【沖縄の地鳴り】

沖縄県民投票結果 若者が動かした全県投票と今後の展望

仲井 富

◆全県民投票を勝ち取った若者と沖縄自公の良識 佐藤優氏の卓見

 第一には、今回の県民投票が最終的には全県民参加の投票となった要因は二つ挙げられる。一つは元山仁士郎さんを中心とする沖縄の若者の立ちあがりだ。元山さんが、県民投票に反対する5市に対して、自らが生まれ育った宜野湾市で投票できないことに抗議のハンストを始めた。これに対して若者が続々とかれの決起に賛同のメッセージを広げ、現場に駆け付けた。

 満田夏花さんらは以下のような呼びかけをネット上で拡散した。
 ―― 2月24日に予定されている辺野古の是非を問う県民投票、沖縄全県での実施を求めて27歳の元山仁士郎さんがハンストを行っています。元山さんは宜野湾市出身。「生まれたときから基地が身近にあった」という彼は県民投票を求めて、粘り強く署名を集め、県民投票の条例制定を実現させた立役者です。自分たちの未来を自分たちで決める、そのために意思表示をする当然の権利を奪わないでほしい。そうした想いを誰が無視できるでしょうか。元山さんの勇気ある行動に心から、敬意と連帯の意を表します。私たちにできることはたくさんあります。微力でも無力ではない! まわりに伝えることもその一つ。私たちにできることから行動を起こしましょう!(FoE Japan 事務局長 満田夏花)――

 同時に注目すべきは、辺野古埋め立てに賛成し県知事選挙で自公選対の青年部長を務めた嘉陽宗一郎さん(24)のことだ。嘉陽さんは、賛否はともかく県民投票にすべての県民が参加すべきだという立場で元山さんらと話し合い共闘した。さらに自民党県本部の照屋守之会長らの奔走で、公明党をも含めた三択方式での県議会における全県民投票の実現に至った。

 これについて佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)が東京新聞で以下のように指摘している。
 ―― 24日に投開票がおこなわれた米海兵隊普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古(同県名護市)への移設に伴う辺野古沿岸埋め立ての是非を問う沖縄県民投票の結果、反対43万4,273票になった。投票率52.48%だった。県民投票がおこなわれれば、反対が多数になることは予想されていた。だから、辺野古基地建設を容認する勢力は、一部の市町村が県民投票を実施できなくなるように画策した。一時期、5市が県民投票に参加しなくなる可能性が生じていた。それを変化させたのが、沖縄の公明党と自民党だ。中央政治の論理とは別の位相で、沖縄の分断を阻止する方向でこの二党が動いたことを筆者は高く評価している。
 辺野古推進を考える勢力からすれば、投票率ができるだけ低くなり、県民投票の正統性が失われるような状況をつくりたかった。しかし、それは失敗した。特に興味深かったのが、辺野古沿岸埋め立てを承認した仲井真弘多元沖縄県知事も投票したことだった。仲井真氏は、どのような投票をしたかについては述べなかったが、投票結果がどうなるかは、当然、予測していいた。投票行為によって、仲井真氏は県民投票の正統性を承認したのである。政治的立場にかかわらず沖縄の分断を阻止するという方向で多くの沖縄人が団結した。――(東京新聞 018年3月1日)

 以下の資料は、県民投票の結果及び直接関連する宜野湾市と名護市の投票結果である。下図は各党支持者の投票行動出口調査だ。賛否の結果は、自民支持者では反対が48.0%、賛成が40.0%と辺野古埋め立て反対が多数だった。公明支持者も反対が54.9%と賛成25.8%なった。沖縄県で最も多い無党派層は82.80%と賛成の9.3%を圧倒している。全県民投票にならなければ、県民の3割が投票に参加できなくなり、賛否はともかく50%以上の投票は不可能だった。

<資料> 県民投票結果及び宜野湾市・名護市の投票結果

●沖縄県
  投票率:52.48%
  有効投票総数:60万1,888票
  賛成:11万4,933票(19.10%)
  反対:43万4,273票(72.15%)
  どちらでもない:5万2,682票(8.75%)[140]
●宜野湾市
  投票率:51.81%
  賛成:9,643票(24.4%)
  反対:2万6,439票(66.8%)
  どちらでもない:3,500票(8.8%)[141]
●名護市
  投票率:50.48%
  賛成:4,455票(18.0%)
  反対:1万8,077票(73.0%)
  どちらでもない:2,216票(9,0%

画像の説明
  沖縄県民投票出口調査 共同通信 東京新聞 2019・2・26

◆日本維新の会・下地幹郎の背信行為 県民投票結果を誹謗

 日本維新の下地幹朗氏の背信行為には沖縄県民は唖然としたことだろう。彼は前回2016年の知事選挙では、反対:賛成の二択方式で決めるという独自の方針で知事選挙に出馬した。結果的には6万9千票という支持票を得た。私は下地氏の国会事務所に電話した。「前回の知事選で県民投票で決めろと仰ったが、今回は県民投票に賛成ですか、反対ですか」。秘書は曰く。「いまは立て込んでいますので後で連絡します」と言った。しかし無回答だった。

 下地氏は、今回は真っ向から県民投票に反対した。県民投票の結果を受けて、彼はツイッターで「県民投票が終わり開票が終了しました。『反対』43万4,273票、『賛成』11万4,933票、『どちらでもない』5万2682票、これに投票に行かなかった55万余の県民を加えれば『反対』は43万人超、『反対以外』が計71万人との結果になりました」と書いた。
 これには早速、著述業・菅野完氏が次のように反論した。
 ―― 「では沖縄1区の選挙結果は今後、下地ミキオ=3万4,215票、下地ミキオ以外=23万5,460票。すなわち下地ミキオ=12.7%、下地ミキオ以外=87.3%と総括すればよいですね」――とツイッターで皮肉られた。

 県民投票の結果を小さく見せたいのはわかるが、それを言い出したら今までも今後の全ての選挙も投票率の低さは民意を反映していないということになる。本土の地方選挙では、大半が自公民社民連合推薦対共産党という構図が大半だが、その結果が見えているから、投票率は50%をはるかに下回る。沖縄県民の過半数が投票し、かつ自民公明支持者をも含めて反対票が圧倒したことの意味は大きい。それを真っ向から否定したのだ。
 しかし下地氏の正体は直ちに明らかになった。すでに沖縄では周知の事実だが、下地一家は土建業で辺野古埋め立て工事の受注をしていることが、すぐさまネット上で暴露されたのだ。

 ―― 下地幹郎先生は辺野古埋め立て受注会社の一族:下地幹郎先生の父・下地米一さんは、国場組に次ぐ沖縄の大手ゼネコン「大米建設」の創業者であり、兄の下地米蔵さんは大米建設の社長をしている人物です。下地幹郎先生自身も大米建設の副社長だったことがあり、まさに「大米建設」は辺野古基地建設の工事を受注している会社だということになります。典型的な防衛利権マフィア」である。大米建築の二男がいったい何を言っているのか理解できる人がいたら教えてほしい。しかも、後に見るように、下地一家の大米建設は、辺野古の第2工区の埋め立て工事を73億7,694万円 でご落札。埋め立て工事の工期は2020年3月31日までとなっている。――

 下地幹朗氏と日本維新の実態を暴露してあまりある。前回の衆院選で辛くも比例復活を果たしたが、今度こそ沖縄県民はノーを突き尽きるだろう。

◆参院選展望 野党幹部は2016年野党共闘の教訓に学べ

 2016年の参院選では、島尻安以子を推した沖縄県における自公維新与党3党の比例区得票は合計約29万票だった。対する伊波洋一を推したオール沖縄側は、社共民進3党で合計約24万票弱。比例区票では完全に敗北しているのになぜ伊波36万票対島尻25万の差となったのか。一言でいえば、安倍政権の持つ与党一強体制は「争点のある対決型選挙には負ける」という弱点を持っているということだ。
 争点がしっかりしていて野党統一候補でまとまれば、自公維新の支持者、さらに最大勢力の無党派層の関心を喚起し投票所に向かわせ統一候補に投票する。2016年参院選は全国32の一人区で野党統一候補がまとまった。とりわけ東北6県の一人区で秋田を除いて5県で野党候補が勝利した。(下図参照)

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  2016参院選 無党派層の東北6選挙区の投票先 共同通信出口調査

 この結果を受けて日経新聞などが、次の衆院選で2016年参院選のように野党統一ができれば自公維新の与党勢力は敗北するという分析データを示した。最も敏感に反応したのが自民党だ。菅官房長官らは自民党第五列の前原や細野など対米従属派に官房機密費をばらまいて、野党分断を仕掛けた。これが橋下、小池の談合による「希望」への参加だった。支持者には何の説明もなく、議員団だけで、おりからの小池ブームに乗ってしまった。仕掛け人の細野元民主党幹事長はいまや自民党に鞍替えした。

 橋下徹氏はこれら一連の動きを「小池さんも前原さんも歴史に名を残す決断」と絶賛した。結果はどうか。希望はもろくも敗北。分断された民進党は立憲民主党として辛くも生き残ったが、大失敗だった。小池希望と大阪維新も棲み分けで選挙を戦ったが橋下維新もさらに得票を落とし、全国政党から大阪・近畿だけの地方政党に転落した。民進党も立憲民主と国民民主に分裂したまま、未だにコップの中の争いで、どちらが参院の野党第一党になるかを争っている。

 以下に示した2016年参院選における東北6県の無党派層の投票動向によれば、野党統一がなった場合、6割から7割が野党に投票している。これが勝利の大前提だ。そして下図に見るように、野党共闘によって、自民支持層の11%、公明支持層の24%、維新支持層の46%、無党派層の56%が野党候補に投票している。特に維新支持層は、野党共闘の場合は自民への投票は34%にすぎない。沖縄を先頭とする2016年参院選の野党共闘の成果を認識できずウロウロする立憲と国民民主ら旧民主党系幹部は救いがたいほど頭が悪い。

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  朝日新聞 016・7・11参院1人区・各党支持層の投票先

 (『オルタ広場』編集委員 公害問題研究会代表)

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