【選挙分析】

自民惨敗の千代田区長選挙と維新全敗の北九州市議選

仲井 富


◆投票率53%台で小池支持の現区長5選

 千代田区長選は、2月5日行われ小池知事と組んだ石川現区長が圧勝した。個人的に魅力はなく、5選出馬にも批判が高かったが、初めて1万票を超える得票だった。投票率は53.67%で、前回より11.40ポイント増えた。小池ブームが続いていることを示したもので、7月の都議選を控えての千代田区での惨敗は、自民党都連にとっては衝撃だろう。
 得票: 石川雅己 16,371票  与謝野信 4,758票  五十嵐朝青 3,976票

 共同通信社が実施した同日の出口調査によると、小池百合子知事の都政を支持する人のうち72.6%が、小池氏が支援した現職石川雅己氏に投票、次いで五十嵐朝青(あさお)氏15.1%、自民党推薦の与謝野信氏は12.3%だった。小池都政を支持しない人では与謝野氏が53.8%で、石川氏と五十嵐氏がいずれも23.1%だった。

 投票先を決める際に小池氏の支援の有無を考慮したと答えた人のうち72.0%が石川氏に、14.7%が与謝野氏に、13.3%が五十嵐氏に投票。7月の都議選で「小池氏が支援する候補に投票しようと思う」と答えたのは全体の62.8%に上った。支持政党別では、与謝野氏が自民支持層の27.8%しか固められなかったのに対し、石川氏が自民支持層の61.7%を獲得。石川氏は公明支持層の90.9%、民進支持層の70.6%を獲得したのに加え、「支持する政党はない」と答えた無党派層の65.5%の支持を得た。築地市場の豊洲への移転問題を巡り、「移転は断念すべきだ」と答えたのは全体の50.0%、「移転を実現するべきだ」と答えたのは35.2%だった。(東京新聞2017・2・6)

 朝日新聞も同日、出口調査を行っている。朝日の出口調査では、投票者の政党支持は47%が自民、ついて無党派37%、以下民進6%、共産3%、公明2%、維新1%、自由1%となっている。両者の出口調査で注目すべき点を二、三指摘したい。
 まず第一に無党派層の動向だ。朝日の調査では無党派層は調査対象者の37%で、自民支持者の47%に次ぐ。無党派層の65%(共同)67%(朝日)が石川氏に投票している。次いで五十嵐氏に21.8%(共同)20%(朝日)、与謝野氏は12.7%(共同)13%(朝日)だ。

 第二に注目すべきは共産党支持者の動向だ。千代田区内では区議選などでは常に3,000票台を獲得し、公明、民進党を上回っているが、共産党支持者の66.7%が小池支持の石川現区長に投票しているのだ。もっとも石川区長に批判的な野党を貫いている共産党のはずだが、統一候補の擁立にこぎつけられなかったこともあって、小池知事の改革姿勢に支持を表明せざるを得なかったということだろう。昨年の東京都知事選挙で、共産党は野党統一候補の鳥越氏を擁して選挙戦を闘ったにもかかわらず、共産党支持者の19%が小池氏に投票していた(朝日新聞出口調査16・8・1)。共産党支持者も近年は投票行動に現実重視の姿勢が顕著であり、それを反映しているといえよう。

◆代理戦争に与せず独自の訴えで健闘した無所属五十嵐の存在感

 第三に注目すべきは維新支持者の投票行動だ。ここ二、三年で、日本維新の安倍政権擦り寄りは誰の眼にもはっきりしているが、維新支持者は常に冷静だ。各地の野党統一候補が勝利した選挙では、維新支持者の約4割は野党候補に投票し、2割が自公の候補者に行くというパターンだ。区長選挙でもその傾向は顕著だった。共同の調査では、維新支持者の投票行動は三つに割れた。石川、五十嵐、与謝野ともに33.3%と3等分されている。民進党支持者は70.6%が石川に投票、公明は90.9%が小池支持の石川氏に投票している。与党病の公明党は小池ブームを都議選に利用することに必死だ。だが都議選までは自民と決別しそうなフリはするが都議選を終えれば、必ず自民党とのよりを戻すことは確実だろう。なにしろ創価学会を先頭に「どこまでもついて行きます下駄の雪」の自公政権なのだから・・・。

 自民と小池の代理戦争とマスコミは書きまくったが、このなかで冷静に、代理戦争に与せず、独自の選挙活動を行った五十嵐氏の得票が、わずか一週間の街頭と区内各地のラジオ体操参加などで支持を広げ、自民党国会議員と組織を挙げた与謝野氏に700票余の差まで追い上げたのは、まさに大健闘というべきだろう。産経新聞が東京地方欄で五十嵐健闘の背景を分析している。「自民票が無所属の五十嵐に流れたとの声も上がる。自民区議は、小池・内田の代理戦争ばかりが注目され、区民不在の選挙戦を嫌う自民支持者が、両者と関係のない五十嵐を選んだようだと指摘する」(産経新聞17・2・7)。そういわれると五十嵐の得票の大半は共同などの出口調査から類推すると無党派層の2,000票余と自民党票の1,000票余から得たものとわかる。

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◆北九州市議選 開票結果 維新七つの選挙区で全員落選
  投票率過去最低の39.2% 北九州市議選 公明共産が議席増

 今年初の大型地方選挙として注目された北九州市議選(定数57)は1月29日に投開票された。自民党は改選前より2議席少ない18議席となり、民進党は改選前と同じ7議席にとどまった。公明党は2議席増の13議席、共産党は1議席増の10議席、日本維新は改選前の3議席全てを失いゼロ議席となった。以下は西日本新聞記事の要旨である。

――各党が年内にも予想される次期衆院選の前哨戦と位置付ける中、自民、民進の与野党第1党はともに勢力を拡大できなかった。投票率は39.20%で、過去最低だった前回の41.95%を下回った。定数削減で、2013年の前回よりも4議席少ない57議席を80人が争った。

 自民は前回より1人多い20人を擁立したが、現職2人が落選した。民進はベテラン現職と新人が落選する一方、元職が返り咲き改選前の議席を保った。全7選挙区に候補者を擁立した維新は全員が落選した。公明は新人4人を含む13人全員が当選。共産は改選前に議席のなかった八幡東区で新人が当選し、全員当選で10議席に伸ばした。次期衆院選で野党共闘を協議している民進に差をつけた形になり、衆院福岡9、10区の候補者一本化調整に影響を与える可能性がある。
 社民党、ふくおか市民政治ネットワークはともに1議席。無所属は7人が当選した。当選者は現職46人、元職1人、新人10人。女性は11人で、過去最多だった09年の9人を上回った。当日有権者数は80万2,380人(市選管調べ)――

 国政選挙の前哨戦ともいうべき地方選挙での勝敗は、次の総選挙、参院選挙を占う試金石と言える。北九州市は、小選挙区二つを持つ、福岡市に次ぐ大都市だ。今回の市議選で、最も特徴的なことは、維新の退潮ぶりである。前回、4年前の013年1月の市議選で維新候補は、7つある選挙区のなかで、3つの議席を確保していた。今回は7つの選挙区全区に候補者を立てた。しかし、現職3人を含め全員が落選した。近畿を除く維新の退潮ぶりをはっきりと示したということができる。

 現職で八幡西区の八木徳雄(現)は 2,680票、定員6名中次点落選 (2013年市議選3,640票)。同じく現職で若松区の加藤武朗(現)は1,269票で次点落選(2013年は3,676票、5位当選)。さらに定員15人の八幡西区の荒木学(現)は1,737票で落選(前回2013年は5,668票、定員15中7位当選)。いずれも惨憺たる敗北で、次の総選挙への基盤を失ったと言える。ちなみに013年7月の参院選比例区で、維新は北九州市において約3万7千票を獲得している。

 前回013年の参院選における北九州市の共産の比例区票は約4万7千票。公明の比例区票は約7万6千票である。両党は共に議席を伸ばし公明13議席、共産10議席となった。投票率40%にも満たない選挙戦だったから固定票を持つ公明、共産が有利だったともいえる。

 福岡県全県における維新の比例区票は013年参院選が約23万票(11.26%)、016参院選が約15万票(7.0%)と低落している。しかも016年の福岡地方区に維新公認候補を立てたが、得票数は約9万4千票(4.3%)と惨敗を喫している。その凋落ぶりは、近畿ブロックを除けば、全国的に顕著であることが証明された。(メールマガジン・オルタ2017年1月「日本維新の与党化の背景と公明党のさらなる変質 その一」参照)。北九州市で共産党は次の総選挙に向けて足場を固めた。民進党より議席も得票数も多く、野党統一候補が実現すれば014年総選挙で自民1、民進1の議席を、2議席とも野党が確保できる展望すら可能となった。

 (世論構造研究会代表)


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