【沖縄の地鳴り】

緊張—与那国島に自衛隊配備

平良 知二


 与那国島に陸上自衛隊の沿岸警備隊が配備された。
 自衛隊の沖縄での新基地建設は、本土復帰後、初めてである。辺野古への米軍新基地問題で、沖縄全体が揺れているとき、その間隙をぬって、ということでもないのだろうが、県民の強い関心をあまり集めることなく発足式も行われた。対中国をにらんで尖閣関係の監視・警備を任務とするが、周辺海域の緊張は一層高まる危険性がある。

 与那国島は台湾との関係が深い。台湾東部の花蓮市と特に友好関係があり、経済交流を中心に国境を越えた結びつきをさらに強めようと構想しているときに、中国との尖閣問題が起きた。自衛隊には、好機と映ったに違いない。
 島内では、自衛隊配備をめぐって反対、賛成の住民対立が起き、住民投票にまでなった。結局、賛成多数で自衛隊の受け入れが決まり、3月28日に沿岸警備隊が発足した。隊員や家族約250人が新たな住民となる。この数は島の人口の15%にあたる。

 台湾・花蓮との経済交流に関わり、自衛隊配備に反対してきた町議会議員のひとりは、自衛隊の“人口圧力”を懸念する。人口が減り続ける島にとって、一気に15%もの人口増はたしかにありがたいかもしれない。しかし、これだけの数である。しかも、ひとつの組織として指示系統の強い、まとまりのある数だ。「政治バランスが崩れ、自治のない島になりかねない」恐れがある。島の伝統的な行事、祭りなど、文化・民俗的な面でも不都合な事態が生じないか、心配になる。
 一方で、国境の町の利点を生かす花蓮をはじめとする台湾との交流関係は、それほど進展していない、とも聞く。

 与那国島だけではない。石垣、宮古島にも自衛隊の配備計画が急浮上している。石垣、宮古島の自治体首長は誘致の姿勢であり、自衛隊側と交渉を始めている。尖閣問題で地元に自衛隊受け入れの空気が生じているとはいえ、自衛隊側の配備に向けた早い動きは、中国に対する国民(あるいは県民)感情の悪化に便乗した狡猾さを感じさせる。
 「辺野古が唯一」「辺野古(沖縄)以外にない」との脅し文句と連動する形で、米軍と一体となった対中国・前線基地化の狙いに違いない。南の玄関口として東アジアの平和・友好の確立に寄与するという県民の未来像は、きな臭さの中に沈みかねない。

 先日、石垣島出身の友人が「日米安保と同様、日中安保を考えたらどうか」と、今の状況を憂えて語った。自衛隊を配備して中国を敵視するのではなく、同じ方向へともに進むよう策を考えるのが政治ではないのか、と。中国の南シナ海での強硬姿勢は、素人目にも強権的に映るので、対中国感情が悪くなっているのはやむを得ないとして、だからこそ緊張をほぐす策をひねり出したい、と。
 同感である。
 今は緊張を高めてばかりいる。一触即発の事態に陥ることを危惧する。

 (元沖縄タイムス編集局長)


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