【編集後記】 

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◎浜岡原発が止まったことは、その理由が何であれ、まずは素直に良かったと思
う。これを原子力依存からの脱却という明確な方針を確立し、浜岡原発を始めと
する全国の原発を逐次停止から廃炉に持ち込むエネルギー政策転換の国民的な戦
いの第一歩だと位置づけたい。言い換えれば原子力推進で國を誤る力と国民の力
との長いせめぎ合いの始まりなのである。今回、東京電力は情報の操作・隠ぺい
など傲慢・官僚的でガバナンスが欠如した企業として、メデイアとくに外国メデ
イアからその企業体質を強く問われたが、この体質が根ざす根源は発電・送電・
配電を一貫して持ち、公共的企業として民間と国策の両面を使い分け地域独占に
胡坐をかいていたことにある。

◎さらに東電は電力十社のトップとして永年、強大な政治力を誇る電事連(電気
事業者連合会)や原子力に群がる有力メーカー・ゼネコン・銀行・各種団体・自
治体など480団体が加盟する原産協(日本原子力産業協会)を牛耳り、膨大な資
金(2011年度原子力関連予算概算要求額4556億円)の使途に深く関与し、本来競
争のない企業がなぜか莫大な広報宣伝費(例えば東電は2010年約243億円)を注
ぎ込んで中央地方の自民党・大手マスコミ・学者・評論家などを巻き込み、国の
エネルギー政策を原子力依存に誘導し歪めてきた当事者である。

◎彼らが推進した原子力政策そのものがこの大事故を生んだのであり、東電の企
業体質だけでなく、この政策を推し進めた日本の政治風土そのものも問われるべ
きなのだ。これらについて日本のマスコミの切り込みはなぜか弱い。今号では
【原発震災特集】として、実際に現地で放射能の風評と闘いながら農業を営む濱
田幸生氏に『原発災害と闘う―被災県は負けない―』を、さらに世界的に有名な
リベラル派週刊誌『ネーション』の「原子力発電の過去、現在、そして未来」を
【海外論調】で初岡昌一郎氏に寄稿して戴いた。

また『原子力に代わるエネルギーとしての天然ガス』を北海道大学名誉教授望月
喜市氏、『21世紀の放射能をどう生きるか―核シエルターから原発災害まで―』
をアメリカに住む武田尚子氏、『芦原原発阻止成功の記録』を当時運動に参加し
た三重県の高木一氏に夫々お願いした。また西村徹氏には【横丁茶話】の『東京
が揺れている』で震災を論じ、【オルタのこだま】には災害に関連して濱田さん
を激励する杉本美樹枝・西村徹両氏のメッセージを加えた。

◎依然としてデフレから脱却できない日本財政は震災復興の財源を果たして増税
なしで賄えるのか。編集部は菅内閣の財政通である前財務副大臣・内閣官房参与
の峰崎直樹氏に「日本財政の現状と課題」を聞いた。あらためて「政府・与党社
会保障改革検討本部」事務局長として政務多端の中をオルタのために長時間のイ
ンタービューに応じていただき感謝したい。

◎4月26日、映画「大地の詩」~留岡幸助物語~(山田火砂子監督)を新宿・武蔵
野館で観た。明治・大正・昭和初期の社会事業家で熱心なクリスチャンの留岡幸
助氏が少年感化事業に取り組み、東京と北海道に「家庭学校」を建設・運営した
生涯を画いたもので制作費は全国の熱心な支持者たちが集めた。ちなみに元日本
社会党委員長河上丈太郎氏の厳父河上新太郎氏も施設建設協力者として登場す
る。一人でも多くの人たちに薦めたい。

◎5月7日東京・市ヶ谷でアムネステーインターナショナルの50周年記念チャリテ
ーパーテーがあった。かって韓国軍事政権から死刑判決をうけ19年間も下獄した
立命館大学の徐勝氏の記念講演の後、イーデス・ハンソンさんや竹下景子さんな
どによるチャリテーオークションがあり、創立期からのメンバー江田五月法務大
臣夫妻も参加していた。

◎5月11日神保町の学士会館でオルタ同人の羽原清雅氏の『「門司港」発展と栄
光の軌跡―夢を追った人・街・港―』上梓を祝う会がオルタの執筆者と読者有志
で催された。羽原氏から謝辞に代えて『全国社会運動資料センター』(仮称)設立
運動の呼びかけ提唱があり出席者の賛同を得た。メールマガジン「オルタ」とし
ても積極的に支持したい。
 
◎5月13日九段・教育会館で初岡昌一郎氏が20年にわたって主宰するソシアルア
ジア研究会の年次総会があり、記念講演として元国連大学副学長武者小路公秀氏
の「グローバル化した世界における人間安全保障の課題」もあり、大いに盛り上
がった。

◎井上定彦氏から頂いた書評『パンとペン堺利彦と「売文社」の時代』及び柏井
宏之氏の『排除にあう人たちに就労の法制を』は原発関連原稿輻輳のため次号に
なったことをお詫びします。

                  (加藤宣幸記)

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