【編集後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◎昨年は「政権交代」が実現し、始めて国民の手で首相を選んだ。その新政権
は成立100日を過ぎ、鳩山・小沢氏の資金問題では小沢氏秘書逮捕、そして普天
間基地移転問題では決断力の不足が日米同盟を揺るがす、などと大手マスコミに
よる批判の大合唱にさらされ支持率を急速に下げている。 しかし、冷戦が終り
ソ連崩壊から20年、米中の相互依存関係も深まり、時代が変わった。果たして在
沖米海兵隊は日本の安全保障に必要なのか。本質的な議論のないまま、ひたすら
「日米合意」の即時履行をせまるマスコミの大合唱には全く頷けない。
政権交代があれば政策変更は当然である。私たちは成立したばかりの鳩山政権に
ついてどのように考えるべきなのか久保孝雄氏に「平成維新の成就をめざして-
日本を一度せんたくしたく候・坂本竜馬―」をご寄稿いただき、新年号巻頭論文
とした。
◎今、普天間基地移転問題が日米関係の焦点になっている。本土に住む私たち
は県外移転を切望する沖縄県民の気持ちと一体になっているだろうか。総論賛成・
各論反対で、本土移転を受け入れようとする住民はどこにもいない。しかも積極
的に声をあげて政府に国外移転を迫る者は今のところ少数である。これで、なに
が沖縄県民の負担軽減なのか。
今年は日米安保条約締結50年、節目の年である。その安保条約第6条に基いて
定められ、不平等といわれながらも50年間一度も改定されていない日米地位協定
(「施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」)で、
在日米軍基地の75%を背負い込まされたのが沖縄である。この現実に日本政府
の政治家や官僚がいかに冷たいか。そして米軍に対する特別扱いがいかに対照的
であるかを『日米地位協定―法治国家の治外法権―』として吉田健正氏に論じて
いただいた。
◎さきに鳩山政権は自民党政権が隠し続けてきた日本の貧困率が15.7%である
ことを公表した。果たしてOECD加盟30国中、メキシコ・トルコ・アメリカに
ついで世界4位の惨めさであった。つい先日まで自民党麻生首相は、口を開けば
日本は世界第2の経済大国だと威張っていた。何のことはない見るに耐えない惨
状だ。これは経済格差だけではない。OECD加盟先進6カ国の国民所得に占める
社会保障給付額を比較したとき、スエーデン41.5%・ドイツ38.8%・フランス
36.9%・イギリス28.9%・日本23.7%・アメリカ17.1%(2001年調べ)でアメリカ
についで下から2位である。とても経済大国などと威張れるどころではない。
まさに国際労働基準についても中核的条約である強制労働禁止の105号、平等・
反差別の111号の2条約が未批准であり、とても先進国などとは言えない。さらに
100号条約は男女の同一価値労働・同一賃金に関するものだが、これについても
日本は名だたる男女不平等国家としてILO理事会から何回も違反を指摘される
という始末である。これらの実情と克服への課題をILO理事(労働側)としてジ
ュネーブで活躍されている中嶋滋氏に問題を提起していただいた。
◎今年の新しい企画として「河上民雄20世紀の回想」の連載を開始する。河上
民雄氏の厳父河上丈太郎氏は戦前から無産党の国会議員になった生粋の社会民主
主義者で戦後は日本社会党委員長も務めた。60年安保闘争では右翼の凶刃に刺さ
れ、危ふく一命を取り留め、人格者・キリスト者であることなどから「十字架
委員長」として親しまれ敬愛された。
民雄氏は英国労働党を研究し、近現代史を専攻する歴史学者である。長く丈太
郎委員長のスピーチライターを務め、父の没後は、推されて衆議院議員になり
日本社会党国際局長として1960年代から90年代まで大活躍された。現在は東海
大学名誉教授である。
連載は「55年体制の回想」から始まるが時系列的ではなく、出来るだけ父子
二代にわたる社会民主主義者の視点から、現代政治にもかかわる切り口で回想し
て頂く企画である。これは市民メデイア「オルタ」がデジタルメデイアとしての
アーカイブ機能を生かし、後世に歴史記録を残そうとするものなので読者からの
ご支援も期待したい。
なおインタービュー関係は日大講師(政治学博士)で日本社会党史研究の岡田一
郎氏、テープ整理は大阪の木村寛氏にお願いした。
◎今月の書評では、ユニークな2冊をとりあげた。一冊は「生存権所得憲法168条を
生かす」で、題名の憲法「168」条とは9条25条14条28条92条を合計した数字だ。
意表を衝くネーミングだが、著者は社会主義運動の活動家出身で現在はロゴス出版
社の経営者である。評者は元朝日新聞論説委員の深津眞澄氏にお願いした。
二冊目は「中国への日本人の貢献」―中国人は日系企業をどう見ているの
か―で中国での日本語を学ぶ青年の作文コンクール優秀作品を集めたものを日中
交流研究所長の段躍中氏がまとめたものだ。評者は元国会議員で長い間、日中交
流運動に取り組まれてきた前和歌山県日中友好協会会長の貴志八郎氏である。
◎新年おめでとうございます。市民メデイア「オルタ」も73号に成長しまし
た。一層編集内容の充実に努めますので本年も宜しくお願いいたします。
(加藤 宣幸 記)
目次へ