【コラム】日中の不理解に挑む(14)

覇権より文化力と民力を大切に

李 やんやん


 中国主導のアジアインフラ投資銀行に、米国側とされる欧州の国やオーストラリア、韓国も参加を表明し、ロシアまでも加わり、中国が国際社会における勢力の強さを誇示することができた。政治評論家が言う。覇権を支えるのは軍事力、政治力と経済力。日中によるアジアでの覇権争い。政治力でも経済力でも中国に敵わないのはもはや明白。だから日本の首相が「我が軍」と口走るほど軍事力に賭けるようになったのでしょうか。しかし、10倍の大きさの隣国に、軍事力で挑むのが、賢い選択なのでしょうか。

 国の強さって何でしょう。軍事力と政治力、経済力は表面的な要素に過ぎず、文化力、民力こそが重要なのではないだろうか。中国人が羨む日本とは、技術力や経済力の日本、ましてや軍事力の日本ではない。社会的格差が広がらず、人々が他人に配慮しながら振る舞い、丁寧にそれぞれの仕事と責務を果たし、秩序を重んじ、穏やかで教養ある日常を送ることができる社会としての日本です。アジアの真のリーダーでいたいならば、そのような真の強み、文化力と民力を守り抜き、さらに強化していくことが求められるのではないだろうか。

 そもそも覇者やリーダーが幅をきかせること自体、日本の文化ではなじみがない。数千年もエリート統治を貫いてきた中国は、リーダー重視の文化。それに対して、島国日本は、共生と予定調和を重んじる文化だといえる。日本におけるこのような文化力と民力がアジアで、世界全体でより多くの共感を得ることができれば、より多くの人が、覇権争いやリーダー争いの構図から抜け出し、共生の価値に気づくようになるのではないだろうか。

 3月中旬に私たちは上海で2回目の「東アジア地球市民村」を主催した。昨年度は塩見直紀さんの「半農半X」の思想、今年は辻信一さんのスローライフの思想を中国の皆さんに伝えた。予想をはるかに超える熱い反響から、私たちは「価値観」の魅力と力強さを改めて感じ取りました。

 中国との競争が避けられないというならば、戦略は「提示する価値観、社会像と世界像の違い」を打ち出すこと、それしかない。「我が軍」をなんぼ強くしても、勝てませんって。世界一強い軍を持つ米国だって、あっちこっちで負けっ放しじゃないか?

 (筆者は駒澤大学教授)

※ この記事は日中市民社会ネットワーク(CSネット)2015年4月号(48号)から著者の承諾を得て転載したもので文責は編集部にあります。