【コラム】日中の不理解に挑む(20)
絵本から見る「老百姓」の生活
読書の秋。この時期になると、地元の小学校での読み聞かせ活動が始まる。毎回、どんな本を読もうかと思案するのも楽しいが、必ず一冊は多文化に触れる作品を選ぶようにしている。そんな中で出会った、中国の作家による絵本をいくつか紹介したい。
普段は基本的に時事ネタを扱っているが、絵本は「普通の生活」を描いている作品が多いので、中国やその生活を垣間見れるのでは・・・?と思ったのがきっかけ。今回はちょっとした変化球だと思ってお楽しみいただければ幸いです。
●『チュンチェ(春節)−中国のおしょうがつ−』
(余麗瓊/作、朱成梁/絵、中 由美子/訳、光村教育図書)
遠くの街に出稼ぎに出ているお父さんが、年に一度だけ帰ってくるお正月。お父さんが帰ってくる大晦日から年明けまでの数日間を描いた物語です。お正月を迎える準備や一緒に作る湯圓、龍灯といった、中国の風習も目を引きます。作者の体験を基に描かれているので、親子の互いを思い合う温かい気持ちの描写が非常に細やかで、読む度に心が癒されます。巻末には作者や挿絵家のエッセイもあって「一粒で二度おいしい」作品です。
●『ヤンヤンいちばへいく』(原題:荷花鎮的早市)
(周翔/作、文妹/訳、ポプラ社)
チュンチェがお正月の話なら、この作品は田舎のお祖母ちゃんの誕生日をお祝いする話です。舟に乗って市場へ買い物に行く場面では運河が描かれていて、思わず蘇州の町を連想しました。作者は江蘇省南通市で幼少期を過ごしているので、もしかしたら田舎のお祖母ちゃんは蘇州の人かも・・・と想像しながら読むのも一興です。町や人々の様子がページのほぼ全面に描かれていて、絵だけでも楽しめます。
●『すみれほいくえん』(原題:小紅点児)
(鄭春華/作、蔡皋/絵、中 由美子/訳、福音館)
家族から「パタパタ」と呼ばれる腕白な男の子が、保育所で体験する様々な出来事を、章立てでストーリー展開している作品です。原題の小紅点児は、保育所の子ども達のおでこにつけられる赤い丸印のことで、この丸印を先生につけてもらってから、パタパタには友達もでき、保育所生活が始まります。
保育士経験を持つ作者だけあって、子ども達の描写がとても生き生きとしています。原書の初版が1985年なので、描かれている世界はだいぶ古いかもしれませんが、日本も中国も子どもは一緒だなぁと感じられる一冊です。
●『北京−中軸線上につくられたまち−』(原題:北京中軸線上的城市)
(于大武/作、文妹/訳、ポプラ社)
北京の街が最初に生まれた頃から現在までを、中軸線に沿ってその様子の変化を描いている作品です。中軸線とは、北京の街の中心を南北に貫く線で、重要な建物はすべてこの線上に配置されています。いわば「北京の背骨」とも言える中軸線に視点を置いて、街の歴史と文化を紐解いています。絵はとても精巧で、まるで一幅の絵画のよう。巻末の解説では、より深く北京の街を俯瞰できます。美しい街並みを堪能できる一冊です。
他にも心に染みる作品は多数あるのですが、千夜一夜物語風に「では、この続きは、また明日」。
(筆者はCSネット・スタッフ)
※この原稿は日中市民社会ネットワーク(CSネット)メールマガジン2015年10月号(第54号)から著者の許諾を得て転載したものです。