【横丁茶話】

藤田若男の「先任権確立」について

                     西村 徹

 一身上の都合により当分書けなくなります。そこで、このところオルタを読み返すことがあって、ちょっと気がかりなこと、心残りの無いように誰かに回答して頂きたいと思うことが出てまいりました。それだけを書いておきます。よろしくおねがいします。

 29号に木村寛さんが藤田若男という人のことを書いています。私は藤田若男について知るところがほとんどありません。名前だけは頻繁に木村さんから伺っていますが、内容はお題目以上に出て、噛み砕いて興味がわく程度にまで敷衍したところを聞かせて頂いたことはないので、まったく知らないも同然です。

 本編中
[ 藤田が「先任権の確立」(昇格はトコロテン式に勤続年数順とする)を主張した ]
とあります。

 この「先任権」は、つまり年功序列のことらしいので、それはそれでわかるのですが、むしろ本来「先任権」は、アメリカ・カナダでよく行われる雇用慣行で、レイオフなどのとき若者のほうから先にクビになって古参のほうが残れるシステム、またレイオフが解除されて再雇用が始まったら古参から先に復帰するシステムらしいのです。

 ちょうど木村さんが29号(2006年5月20日)に書いた数か月前の2006年3月にフランス政府はCPE(初期雇用契約)」導入を決め、相次いで反対のストライキやデモが起こったので、撤回を余儀なくされるということがありました。

 これについて2006年5月1日に森永卓郎氏は日経BPに書いています。

(引用開始)
 実はCPEにはお手本がある。アメリカ企業で広く採用されている「先任権制度(シニョリティ・システム)」である。特に工場労働者がそうだが、景気が悪くなって雇用調整が必要になったとき、勤続年数の少ない従業員からレイオフ(一時解雇)する制度である。
 先任権制度は先輩優先で、雇用に限らず、あらゆる分野で勤続年数の古い社員の既得権益を守るルールだ。例えば、車で通勤するときも、工場に最も近い有利なパーキングを使えるのは古い社員だ。
 アメリカの雇用システムは公正な自由競争で、実力主義と見られているが、実は若者を踏み台に、古株の既得権を守る制度である。
 フランスがこうしたアメリカ型の雇用システムに追随しようとしていることに気づいたフランス国民がCPEを何とかねじ伏せたのである。
(引用終了)

 こうなると藤田若男の「先任権」はアメリカの場合と共通するもののように見えます。北欧諸国では真逆ではありませんが、やはり逆に、先任者も自分たちの給与を減らして若年者の雇用を維持する、いわゆるワークシェアリングの道をとっています。

 たぶん藤田若男の時代は高度成長期で失業問題をさほど考慮しなくてもよく、先任権の問題性に気付かなかったのかもしれません。高度成長が永続すればそれでよいでしょうし、その当時の考えとしては平等主義に基づく発想だったのだろうと思いますが、状況の変わった現在ではこの先任権概念は再検討の上バージョンアップが必要なのではないかと思います。

 労働問題には私はまったく疎いので、藤田若男が当時アメリカの雇用慣行を知っていたのかどうかなどを含めて、もう少し藤田若男の「先任権確立」の詳細について、木村さんでなくてけっこうです、どなたか解説していただければありがたいと思います。

 (筆者は堺市在住・大阪女子大学名誉教授)


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