【コラム】

身近な人からジェンダーを考えた② 夏向けの話題?

坪野 和子

 みなさま、ワクチン接種、いかがですか? 私は1回目の接種はすんなりと済みましたが、2回目の予約が思うように取れません。60歳以上64歳以下の枠から次の下の世代への間隔が短かったからだろうと思う。しかし、学生は夏休みのうちに済ませたいだろう。仕方ないか…。
 さて、今回は夏向けの話題を(掲載は晩夏かもしれないが)。

 ◆ 1.ハダカって何? 素肌の露出

 今現在、新潟市東港にあるパキスタン人が多く居留する地域でパキスタン系日本人の友人の事務所で書類の整理をお手伝いしている。1階に事務所と私が宿泊している部屋がある。風呂も1階にある。部屋から風呂までの廊下は外から覗こうと思えば覗ける環境だ。私はハダカで歩かないように、上をチョリ(インドのサリーの下に着るショートシャツまたはチビTのようなもの・下はブラジャー着用)で下を巻きスカート歩いていたら、「せんせい、ハダカで歩かないでくださいよ!」と叱られた。
 ハダカ?と一瞬思った。「服、着ているじゃん(彼は横浜が長かったので私も合わせて横浜風)」説明を聞いていたら、彼からすれば胸の谷間が露出しているのでハダカであるようだ。都心で見られるフィリピン出身の女性のへそ出しルックより控えめだと思っていたのだが。近所に多くのイスラム教徒が住んでいるので見られたくないらしい。
 日本の中にあっても、いや、あるからこそコミュニティの噂は生活に影響する。車から降ろしてもらって1人でスーパーに買い物をする時は、家ではないので、ショートパンツで歩いても問題を感じないらしい。もちろん別行動だからだ。

[引用]たとえば、裸を見られたらどこを隠す? 答えはひとつという偏見を取り払えのほうが少ない ... なかには、ヘソを隠す女性や、ワキの下を隠す女性だているかもしれません。
 頭がヤワらかい人・カタい人: 発想力を高める心理ゲーム20
 樺旦純(本文ではなく検索ページより)

 この文の大元は有名らしく「顔を隠す」というのが答えらしい。私が子どもの頃きいたのは(読んだ? 記憶が曖昧)へそを隠す、南洋の島の話しだった。しかし、男女ともにハダカに近い姿で平然と日常生活している人たちもいる。いつだったか、ブッシュマンは都会に出かけるときはビジネススーツを着ていくという話しがテレビで放映されていて、観客が驚く、タレントさんが驚くというシーンを観たことがある。当時、私は、むしろテレビの中の人々の反応に驚いた。普段、Tシャツ・ジーンズの人が出かけるとき着替えるのは当たり前で、ドレスコードがあれば合わせる、それは世界どこも同じだと思っていたからだ。

 ◆ 2.男性の目線・視線「隠す」「アピールする」

 私自身の話しに戻る。その数日後、私はチョリの下に谷間が隠れる、下着に見えないブラジャーを着用し、長袖シャツを羽織って、膝上スカートを履いて掃除を始めた。膝上スカートについて何も言わなかった。私の服装全体についても言及しなかった。つまり、何をハダカと感じるかは、彼自身の基準であってイスラム教の基準ではないということだ。彼は女性の脚には興味がないだけである。後述するが、「脚」も隠す対象であるはずだ。

 脚…数年前、可愛いサンダルを買ったのが嬉しくて足もとの写真をネットに挙げた。そうしたら、特に男女の付き合いではない(当然だが)旅行代理店に勤めるインド人男性の友達から、珍しくビデオチャット(テレビ電話)がかかってきた。「あなたの脚が見たい」…それが彼にとってどういう意味であるかとは、私は気づかなかった。…というより私は疎かった。何も考えずにビデオで膝から足首までを映してあげた。
 その日以来、毎日「脚」「脚」とせがまれた。しつこいから私が拒否するまで。意味がわかったのは一昨年。寸法が短めのスカート・黒系のスパッツで出勤したら男子生徒のひとり(社会人から学び直し年齢※定時制高校)が「せんせい、脚やべえ」と言った。そこでもうひとりが出てきて「せんせい、“脚モデル”やってた?」ああそうか! 女性の脚は男性にとって嬉しい気分にさせるものなのか!
 でも、これはすべての男性ではない。膝上スカートを友人は咎めなかったのだから。

 男女ともに異性のパーツのどこかに惹かれる、極端にそのパーツに拘る人を「フェチ」と呼ぶ。文字の上での知識はあった。ただ実感がなかった。
 「フェチ」ではないが、ブラジルでは、女性の「お尻」がチャームポイントだと言われている。確かにこの国の女性の水着姿の写真はお尻がキレイだし、ネットで販売されている人気のブラジル直輸入の水着はヒップが可愛いデザインが多い。現地では、お尻のコンテストが数年前まであったようだ。
 https://www.afpbb.com/articles/-/3149683

 ブラジルの男性が女性に対して魅力を感じるのが「お尻」? 本当にそうか?と疑問を持って調べたり、訊いたりしたところ、個人的には女性の側が自分のステータスをアピールしたいから「お尻」なのだという説が有力だ。
 女性のボディ・パーツ。「隠す」か「アピール」するか、「保護」か「解放・開放」か?

 今まで、あまり気にしていなかった。自分のことを思いめぐらせると、服やお化粧はまずTPOか日本的ドレスコードに基づき決める。服は天候、着回しや機能を優先させている。休日は自分の解放のため動きやすく活動的な服装を無意識に選んでいる。家の中ではタンクトップ+ショートパンツ、甚平、作務衣、二部式着物で過ごしている。家族の目は気にしていない。
 強いて言えば、異性の目ではなく同性の目は気にしていた。年上の女性からだらしなく見られず、同年代の女性に嫉妬されず、年下の女性にお手本やヒントになるよう、校則が厳しい高校の生徒には真似したくないダサい印象を与えるよう地味な服装にしていた。私もまたブラジル女性のお尻と同様に自分のステータス優先なのかもしれない。

 ◆ 3.男性の肌見せは? 日本

 さて、ここで私は考えた。男性の肌見せとは、どのようなものだろうかと。
 ボディビルダーのようなマッチョな上半身のプロフィール写真のインド・パキスタンの若い男の子たちから Facebook で友達申請してくる。しかもメッセージにスポーツジムで友達かスタッフに取ってもらったらしきトレーニングしている写真を送ってくる。筋肉を見せる感じで。
 多分、この子たちは、若い男の上半身を見て中年女性が(本当はもっと上だが彼らからはアラフォーに見えるようだ)喜ぶと思っているらしい。私以外でも日本人女性(本当にアラフォー)の友人が、在アメリカとインドのチベット人から同じようなものが送られてきたそうだ。「こういうの、日本人女性はダメよね」と彼女は言い切った。もちろん同意する。私は武術・武道・格闘技は好きだが彼らの筋肉に対して女性としての興味は起きない。演武・試合を楽しむだけだ。

 コロナ前のことだ。東京近郊で電車に乗る。それが初夏くらいの少し暑い時期だとする。半ズボン・短パンの男性を数人見かける。…しかし、ほぼ全員が外国人と思われる男性たちだ。特に観光客と思われる西洋人やシンガポールなどの中華系の人たちだ。日本人男性の短パン姿はあまり目にしない。
 日本人は仕事、学校へ行くか高齢者なので、遊びに行く訳ではないからだろうか? 蚊が出ない行楽地なら短パン姿が増えるのだろうか? それともすね毛を出して歩くのが格好悪いと思うのだろうか? 短パンはお洒落じゃないのだろうか? 日本の男性は女性に比べて肌の露出が少ないように感じる。しかし、過去の私の幼少時代の記憶ではそうではなかったように感じる。

 昭和のお父さんたちがステテコ一丁もしくは前にボタンがついている下着のシャツだけでご近所を歩いている姿があった。私の父親もそうだった。母親が、当時「セクハラ」という言葉はなかったが、それに近い雰囲気で父親にステテコで近所を歩くのをやめてほしいと言っていた記憶がある。我が家だけではなかったのだが、母親にとっては恥ずかしいことだと感じていたのだろうと思う。
 そんな父親も、1964年東京オリンピック後、会社が大きくなり、家も引っ越した。それ以降、父親は帰宅が遅くなったのも相まってステテコでのご近所歩きはなくなった。

 ふんどし・セクハラ・胸毛…。これらのキーワードで十数年前に話題になったお祭りのポスターを思い浮かべるかたがまだ多いと思う。

 岩手伝統の裸祭りポスター 「きわどい」とJR東日本が拒否
 https://www.afpbb.com/articles/-/2334230

[引用]ポスターでは「胸毛の濃いひげ面の中年男性」が「ほえている」後ろに、ふんどしをまとっただけの男性たちが写っている。同地域担当のJR東日本盛岡支社は、ポスター掲示がセクハラにつながるかもしれないと判断したという。

 当時、どのような意見が出たのか、反応があったのかは、私はすでに覚えていない。はじめから、そういうポスターであると、マスメディア系のサイトで写真を見たのと「祭り」という文字でなんとも感じなかった。しかし、もしも駅構内で何も知らずにこのポスターを見かけたとしたら、じっと見るのは恥ずかしいかもしれない。
 もしかすると、日本は女性の肌の露出には寛容で男性の肌の露出には厳しいのかもしれない。

 ◆ 4.日本でのイスラム教の女性のファッションについてのエピソード2つ

(1)体操服で通学
 私の高校の生徒の1人にバングラデシュ人の女子がいる。彼女は中学から日本の公立学校に転校してきた。その中学校は理解があった。ヒジャブ(スカーフ)を着用して通学することだけでなく、制服を着用せず、体操着での通学も認めていたのだ。なぜ体操服かというと、普通の女子の制服では「脚」が見えるため、隠せないからだ。学校指定の体操服なら脚は問題なく隠すことができる。日本の公立学校がヨーロッパのどこかの国より寛大であったことは、なんだかホッとする。

(2)イスラム女性のファッションは暑そうに見える。Twitterでの投稿。

[引用]さばー : ہر زبان میں اپنی کشش ہے @gharibah·8月6日
ゴミ出しに行ったら方部(町内会)の方に遭遇。暑いですねー、と言ったら「その格好(ヒジャーブ&アバーヤ)ではね」的に言われた(悪意は無い)。「暑いですけど、肌が直接陽に当たらない分ジリジリ焼かれなくて暑くは無いんです」と返したら成る程ねー、と言われた。
 https://twitter.com/gharibah/status/1423702104271585280

画像の説明

 地方在住日本人のイスラム教徒の女性である。ご近所のかたにご理解いただく返し方を身に付けてらっしゃるので余計な解説を加えていない。とても共感した。
 イスラムの女性ファッションは人に対して肌や髪を隠すだけでなく、紫外線から隠し、塵から隠し、空気中の汚染から隠し…「着る・被るマスク」? わからないが。

 どちらにしても「隠す」「露出する」…突き詰めると文化・国・宗教のみが根拠にならないし、セクシャルな理由だけでも正しく語れないことが知れた。

 (東京ベイインターナショナルスクール顧問)

(2021.08.20)
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