このことは、野党が連携すれば、それぞれの政党の支持票が自動的に積み上がるわけではないことを示している。いくら野党が連携しても自民党に対する対抗軸を示せなければ、有権者の支持は獲得できない。自民党に代わって野党は有権者に何を実現しようとするのかを明らかにしなければ、野党共闘路線は効果を発揮することが出来ないであろう。
なお、衆議院補選が実施された沖縄3区・大阪12区共に自民党候補が敗北したことで、「自民党に痛手」などと報じられているが、沖縄3区はもともと野党の議席であったこと、大阪12区は大阪府知事・大阪市長のダブル選の影響で日本維新の会が勢いを保っていたことを考えると、両選挙区ともかなり特殊な選挙区であり、両選挙区で自民党が敗北したことを以て、来る参院選での自民党の苦戦を予測するのは早計であろう。来る参院選は投票率が下がるものの、自民党の勝利に終わるのではないか。
◆◇ 大阪維新快調のなぞ
今回の統一地方選挙で印象深かったのは、日本維新の会は関西以外の地域では全敗しながら、大阪維新の会が大阪府議選・大阪市議選では前回に引き続いて過半数あるいはそれに近い議席を獲得したことである。もはや大阪維新の会は一過性のブームによって躍進した政党ではなく、大阪限定ではあるが、かなり強固な組織を構築した組織政党となったとみてよいであろう。これまで革新知事や無党派知事など、非自民系首長は議会での支持勢力が少数派であることに悩まされてきたが、維新系の首長は自前の党組織を作り上げ、議会で過半数かそれに近い支持を短期間で作り上げた。このようなこれまでの日本の地方政治史上なかった現象である。
問題はなぜ、大阪維新の会がかくも強さを大阪において発揮するかということである。関東に住んでいると、大阪維新の会の不祥事をよく耳にするが、それが原因で大阪維新の会の勢いが衰えたという話を聞かない。多少の不祥事ではびくともしない大阪維新の会に対する大阪の有権者の支持はどこからくるのであろうか。大阪のマスコミや芸能界が維新系首長を持ち上げていることに維新支持の強さを求める考え方もあるが、マスコミ人気が圧倒的に高かった革新知事や無党派知事ですら成し遂げられなかったことを維新はなぜ成し遂げたのか、詳細な分析が必要であろう。
◆◇ 議員のなり手不足
今回の統一地方選挙では無投票の選挙区が数多く出現し、議員のなり手不足が深刻な問題として捉えられた。議員のなり手不足の原因としては以下のような理由が考えられる。
一つは特に小規模な自治体では議員歳費が少なく、議員活動だけで生活するのが困難であること。第二に議会が平日の昼間に開催されたり、議員に立候補するためには仕事を辞めなければならなかったりと、給与生活者にとって議員になるハードルが高いことである。
第一の問題を解決するためには、議員がいくら歳費を受け取り、一方で議員活動にはどれだけの費用をかけているのかといった情報を広く、有権者に知らしめることである。とかく「議員は歳費を受け取りすぎだ」と主張して議員歳費の削減を公約に掲げる候補者のほうが有権者の受けが良いが、私は議員活動にかかる様々な諸経費を考えたら、現在の議員歳費は少なすぎるぐらいだと考えている。このような考えの違いが生じるのは、議員活動にいくらかかるのかが有権者に知られていないせいであると思われる。議員歳費がこれ以上削減されれば、議員に立候補できるのは十分な資産を持つ者だけになり、資産を持たない者の意見は反映されなくなってしまう。
もう一つの問題は海外でおこなわれているような、議会の開催を夜間におこなうことや議員に立候補した場合は当落を問わず休職を認める制度の導入で解決し得る。現在の地方議員の多くは自営業者中心であり、給与生活者の意見が反映されにくい構成になっている。給与生活者の立候補を促す仕組みを整備するだけで、議員を志す者の数は飛躍的に増えるのではないだろうか。議員のなり手不足を嘆く前に、地方議会のあり方を根本的に変えることを真剣に検討する時期に来ているのである。
(小山高専・日本大学・東京成徳大学非常勤講師)
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