【コラム】フォーカス:インド・南アジア(36)

軍クーデターから1年、NUG承認を日本政府に求め続けよう!

福永 正明?

 ◆ 2021年2月1日クーデターと残虐な圧政

 ビルマは、ミンアウンフライン国軍最高司令官による軍事クーデター(以下、「ミンアウンフライン軍クーデター」)から2月1日で1年を迎える。逮捕拘束されたウィン・ミン大統領、国家顧問であるアウンサンスーチー国家民主党(NLD)代表ら政府・民主系与党要人多数は、起訴から秘密裁判での長期刑判決が続いている。
 2021年2月1日「ミンアウンフライン軍クーデター」は、2020年11月に行われた総選挙結果を覆すことを目的とするが、軍は「選挙で不正が行われた」と主張する。だが、この総選挙については、日本を含む国際・外国からの選挙監視団が「公正に行われた」と評価している。公正に行われた投票による総選挙による結果を、完全に覆す、民主主義の根本を否定する軍の蛮行であった。

 「ミンアウンフライン軍クーデター」は、アメリカのトランプ支持勢力による「1月6日議会議事堂攻撃」を模倣したと言われるほどに、「民主主義を暴力で転覆する犯罪」である。
 ミンアウンフラインは全権掌握したのだとして、自らを長とする軍政評議会、暫定政府を次々設立したが、「暴力独裁政」であることは明らかだ。とにかく、「暴力と圧政」での権力維持しかなく、国民を虐殺し、少数民族集団地域では民間村落への軍機からの空爆も続行する。軍内には反発もあるとされ、軍幹部の異常な人事異動も続く。
 しかも、ミンアウンフラインには「国民からの信頼・人望」なく、直近のメディアでは「精神的ズレ」の疑いも報じられる(Asia Times, 13 January, 2022)。

 2月1日の「ミンアウンフライン軍クーデター」直後から、都市住民を中心として「不服従運動(CDM)」が開始され、街頭での反軍政の行進が続いた。これら行進は、「Z世代」と呼ばれる学生・若者たちを中心として、「民主主義を奪うな!」との平和的な非暴力行動であった。このCDMが、世界的規模での支持を集めたことは、当然のことであろう。
 だが軍政は、残虐な手口での手当たり次第の攻撃を民衆に繰り返し、子どもや高齢者も含む死亡者1,466人、拘束者は8,589人にものぼる(現地NGOサイトより、2022年1月13日現在)。街頭での人びとの抗議の姿はほぼ消えたが、地方の村落では反軍政行進は継続しており、その反発は次々と新しい段階へと進展した。

 一方で軍政は懐柔策のように「2023年総選挙」実施を公表した。しかし、アウンサンスーチー国家顧問には秘密裁判で刑罰「禁固4年」判決が下されており、同氏の「政治的抹殺」を図り、その後の総選挙を狙うようだ。

 ◆ 2.正当政府である「国民統一政府」の樹立

 2020年11月総選挙で議員に選出された人びとを中心として、「国民統一政府(National Unity Government:NUG)」を樹立、行政機関も含む軍政に代わる「人びとによる政府」の役割を果たしている。
 厳しい弾圧のなかNUGは、オンライン会議での閣議、記者会見、支援諸国との会議などを続け、「NUGがビルマの唯一の正当な政府である」ことを主張し続けている。さらに、武力攻撃を続ける軍に対抗するため、各地の少数民族集団、あるいは武装勢力との連携、さらに独自の軍事部門として「人民防衛軍」(People's Defense Force:PDF)を創設した。だがPDFは軍事訓練を開始し、軍へのゲリラ的対抗攻撃を行うが、連携する少数民族集団の武装勢力が厳しい戦闘を繰り返している。

 こうしたなか、国際社会は「ミンアウンフライン軍クーデター」に反対することを明確にし、ミンアウンフラインら軍最高幹部とその親族、軍関係企業などへの厳しい「標的制裁」を課した。ここでの「標的制裁」とは、指定された個人の入国禁止や預金口座封鎖、軍関係企業との取引停止など徹底した内容である。例えば、いくらミンアウンフラインが「自らはビルマ元首」と主張しても、本人だけでなく一族も含めて、米国、欧州連合各国への入国は禁止である。

 ◆ 3.ASEANの和平5項目、国連特使の拒否

 ビルマも加盟するASEANは、4月26日の首脳級会議を、インドネシアのASEAN事務局にて対面形式で開催し、ビルマ情勢などについて協議した。
 発表された議長声明によると、今回の会合で合意に至った5項目は以下のとおり。

1.ビルマにおける暴力行為を即時停止し、全ての関係者が最大限の自制を行う。
2.ビルマ国民の利益の観点から、平和的解決策を模索するための関係者間での建設的な対話を開始する。
3.ASEAN議長の特使が、対話プロセスの仲介を行い、ASEAN事務総長がそれを補佐する。
4.ASEANはASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)を通じ、人道的支援を行う。
5.特使と代表団はビルマを訪問し、全ての関係者と面談を行う。

 この「5項目合意」により、2021年、議長国ブルネイから代表がビルマ訪問、アウンサンスーチー氏ら拘束者との面会などを要求したが、軍政は強固に拒否を続けた。
 これに対してASEAN内部でも反発が広がり、ついに10月には外相会議において同月下旬開催の首脳会議への「ビルマのミン・アウン・フライン出席拒否」を決定した。そしてミンアウンフラインは、首脳会議に出席できず、対抗してビルマからの代表団派遣を拒否した。

 内政問題には立ち入らないという原則をもつASEANは、大きく揺れたのである。各国の国内事情や対中関係の温度差が明確に表れ、インドネシア、シンガポール、マレーシアは、厳しい対ビルマ政策を示している。これに対して、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナムは融和的な姿勢をビルマ軍政に示す。
 さらにミンアウンフライン自身がASEAN以外で訪問したのはロシアだけであり、食糧、医薬品、武器などの援助、交易が推進されている。

 日本国内では、「軍政を圧迫すると中国に取り込まれる」などの暴論が多い。しかしビルマ国軍は、反中意識が強く、経済面でも無謀かつ高圧的な交易や投資進出を続ける中国への反感は強い。なんでも「反中」に結び付ける日本国内論者たちが、ビルマ問題の本質を歪めている。

 またビルマ軍政は、前民主派政権が任命した国連大使の解任を通告し、新しい大使を任命した。しかし9月の国連総会では、どちらが「正統なる大使」であるかの最終判断を行わず、最終的には前民主政権による大使の在職継続を認めた。
 ビルマ国民の国連に対する期待は大きく、「PKOや介入」を求める意見も強い。これは、国連事務総長を務めたウタント氏の業績により、広く国連がビルマの人びとに認識されているからであろう。

 だが軍政は一貫して「反」国連の立場であり、事務総長ビルマ問題担当特使の活動を非難し、アウンサンスーチー氏ら拘束者との面会など一切認めていない。安全保障理事会では、「ミンアウンフライン軍クーデター」発生直後、8月に議長声明などが発出されているが、中国、ロシアの反対により「強い表現や内容」ではない。12月にビルマ問題特使は交代したが、初訪問の時機も不明である。
 さらには、国連諸機関による食糧援助、COVID-19対策の援助などについても、軍政は一貫して冷淡な立場である。

 ◆ 4.日本の「軟弱外交」とその破綻

 日本は、一貫して「日本はさまざまなパイプを有する」特別の関係国であり、欧米のような「制裁」には参加しないとしてきた。
 ところが、2021年8月には日本が主催するメコン会議にビルマ軍政代表のオンライン会議参加を認め、在日ビルマ大使館の「軍政による選任」での人員補充を認めた。
 ASEAN5項目の実行を求めるとしながらも、政府あるいは外務省は自ら何らの行動もない。それは、ビルマの人びとに大いなる失望と、日本への不信感を生み続けている。

 この間、積極的に動いたのはビルマ国民和解担当日本政府代表(閣議決定人事)の笹川陽平氏(日本財団会長)、一般社団法人日本ビルマ協会の渡邉秀央会長(元閣僚)である。時にビルマを訪問し、ミンアウンフラインら軍幹部と会談、記念写真を撮影して公開している。質問されれば、「個人の資格」であるとし、拘束された日米ジャーナリストの解放に努力したと述べ、医療品や金品を寄付する。軍政を批判することは一切なく、まさに、寄生虫のようにビルマにへばり付いている。

 外務省は、「さまざまなパイプ」と言いながらその詳細については、公表していない。では「個人資格」の笹川氏、渡辺氏は、軍幹部と歓談する際、アウンサンスーチー氏ら拘束者の即時解放、面会などを要求しているのだろうか。どうやら、それは否である。僅かに直接個人の携帯電話に電話し、会話できる程度の仲であるにも関わらず、生死を賭けて戦う民衆の声を無視して、ミンアウンフラインらと楽しそうに話す。
 さらに、駐ビルマ丸山大使は、1月上旬の日本財団からのC0VID-19医療薬贈呈式に笹川氏と同席し、笑顔で写真に収まっている。もう、異常な行動であり、外交官失格としかいえず、直ちに帰国命令を発するべきである。

 これまで、筆者は日本外交の転換を求める文を寄稿してきた、そのなかでは腐敗した日本外交関係者の一掃も明記した。まさに、丸山氏、笹川氏、渡辺氏らの行動は、日本の国益を損するものであり、日本国民もビルマ国民からも支持されていない。

 ◆ 5.2022年の転換

 2022年に入り、あるいは、「ミンアウンフライン軍クーデター」1周年を前にして、ビルマを取り巻く情勢には変化が生じている。
 まずASEANの議長国がブルネイからカンボジアに代わり、早速にフンセン首相がクーデター後に訪問した初外国首脳となった。「独裁者連携」が強化されたと言えるが、どのように両国首脳・外務省発表文を読んだとしても「成果は」ない。

 そこで炙り出されたのは、ASEAN議長国カンボジアに期待する日本の姿であった。すなわち、1月9日付けの朝日新聞(https://www.asahi.com/articles/ASQ1962WQQ19UHBI003.html)のインタビューで駐ビルマ丸山大使は、いつものように「欧米にない独自のチャンネルを持っている」と繰り返しながら、結局は過去1年の日本外交について「効果を出したとは思っていない」と述べた。
 まさに、日本外務省、大使らが繰り返してきた「独自のチャンネル」が、完全に機能していないことは明確である。この点、1月17日から召集される国会において、厳しい追及が行われる必要があるだろう。

 また、フンセン首相がカンボジア帰国直後、駐カンボジア日本大使は「ビルマ訪問の成果を讃える」スピーチを同首相出席のイベントで行った。何と言う軽率、かつ、無神経な発言であろう。
 ここで透けて見えるのは、日本のカンボジア議長国への期待、そこからのASEANへの期待である。だが、何らの行動も、対応もないまま、「独自のチャンネル」を主張して1年間を無駄にした。それだけでなく、独裁政権への対応が分かれるASEANに期待するとは、もう対ビルマ外交方針がデタラメな状態となっている。

 ◆ 6.まとめ

 最初に確認するべきは、2020年11月総選挙が正当かつ公正に行われたこと、正統政府として「NUG」を承認し、民主主義国家再建に協力するべきことが日本の責務である。もちろん、武力による市民抑圧の停止、すべての拘束者の無条件解放が最重要であることは明らかだ。
 もう、日本の「軟弱外交」は明らかに失敗した。たとえNUGを承認したとしても、中国が介入するような事態はない。
 NUGが正統政府として民主主義政権を樹立したならば、外国からの援助、投資はすべて正当に管理され、従来の軍系企業、軍属だけに利益をもたらす不当な援助は行われないこととなる。すでに明らかな通り、NUG政府は「援助と投資に関するガイドライン」を策定し、政権樹立後の民主的経済活動を約束する。

 まず日本国内では、政府に対して「NUG承認」を第一の要求として掲げ、ビルマ民衆をどこまでも支援しなくてはならない。腐敗した外交官や政府代表は、一掃されなければならない。また、「NUGを承認せよ」という最重要の項目を無視し、活動するNGOも事態の再認識が必要であろう。余りに稚拙な、「国軍に資金を流入しないでください」スローガンは、ビルマでも日本でも既に支持されていない。
 再々度繰り返すが、外交は私たちが作りあげるものである。国会での議論、そして、国民からの強い要求により、まずは「NUG承認要求」を掲げ続けよう。

[注]本稿では、「ビルマ」の表記を用いたが、それは英語国名の「ミャンマー」への変更に関する軍事政権(1989年)による呼称変更説明を認めることはできないからである。

 (大学教員)

(2022.1.20)
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