【編集後記】 

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◎2012年5月5日は全国で50基の原発が全部止まったという記憶されるべ
き日だ。ただし、政治の明確な意思によって原発がゼロになったのではないのは
哀しいが、私たちはこの日を「命を奪われたくない。奪いたくない」という原点
から、経済成長の神話と呪縛から解き放れた新しい日本社会の創造について考え
る起点にしたい。

政府・財界は全原発の停止を恐れ、福島事故の本格的な検証も済ませず、安全規
制機関も未確立なまま、大飯原発の再開を急いだ。原発がなくても日本経済が動
いては原発再稼働が難しくなるからだという。勿論、今は電力消費がもっとも大
きい盛夏ではないが、原発が止まれば日本社会は壊滅するという脅迫は何であっ
たのか。原子力ムラは政府を動かし、まだ懲りずに国民を騙まそうとするのか問
いたい。

4月27日、近藤昭一(民主)河野太郎(自民)山内康一(みんな)阿部知子
(社民)加藤修一(公明)の衆参議員が世話人となり、国会7会派の超党派議員
10人で「原発ゼロの会」が立ち上がった。編集部では直ちに羽原清雅氏の司会
で近藤昭一氏と阿部知子氏との対談をお願いし、今後の方針を聞いた。

当日は近藤議員が官邸での打ち合わせのため、朝9時半からの対談となったが、
阿部議員が「近藤さんは次代の民主党リーダーだから」と励ます一幕もあり、大
いに盛り上がった。メンバーが10人で少ないのではという羽原氏の質問に対す
る「私たちは毎週水曜日の朝7時半に議員会館に集まり、何回も研究や立法作業
するので少人数に限定している。素案が出来れば広く呼びかけるのだ」という阿
部さんの説明に私たちは納得した。なお、原発ゼロ方針を鮮明にした近藤議員に
は、驚くほど多く支持者の声が寄せられたという嬉しいニュースもあった。

◎長い間、オルタに毎月『農業は死の床か再生のときか』を連載され、3.11
以後はそれを「放射能雲の下に生きる」として、実際に風評被害に苦しみつつ農
業を営まれる日々の記録をお寄せいただいている濱田幸生氏から、今月は『脱原
発の扉は慎重に開けねばならない~日本はドイツの轍を踏んではならない~』を
頂戴した。この論考は、脱原発に反対するのではなく、慎重に進めないと折角の
脱原発気運が台無しになる。脱原発政策にはリアルな視点が必要であり、ドイツ
における脱原発推進政策の光と影を直視すべきだという問題提起である。

◎野田総理は訪米し、冷戦時代の思考そのまま、ひたすら対中包囲の日米協力強
化を謳う。しかし、いまや世界は多極化し、ある意味では米中2強時代に入って
いる。私たちは、米中関係をいかに考えるべきなのか。今号の海外論調短評(56)
で初岡昌一郎氏が現在も米政権に大きな影響力を持つ戦略家ヘンリー・キッシン
ジャー氏の「フォーリン・アフェアーズ」4/5月号 における論文『米中関係
の将来―衝突は必然でなく選択の問題―』を重要なものとして詳しく紹介された。

さらに、これについて中国の動向を中長期的な視点から考察されている久保孝雄
氏に『「米中関係の守護者」としてのキッシンジャー』として前掲の彼の見解を
さらに論評して戴いた。読者にはこの2編の論考を合わせてお読み頂き、久保氏
が『「中国封じ込め」戦略に前のめりに加担しつつ、ヒステリックなまでに反中・
嫌中に傾斜している日本の政財官+メディアの主流派の人々に、卒寿の老戦略家
キッシンジャーの謦咳に触れて「早く目を覚ませ」』と指摘されていることを玩
味し、ともに考えたい。

◎大統領選挙が終わったばかりのフランスから、鈴木宏昌氏のホットなパリ便り
が送られてきた。今、世界の目はギリシャ再選挙、そしてEUの動向に注がれて
いる。久しぶりの社会党政権は、どのような政策をとるのか。これから隔月に寄
せられる予定の鈴木氏のパリ便りを読者と共に期待したい。

◎【書評】には日本経済や資本主義全般について詳しい英国の碩学ドナルド・ド
ーア(ロンドン大学教授)の『金融が乗っ取る世界経済―21世紀の憂鬱』を松
永優紀氏に、若手政治研究者・佐藤信氏の『60年のリアル』を木下真志氏に取
り上げて戴いた。

◎4月21日、長年オルタ編集にお力添えを頂いてきた河上民雄先生のお見舞い
に伺い、オルタ100号祝のデコレーションケーキを頂いた。25日9時30分、
第2衆議院議員会館で羽原清雅司会・近藤昭一・阿部知子両氏の対談を録音録画。
26日オルタ発信協力者土居厚子さんと会食。5月1日野口壽一・加藤真希子・
下山裕斗氏とオルタの映像活動企画について打ち合わせ。3日山口希望・岡田一
郎・堀内慎一郎氏らと運動史研究会。7日竹中一雄・初岡昌一郎氏と懇談会食。
11日日本教育会館でソシアルアジア研究会で石井知章名大教授の「最近の中国
の社会経済動向」を聴き、引きつづき総会・懇親会に出席。12・13日伊豆・
川奈に荒木重雄夫妻をお訪ねする。

                            (加藤宣幸 記)

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