【編集後記】 

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◎ 著者・読者の皆さんに「オルタ」53号の発信がパソコンのトラブルで
  データが消失し、その回復のため5日間遅れたことを深くお詫び致します。
  創刊以来はじめて毎月20日の定時発行が守れずご迷惑をお掛けしました。
  今後、不手際のないよう十分に自戒しますのでご海容ください。

◎ 今月は編集の焦点を平和憲法に当てた。私たちの「オルタ」は、『九条を守
る』ためにはあらゆる方々と手を組んで進む方針です。巻頭には著名な憲法学者
森英樹名古屋大学名誉教授の津九条の会における講演記録(要旨)「『迷走する
改憲、疾走する壊憲』~「克服しようとしない過去」を抱えて~」を頂き、さら
に気鋭の憲法学者松村比奈子東京理科大学講師の『「九条」と私たち~今,何を
どうすれば良いのか?――憲法学者の「護憲論」批判的視点から~』のご寄稿も
頂戴した。

 最近の報道各社による世論調査は一斉に福田内閣の支持率が20%を割って政権が
危険水域に入ったことを伝えるとともに、憲法問題に関する世論が落ち着いたこ
とを明らかにした。特に注目されるのはドン渡辺恒雄氏が先頭に立ち、「1000万
部」を誇示しながら、なりふり構わず強引に改憲世論形成に狂奔している読売新
聞の数字である。「今の憲法を改正しないほうが良い」が43.1%で昨年より、4.
0%増、「改正する方が良い」は42.5%で3.7%減、実に「憲法改正」反対が賛成
を15年ぶりに上回った。全国各地に広がる「九条の会」運動の取り組みなどもあ
って国民は小泉・安倍時代の喧騒から醒めつつあるが「壊憲勢力」は決して諦め
てはいない。私たちも粘り強く平和憲法を護る取り組みを続けたい。

◎「オルタのこだま」には堺市の木村寛さんから『平和憲法記念メダル』のこと
について提案があった。是非どこかの九条の会で取り上げて運動のツールとして
使って貰いたいものである。また今井正敏さんから憲法論議に関連して「成人は
18歳か20歳」問題の提起があった。

◎「北から南から」では、かって大阪府八尾市助役として長い間自治体経営に携
われた森田桂司さんから、「話題性」では全国区の大阪の知事・市長選について
の見解をお寄せいただいた。国民が分権の徹底による「国つくり」を求めている
時に、大阪の府・市行政から聞こえてくるのは職員がらみの醜聞ばかりという情
けない状況はいつまで続くのか。全国民は厳しく大阪人の動きを注目しているよ
うに思う。
   その大阪から山田麻衣さんの「ある日曜の出来事」と題する心温まる報告が
寄せられた。自分だったらどうしただろうかと強く読者の心を打ってやまない。
   毎号、中国南部の深センから一外国人としての生活体験を軽い筆致で送っ
て下さる「佐藤レポート」はたとえ「今日の中国」を葦の隋から覗くものであっ
たとしても生の情報として貴重だ。今月は病院事情の実体験記となった。

◎ 「オルタ」前号でもお伝えしたように、5月10日東京・明治大学で『社会
環境フオーラム21』の結成総会があり出席した。このフオーラムは「オルタ」
の執筆者である荒木重雄氏が会長に就任されたほか、社会・自然科学の学際を越
えて100人近くの研究者や市民が参加し、環境問題に対する新しいアプローチを
目指している。今後の活発な活動を期待したい。

◎  5月16日東京・青山のホテル・フロラシオンでソーシアルアジア研究会の
例会と総会があった。代表者は「オルタ」のレギュラー執筆者である初岡姫路獨
協大学名誉教授であるが、研究会運営の中心を担っておられる前島東海大学名誉
教授、中島元ILO労働側理事、山中元日教組副委員長、松井元中央労働委員な
ど錚々たるメンバーはすべて「オルタ」の執筆者である。メンバーには「オルタ
」の読者も多く、ある婦人の方からは「毎月20日の定時発信が良く守られていて
ご苦労さんですね」と励まされ、男性の方からは最近読者を大分勧誘したがホー
ムページに人数が現れるようにしたらどうか。と声をかけていただいた。「オル
タ」はこういう方々に支えられているのだと実感し、感謝の念を深くした。

◎ 去る5月3日、栃木県大平町でオルタ編集代表富田昌宏氏夫人イチさんの葬儀
が弔問者約400名参列のもとに行われた。富田氏は長い間夫人の介護・看護に努
められながら俳句結社「柿の木」を中心とする俳句指導・大平農協の地域活動・
九条の会の平和運動などに取り組まれ地元では大変な名望家で人々の信頼は厚い
。こういう方を編集代表に迎えていることは「オルタ」の誇りでる。「オルタ」
は信頼の根をますます深く大地に下ろして行きたい。参列された多くの太平山麓
九条の会メンバーや全国の「オルタ」読者とともに心から弔意を表したい。

◎ 「オルタ」51号に掲載した河上民雄先生の『日本知識人のアジア観』(オル
タ50号記念講演)は多くの読者から反響がありましたが、原稿の一部について史
実の正確を期すため先生からのお申し出でにより下記について一部追記いたしま
す。

※  築地の聖路加病院の近くに慶應義塾の発祥の地を記念する碑があり、「天
は人の上に人を造らず人の下に人を造らずといえり」と云う『学問のすすめ』の
冒頭の一句が彫られています。     (この文章の次に下記を挿入する。)

  しかし、この碑(慶應義塾創立百年を記念して1958年に設置)では「と云え
り」が削られ、この言葉が福沢諭吉の創作のような印象を与えます。福沢は恐ら
く、アメリカの独立宣言の一節、”All men are created equal” を福沢流に訳
したものと思われます。直訳でありながら、見事に日本語にしているところは、
流石、福沢と感心しますが、福沢を批判的に研究する安川寿之輔教授は、福沢の
思想を集約したものとして人口に膾炙するこの言葉も「と云えり」を付けること
によって、微妙ではあるが、福沢の自らの思想の表明にはなっていない、と指摘
しています。

                      (加藤 宣幸 記)

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