【コラム】
槿と桜(71)

豆腐あれこれ

延 恩株

 韓国でも夏になりますと、冷たい麺類を食べる機会が増えるのは日本と同様で、前回、韓国の冷麺について書きましたが、もう一種、韓国でよく食べられるのが豆乳麺(콩국수)です。
 冷蔵庫で冷やしておいた豆乳を、うどんの手打ち麺、そうめん、地域によってはそばなどにたっぷりかけて、キュウリやトマトなど夏野菜を乗せて食べます。味付けは塩とほんの少々砂糖を使うのが一般的です。

 最近は生活に時短、簡便を求めるためか、市販されている豆乳で作る人が増えていますが、私の母などは先ず大豆を購入し、それを水に漬けて豆乳を作ることから始めます。そのため豆乳麺を食べるとなると、一日がかりの仕事になります。ふやかした大豆とごま、ピーナッツ、時には松の実なども加えてミキサーにかけて作られた豆乳は、大豆などの香りが濃厚で、栄養価が高く、夏バテ防止にはピッタリです。私もつい最近、母の作り方をまねて大豆から手作りの豆乳を作り、豆乳麺を食べました。

 日本では豆乳は豆腐とは別物として扱われていますが、韓国では、この豆乳も豆腐の一種です。しかも豆乳には2種類あります。
 一つは「콩물」(コンムㇽ)と呼ばれるものです。「コンムㇽ」とは「豆の水」という意味のとおり、液状のままで固形になっていません。上述した豆乳麺に使われたり、他のスープの材料として使われたりもします。
 もう一つは「두유」(トゥユ)です。こちらは漢字で表記すれば「豆乳」です。もちろん液状です。ところが、韓国の「두유」(トゥユ) 、つまり「豆乳」は甘みが加えられた完全な飲み物を指しますので、料理用には向いていません。
 日本では料理用でも、飲み物用でも「豆乳」という一つの言葉で通用しますが、韓国では使い分けが必要なのです。

 日本での豆腐は大きく分けると、絹ごし豆腐と木綿豆腐の2種類です。絹ごし豆腐はなめらかな食感が特徴で、木綿豆腐に比べると柔らかいのは、豆乳を型箱のものに入れて、そのまま凝固させるからです。木綿豆腐のように水分を取るという工程がないため、豆乳を入れる箱に穴はなく、豆腐の味が薄くならないように豆乳は木綿豆腐より濃いものが使われます。

 ところが、韓国には日本の絹ごし豆腐よりもっと柔らかい「순두부」(スンドゥブ)という、日本の寄せ豆腐(おぼろ豆腐)に近いものがあります。おぼろ豆腐は豆乳ににがりを入れて、凝固する前に取り出したもので、とても柔らかく、とろけるようなので、そのまま食べるのがいちばんだそうですが、あまりマーケットなどでは見かけません。

 一方、「순두부」(スンドゥブ)は、漢字で表記しますと「純豆腐」で、日本でも鍋料理の「純豆腐」を看板にした韓国料理店を目にしたことがあると思います。韓国では、この絹ごし豆腐より柔らかい「순두부」(スンドゥブ)は、鍋(チゲ)の中心的な食材として使われるのがほとんどで、お店でこの豆腐を買う人を見かけたら、その日の料理は純豆腐鍋(チゲ)と判断してほぼ間違いないでしょう。その他の食べ方としては、日本のおぼろ豆腐と同じようにそのまま食べる時もあります。

 日本の絹ごし豆腐に一番近いのが「연두부」(ヨンドゥブ 軟豆腐)です。ただ絹ごし豆腐より柔らかく、固まり方が弱く、崩れやすい感じです。この豆腐は日本的に言えば、冷奴のようにして食べることが多く、あまり用途が多くないので、販売されている商品数は多くありません。

 そして、韓国でいちばん食べられているのが「두부」(ドゥブ)です。漢字で表記すれば「豆腐」で、あらゆる韓国料理に使われます。日本の木綿豆腐に近いのですが、日本のより固めです。ただ、韓国の「두부」(ドゥブ 豆腐)には2種類あって、一つは汁物(クッㇰ、チゲなど)用です。日本の味噌汁に似ている味噌チゲに入れるのが、この「두부」(ドゥブ 豆腐)です。先述した「순두부 スンドゥブ」は辛いチゲ(鍋)に入れる豆腐ですので、味噌か辛いスープかで豆腐の種類が違ってきます。

 もう一つはプッチㇺ用です。プッチㇺとは、小麦粉と卵をつけて油で焼く料理で、そのため、チゲ用より少し固めです。小麦粉をつけずにそのまま焼いて、お好みの薬味をつけたり、キムチを乗せたりしても食べます。あるいはプッチㇺ豆腐をさらに煮付て食べることもあり、これは私の大好物です。

 ところで、豆腐を作るには、大豆から豆乳を作り、それを搾った後にかすが残ります。この残りかすを日本では「おから」、韓国では「비지」(ピジ)と言います。残り物ですから値段はとても安く、韓日とも豆腐屋の店先などには無料で置いてあります。
 でも、残りかすですが、植物繊維が豊富で栄養価も高く、もっと注目されていい食物だと思います。韓国では鍋料理などに使われ、日本ではおからの炒り煮やおからハンバーグ、クッキーなどに利用されているようです。
 でも豆腐ほどに目が向けられていません。食品としての需要が多くなく、日持ちがしないため、廃棄されてしまうケースが多いようです。とてももったいないと思います。

 韓国には豆腐料理の専門店が郊外に行くと多くあります。これらの店は手作りの豆腐を作っていますから、当然、「비지」(ピジ おから)が出ます。
 こうした豆腐専門店では、お客さんに無料でおからを分けるのが一般的ですが、ただそれだけでなく、さまざまな魅力的なおから料理を創作して、豆腐料理に負けない商品をメニューに加えていって欲しいものです。
 そうすれば一般の家庭にもさまざまなおから料理が食卓に並ぶようになり、豆腐料理ももっと豊かになるのではないでしょうか。

 (大妻女子大学准教授)

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