【コラム】槿と桜(86)

言い方は同じだけれど……

延 恩株

 韓国は日本と地理的に近いだけでなく、35年間、日本に支配され、強制的に日本化を迫られたという負の歴史がありました。それだけに食べ物の中には日本と同じ名前の食品も残り、韓国人の食生活にすっかり定着しているものもあります。また歴史の積み重ねの中で、最近は韓国からの食品が少なからず日本に移入され、日本の食卓に上がることも珍しくなくなってきています。
 でもそれらが加工という段階を経るに従って韓日両国とも、それぞれ変容して同じ食品とは言えなくなるものも現われてきます。また同じ食品名を使いながら最初から異なっていたり、異なった理解で定着したりしているものもあります。

 たとえば、プルゴギです。この料理は私も好きですが、決して肉を焼く料理ではありません。牛肉の薄切りとニンニク、野菜を炒め、出汁(たいていは醤油系)で煮込んだ料理です。もっともこの料理は、まだ日本の食生活に入り込んでいるとは言えませんから日本での認知度が低いだけなのでしょう。それを証明するかもしれませんが、韓国によく旅行したり、韓国文化に高い関心をお持ちの日本の方はプルゴギがどういう料理かご存じです。

 ところがホルモンとなると、見た目も異なっていますし、その理解も異なっています。ホルモンと日本で言えば、牛や豚の内臓を意味し、すべての部位が含まれます。これらを一口大に切って焼くか、煮込む(味噌味で一般的には「煮込み」と呼ばれています)かして食べます。ところが韓国でホルモンといえば、牛の小腸、豚では腸全体を意味するのが一般的です。しかも、お店で注文すると、日本のように小さく切られていなくて、太くて長く、まるでホースのような長いソーセージという形で出てきます。これを一気に焼いて、はさみで切りながら豪快に食べます。

 このように同じ名前の料理でも、〝ところ変われば品変わる〟と言われますように、その料理が変わってしまうことがよくあります。そこで韓日両国で同じ名前なのに〝ちょっと違う〟から〝かなり違う〟までを覗いてみましょう。もっとも韓国の食について詳しい方なら、すでにおわかりになっていることばかりだと思いますが。

「ラーメン」
 ラーメンは今や日本では国民食といわれるほどで、ラーメン専門店が多く、麺、スープ、トッピングなどにはさまざまな工夫が加えられ、実に種類が豊富です。ところが韓国で一般的にラーメンと言えば、「라면」(ラミョン)を指します。これは日本のインスタントラーメンのことです。韓国では日本以上に即席麺には人気があって、その種類も豊富ですし、なにしろインスタントラーメンの年間一人当たりの消費量は世界一です。最近は日本のマーケットにも韓国の即席麺が並んでいるのを見かけます。

 日本ではインスタントラーメンが店のメニューとしてあるとは誰も思っていませんし、基本的には自分で作って(というほどのこともしませんが)食べる食品という認識ですから、びっくりするのではないでしょうか。韓国では食堂やスタンド形式の店、屋台などで「ラミョン」として扱っていて、学生街などの食堂では小腹がすいたときの人気メニューです。
 ちなみに日本のラーメンは「라멘」(ラメン)と発音され、「라면」(ラミョン)と区別されていますが、韓国では日本のようなラーメン専門店は多くなく、麺類専門店で食べることができます。

「餃子」
 日本でも餃子は中華料理の一つとして気軽に食べられる食品です。高級中華料理店から街の中華食堂まで、餃子のない店はおそらくないでしょう。韓国でも餃子は人気のある食べ物です。形は丸型、帽子型、三日月型など様々です。日本の餃子に比べると皮が厚めで、やや大きく、具は日本と同じように一般的には豚のひき肉と野菜の組み合わせのほか、キムチ入りや春雨入りや豆腐入りの餃子などもあります。もちろん目先の変わった具を使った餃子もあり、それは日本でも同じでしょう。
 日本では焼き餃子がほとんどですが、韓国では蒸し餃子が主流です。でも、このように韓国と日本の餃子で多少の違いはありますが、驚くような違いはありません。

 ところで「饅頭」という漢字が目に入った時、日本だったらどうでしょう。「まんじゅう」ですから中身に甘い餡が入った食べ物を思い浮かべるはずです。でも韓国で「饅頭」(만두 マンドゥ)とあったらそれが餃子なのです。「군만두」(クンマンドゥ 焼き饅頭)は、油で揚げるか焼いたもので、「찐만두」(チンマンドゥ 蒸し饅頭)は蒸したもの、「물만두」(ムㇽマンドゥ 水饅頭)は茹でたものを指します。
 このように餃子そのものは日本とほぼ同じと言えるのですが、日本の餃子が韓国の饅頭に当たるという知識をきちんと持っていないと、とんでもない誤解が生まれてしまう恐れがあります。

「おでん」
 日本で「おでん」と言えば、鰹節と昆布でとった出汁にさつまあげ、はんぺん、焼きちくわ、がんもどき、つみれ、あつあげ、こんにゃく、牛すじ、大根、じゃがいも、ゆで玉子など、さまざまな具材を好みで入れて、長く煮込んだ食べ物です。
 コロナウイルスが蔓延する前までは冬になると、コンビニエンスストアの店内におでんの美味しそうなにおいが漂うことがよくあり、それだけ日本では身近な食品です。

 そのおでんが、韓国でも「오뎅」(オデン)と呼ばれて韓国人にも身近な食べ物となっています。日本語で「おでん」と言ってもたいてい通じます。
 ただ食堂や屋台などでこの「오뎅」を見ますと、日本のおでんと違うことがわかります。野菜などはなく、すべてさつま揚げを薄く長くしたような形の魚の練り物が串に刺されて(串に刺されていないものもあります)いて、昆布や大根や干しイワシ、干しスケトウダラ、干しエビなどの出汁で煮込まれています。また店によっては出汁に唐辛子を加えて辛い味付けにしたものもあります。

 このように韓国の「오뎅」の具材は魚で、それをすりつぶして小麦粉と調味料を混ぜて練って揚げたものを、出汁で煮込んだものなのです。
 韓国にはもともと「어묵」(オムㇰ)という固有の言葉があって、魚肉をすりつぶした練りものです。それが「오뎅」(オデン)と重なるように使われ始め、言い方としては「어묵」ではなく「오뎅」が呼び方として定着していったと考えられます。

「チャンポン」
 日本では「長崎ちゃんぽん」などと呼ばれて、この名称を店名としたチェーン店などもありますが、それをイメージして韓国の「짬뽕」(チャンポン)を店で注文したらその違いにおそらくびっくりされるでしょう。
 スープが真っ赤だからです。日本の「ちゃんぽん」は一般的に肉や野菜、魚介類が多く入っていて、具材ということでは韓国の「「짬뽕」(チャンポン)と同じですが、完全に異なる麺類と言っていいと思います。魚介類スープに唐辛子がたくさん加えられていますから辛さに弱い人には食べられないかもしれません。韓国の激辛料理の一つです。
 具材としてはイカ、エビ、アサリ、カキ、ナマコなどの魚介類のほかに豚肉やさまざまな野菜が入っていますから、韓国人には非常に好まれている麺類の一つで、私も好きな麺類です。

 韓日でのこうした違いはまだまだあるのですが、あとは簡単に触れておきますと、「うどん」と言えば、日本では小麦粉を練って作った麺類の総称ですが、韓国にも発音がまったく同じ「우동」(ウドン)があります。麺そのものは日本のうどんと似ていますが、店で注文しますと麵だけでなく揚げ玉や練り物が入ったものが出て、これが韓国の「우동」なのです。
 また「とんかつ」は韓国語では「돈까스」(トンカス)と呼ばれ、豚肉を使うのは同じですが、日本のように肉厚のものではなく肉が薄く、平べったく大きいのが特徴です。これに日本のようなとんかつソースではなくデミグラスソースをかけて食べます。

 今回取り上げました料理は日本と共通した名前のものばかりでの違いですが、たとえばカレーは多少、具材の切り方などが異なりますが日本とほぼ同じです。でもその食べ方となりますと、食文化の違いが現れているように思います。韓国人のカレーの食べ方は食べる前にカレーとご飯をすっかり混ぜ合わせてから食べる人がほとんどです。ここにはビビンバなどの食べ方を思い浮かべていただければおわかりのように、韓国には食べ物を混ぜる食文化が根付いているからだと私は見ているのですがいかがでしょうか。

 (大妻女子大学准教授)

(2021.11.20)
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