■編集後記
────────────────────────────────────
◎7月2日、梅雨の晴れ間からさしこむ陽光のようにまぶしい明るいニュース
が琵琶湖畔から日本中に伝えられた。一人の女性がすでに着工されていた無
駄な新幹線駅の建設を止めたのである。環境社会学者の嘉田由紀子京都精華
大学教授が自民・公明・民主が推薦し、新駅建設を推進する現職知事を破っ
て当選したのだ。この選挙には単に一地方の知事選にとどまらない意義があ
る。長年全国の反公害住民運動に携わってこられた公害研究会代表仲井富氏
に緊急報告をお願いした。
◎今年の梅雨時日本列島には例年と同じく、各地から水害情報が伝えられる。
繰り返される災害に麻痺した私たちは、いつの間にか水害を地震と同じよう
な天災として諦めてはいないだろうか。これについて「内水被害」と言う角
度に絞って、人災を防ぐための方策を力石定一先生に考察して頂いた。
◎全地球を熱狂に包み込んだW杯の1カ月は終わった。多くの日本人は、ねむ
い眼をこすりながら「世界との差」を実感したはずである。それは単に「チ
ーム力の差」というよりも「サッカー文化の差」というようなものかも知れ
ない。日本のマスコミからおびただしく流され、振りまかれた「日本サッカ
ーへの幻想」と「世界サッカーの実像」との乖離でもある。それらについて、
女性Jリーグ理事である三ツ谷洋子さんに日本サッカーにとってW杯ドイ
ツ大会とは何であったのか。日本のスポーツジャーリズムのあり方などを含
めて率直に論じていただいた。三ツ谷さんは「オルタ」7号でアテネオリン
ピックについてお話くださって以来、久々のご寄稿である。
◎わがコイズミ宰相がプレスリーの館でハシャギまくっているとき朝鮮半島
ではミサイル発射の準備が着々と進んでいた。ブッシュのポチとして「世界
の日米同盟」と勝手に舞い上がり、「地の果て」までお供をすることを世界
に喧伝していたが、作家の嵐山光三郎氏は『いきなり小泉首相が踊り出した
ときプレスリー元夫人の顔は凍りつき、ブッシュ大統領は引いて、のけぞる
ばかり。気の毒なのは、小泉首相に肩を抱かれて「強く抱きしめたい」と歌
われたプレスリーの娘リサ・マリーで、無理して笑顔をつくるものの口もと
はひきつっていた。だってプレスリーが大嫌いだったのは「ネズミと日本人」
だったからね。』(週刊朝日7月21日号)と書いている。
このコイズミ路線を継承しようという安部官房長官は早くもミサイル基
地攻撃論を口にし始めた。それは改憲・集団自衛権コースのたどる道筋に違
いはないが、もうひとつ彼らがひた隠ししているのが「徴兵制」であろう。
それが公然と議論され始めると「改憲国民投票」に不利だと分かっているか
らである。その「徴兵制」を戦争体験のある世代ならではの視点から西村徹
先生に鋭くえぐっていただいた。
◎戦争体験世代といえば、わが「オルタ」の編集共同代表の富田昌宏氏は鍬を
片手に俳句結社「渋柿」を主宰しつつ、「太平山麓九条の会」副会長として
大童である。
7月1日には、小森陽一氏を招いた「太平山麓九条の会」発足記念集会で栃
木市文化会館小ホール(450名)を満員にしたが、そのとき、カンパのため
に会場で売られた「俳句ハガキ」は富田氏の作『 武器持たぬ ものこそ勇
者 松の芯 』を書家の田中佑雲氏が墨痕鮮やかな書にしたものであった。
私も贈られたが、見事な出来映えで売れ行きも大変良好とのことである。
町長のユニークな反戦活動として「オルタ」でも何回かご紹介した下野国
分寺の元町長若林英二氏もますますお元気で、今月、9冊目の著書『語り部
の四季』を上梓され、「戦艦大和の最後」と「自分自身の軍隊生活」を対比
しつつ、戦争のむなしさと反戦を強く訴えておられる。そして代表を務める
「栃木県南憲法九条を世界へ未来へ連絡会」の記念集会を7月23日に国分
寺公民館で開く予定とのお便りを頂戴した。
お二人のように、いまや、少数派になりつつある「戦争を知っている」世代
の奮闘には「戦争だけは二度としまい」という執念を感じて、ただ頭が下が
るばかりである。
◎今月の「北から南から」にはいまや定番となった南忠男氏の北の便りに加え、
西村徹先生の肝いりで、遙か南方の中国・深?から佐藤美和子さんのいきい
きとした中国生活体験レポートをお届けすることになった。 四千年の歴
史・十三億の人口という文字通り巨大な隣人をどのように理解するのか。お
そらく万巻の書を紐どいても、真髄にはふれられまい。百聞は一見にしかず
に違いはないが、さらばといって観光旅行を何回か重ねても大した意味をな
すまい。
では、どうするか。バリアーは高いが、中国人社会に溶け込み、生活を通
して観察して見るのはどうであろうか。そこには虚飾がなく、その実相が顕
わになる。それをどう読み取るかは読み手の器量次第である。幸い佐藤美和
子さんは中国語に堪能で、バイタリテー溢れる日本女性である。私たちは良
きナビゲーターとともに中国社会の一端に触れてみたい。
◎韓国・釜山国際映画祭でドキュメンタリー部門最優秀賞をとった『あんに
ょん・サヨナラ』という日韓共作映画を観た。主人公の韓国人女性イ・ヒジ
ャさんは日本軍の軍属として戦死した父親が、遺族の知らぬ間に勝手に靖国
神社に祀られているのを知って、合祀を取り下げの訴訟を起こす。韓国・中
国・日本とロケをしながら、彼女の心の葛藤をドキュメンタリータッチで画
きだす。「靖国」が単に日本の国内問題でないこと私たちに強く訴える必見の
作品である。
いま、「オルタ」編集部は、この映画と全く同じ視点で『オルタ叢書』の
『海峡の両側から靖国を考える』(仮題)の出版編集作業を進めている。著
者は「オルタ」の執筆者河上民雄・西村徹・朴菖煕の三先生で資料解題は岡
田一郎氏である。この映画との連携も視野に入れながらメールマガジン「オ
ルタ」はデジタルメデイア・印刷メデイアとのメデイアミックスで靖国問題
の本質に迫っていきたい。
(加藤 宣幸)