【編集後記】 

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◎ 2009年8月18日、遂に「政権交代」の総選挙が告示された。今回の総選挙で
は戦後日本政治をほぼ一貫して支配してきた自民党政権が終焉を迎える可能性が
高い。この画期的な選挙に際して、この号のトップには、私たちの「オルタ」が
反貧困運動の取り組み行動に強く賛意を表するため、年越し派遣村で名を馳せた
活動家湯浅誠氏が事務局長の「反貧困ネットワーク」が主催する【「総選挙目前
!私たちが望むこと」集会】宣言(7月31日)全文を主催者の許可を得て載せる
ことにした。

私たちは特定の政党を固定的に支持するわけではないにしても年収300万円以下
の所帯が増え続ける社会がなぜつくられたのか。その原因と経過を確りと見据え
、貧困問題に取り組まない議員は要らないという立場から是非投票したい。
 
◎ 総選挙告示前後からの各種報道はしきりに民主党の優勢を伝える。それは
それなりに国民の「政権交代」に賭けたいという気分を示してはいても、当事者
である民主党はこの報道に舞い上がってはなるまい。この視点から、特に民主党
に勢いをつけたとされる東京都議会選挙結果について検証し、華々しく「民主党
圧勝」が報じられた裏に問題はないのか。将来の展望はどのように切り開かれる
のか。

などを「民主党よ驕るなかれ!」として元共同通信社会部記者の平野正志氏に
「東京都議会選挙の実態」を、公害問題研究会代表として全国の地域政治情勢
に詳しい仲井富氏に「都議選大勝にひそむ危なさ」「都議会関係者に聞く」と
それぞれの角度から総括をお願いした。小泉劇場型選挙が大量のチルドレン議員
をつくり、その三分の二の多数こそが自民党の驕りを生み、その数の重みで自滅
しつつある自民党の姿を民主党は反面教師として自戒しないと折角の政権交代も
「槿花一朝の夢」となろう。
       
◎ 解散・総選挙を目前にした6月、地方分権を声高に叫ぶ2人のタレント知事
の動きにマスコミ・ことにTVの放映が集中した。特に東国原宮崎県PR担当知
事をめぐる自民党との茶番劇は国民とくに宮崎県民をシラケさせた。役者2人が
踊る舞台の背景は何か。それは逼迫する財政事情、目に余る縦割り行政の弊害な
ど今や構造的な行き詰りを見せる日本の行財政システムであろう。

この劣化した統治の仕組みを根本から打ち破るには徹底した地方主権の確立に
よる霞ヶ関の解体しかない。今回の総選挙でどの政党が、このような「国のか
たち」を描き、その実現に強い意欲を持つのかを国民が選ぶ。したがって主役
は国民であり、2人の知事は脇役である。これらについて八尾市助役を長く務
め、退任後も自治体学会副会長として地方自治確立のために情熱を注いでおら
れる森田桂司氏に寄稿をいただいた。

◎ これだけ喫煙が健康に悪いことが分っていながら、「たばこ産業の健全な
発展を図り、もって財政収入の安定的確保および国民経済の健全な発展に資する
」という「たばこ事業法」によって民営化されたとはいえ独占企業であるJT会社
の株の過半を国が握り世界的な規模で盛んに事業を拡大している。そして一方で
は「たばこ規制枠組み条約」を批准していて政府の政策は全く矛盾している。

こういう条件下でも日本の禁煙運動は粘り強く続けられてきた。これについて
長い間献身的に活動してこられた全国禁煙推進協議会副会長の渡辺文学氏から
「禁煙嫌煙運動30年を振り返って」として日本の禁煙・嫌煙運動の歴史を世界
の運動と比べながら分りやすく懇切に説明していただいた。これを読んだ私た
ちは、この運動の一層の発展に協力しなくてはと思う。

◎ 今月から元桜美林大学教授で沖縄在住の吉田健正氏に「A Voice From
Okinawa」として「沖縄の視点から日本や世界を評する時評的な論考や薩摩の琉
球侵攻400年、世界のウチナンチュー,沖縄の習俗・風習、癒しの島と観光」
などについてご寄稿頂けることになった。
吉田氏は大学でカナダ地域研究、日米関係、ジヤーナリズム論などを専門とさ
れておられましたが、沖縄に戻られてからは『沖縄タイムス』などで健筆を振
るわれておられます。私たちは、読者とともに吉田氏の筆を通して「沖縄」と
心底から向き合って行きたいと思います。

◎ 7月31日、湯浅誠氏が事務局長を勤める「反貧困ネットワーク」が主催する
【「総選挙目前!私たちが望むこと」集会に参加した。会場の東京・神田の総評
会館ホールは350名を越える参加者の熱気でムンムンしていた。各党代表に母子
家庭・障害者・官製ワーキングプアー・外国人・高齢者・医師・若年労働者・奨
学金受給学生などなど各分野の代表がその切実な要望を訴え続けたのだ。会場に
はこの声を何としても30日の投票に反映したいとの思いが満ちる。とくに歴代自
民党政権が自らの恥部が明らかになるので避けつづけてきた『貧困の実態調査』
について、民主党の菅副代表が政権を取れば必ず実施すると発言していたのは印
象的であった。私たちは新政権の下で、まずは貧困をなくす前提となる『実態調
査』が早急に実現されることを期待したい。

【朗報】
  「オルタ」執筆者の深津真澄氏(元朝日新聞政治部、朝日ジヤーナル副編集
長、論説委員)の著書『近代日本の分岐点―日露戦争から満州事変前夜までー』
(ロゴス社2008年6月刊、定価2600円)が(財)石橋湛山記念財団により2009年
度(第30回)「石橋湛山賞」の受賞作に決定されました。(オルタ56号(2008年
8月)で書評掲載)
  今、日本は敗戦から64年たち「国のかたち」、「国の進む途」が問われていま
すが、20世紀日本を代表する思想家石橋湛山は1921年に「小日本主義の勧め」を
論じて日本の針路を明確に示しました。その石橋湛山の「自由主義、民主主義、
国際平和の可能性を追求しつづけた思想にふさわしいもの」としてこの本が高く
評価され、受賞作に選ばれたことを読者とともに心から喜びたいと思います。

                                (加藤 宣幸 記)

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