【編集後記】 

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◎政治と金を巡って鳩山政権の支持率は急速に落ちているが、重要な政治課題で
ある普天間基地問題でも、沖縄県民や国民全体のホンネを汲み上げ、政権がそれ
を力に対米交渉に臨むという姿勢はまったく見えない。日米安保・沖縄基地問題
を冷戦後、大きく変わったアジア情勢のなかで位置付け、動かそうともしていな
い。それどころか県内を模索する気配だというのでは唖然とする。私たちは、沖
縄県民とともにグアム移転を目指す与党議員の動きに期待するだけというのでは
政権交代の成果があまりにも虚しい。

◎安保50年の今年、「オルタ」としては、日米安保条約が2005年に小泉政権があ
たふたと米国と合意した『日米同盟:未来のための変革と再編』で、有事の対応
が極東から世界になり、その性格が根本から変わった(元外務省国際情報局長孫
崎享)とされる日米安保の本質を問い続けたいと思う。今月はその企画として東
海大学教授の榎彰氏に「歴史的分岐点に立つ日本~正念場に差し掛かった民主党」、
沖縄在住・元桜美林大学教授の吉田健正氏には「在日米軍基地に対する国民のホ
ンネ」を論じて頂き、元社会党国際局長の河上民雄氏には20年前に中央公論誌上
で行った米国務省高官アーミテージ氏との対談を軸に「アメリカと日本社会党」
として今日的課題にも絡め回想して頂いた。
  
◎政府は鳩山首相が国連でCO2の25%削減を訴え、今国会には地球温暖化対
策基本法を提出し、本格的な温暖化対策に取り組み始めた。しかし戦略的視点は
なお弱い。低炭素循環型社会の実現は人類的課題であり、これまで、具体的な政
策提言を通じ、長年警鐘を鳴らされてきた法政大学名誉教授力石定一氏に「低炭
素社会への日本の道」をご寄稿願った。

◎またまた傲慢石原東京都知事は「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改
正という言論抑圧につながりかねない危険な条例を制定しようとしている。日大
講師岡田一郎氏に、事と次第では、かっての警職法反対闘争にも比肩するものに
なるネット社会の猛反発状況などをふくめ、緊急に問題の重要性を指摘して頂い
た。

◎初岡昌一郎氏の「海外論調短評」では米国コロンビア大学の学術誌『コロンビ
ア・ジャーナリズム・レビユー』の中から「アメリカ・ジャーナリズムの再構築」
を取り上げられた。「アメリカのジャーナリズムは転形期にあり、主要日刊紙と
有力通信社の分業による報道支配の時代は終り、もっと分散的なニュースの収集
と流通の時代に入り、広告で支えられた経済基盤も崩れた。」という指摘はその
まま日本にも当てはまる。
 
ちなみに08年度の連結決算では読売▲80億・朝日▲139億・毎日▲12億・産経
▲26億で日経だけは49億円の黒字であった。特に長年黒字だった朝日が突如巨額
の赤字を出したのは驚きだが、果たして広告の減収だけが問題なのだろうか。
  『「朝日」「東京」のどちらを止めるか』とは往年の朝日新聞花形記者本田勝
一氏が週刊『金曜日』に朝日OB5人からの年賀状で2人が「朝日」を止めて「東
京」にしたという記事の見出しだ。「東京」が「変わり」、「朝日」もまた「変
わった」ことを朝日OBが書くことに問題の深刻さがあるように思う。

◎オルタ71号で関良基拓大助教は八つ場ダムで国土交通省がやった飽和雨量の過
小設定による杜撰な流量計算の間違いを指摘された。これを1月16日付東京新聞
は関氏の顔写真入りで大きく取り上げている。デジタルの「オルタ」がアナログ
(紙媒体)マスコミへの口火役を果たした一つの嬉しい例だ。

◎まだ数は少ないが、「オルタ」はワシントン・北京・ソウル・モスクワ・台北
などの日本語を解する知識人に送られている。すでに、新聞・TVはニュースの
速報性ではインターネットに敵わない。しかし的確な主張・掘り下げた調査分析
などのニーズはむしろ高まっている。この世界的なメデイアの転形期に「オルタ」
はデジタルメデイアとしての諸特性を自覚し、さらに世界への発信にも努めたい。

◎【研究論叢】では、社会運動史研究家荒木傳氏に日本現代史の汚点として強く
記憶される大逆事件を「大逆事件に連座した大阪群像」として大阪の視点からの
研究論文頂き、【書評】は国際基督教大学千葉真教授の『「未完の革命」として
の平和憲法』~立憲主義思想史から考える~を千葉大学特任研究員宮崎文彦氏に
お願いした。また【連載】では、私たちがイスラムの人々とどのように向き合う
かについて貴重なヒントを載いてきた荒木重雄氏の「宗教・民族から見た同時代
世界」が再開された。

◎2月27日、「マスコミ九条の会・大阪」などが主催する『暴かれた国家のウソ』
~沖縄密約訴訟を考える集い~に北岡和義日大教授とともに参加した。講師は
日隅一雄弁護士・我部政明琉球大教授・元毎日新聞記者西山太吉氏であったが、
とくに事件の当事者西山氏の元気な発言には300人を超える満員の会場が歓呼で
応えた。翌日は地元荒木傳氏の案内で、適塾に緒方洪庵の偉業を偲び、大阪城公
園の社会運動家顕彰塔では先覚者の霊に心からの敬意を表した。

(加藤宣幸記)

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