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野党共闘1人区秋田の勝利 無党派層と維新票が勝利の最大要因

仲井 富

◆ 維新比例区票のほぼ100%がイージス・アショア反対の寺田候補へ

 直近の国政選挙は2919年の第25回参院選挙だった。予想通り自公政権の勝利に終わったとはいえ、れいわ新撰組と1人区における女性候補の健闘によって、東日本の1人区を中心に野党統一候補の女性を中心に勝利した。野党が勝った1人区では、岩手、秋田、山形、宮城、新潟、滋賀、大分と自民現職が落選した。
 れいわ旋風を除けば、低調な選挙だったが、48.80%の低投票率の中でも自民は単独過半数を失い、改憲3分の2を割った。なかでも菅首相の地元でイージス・アショア反対の女性候補・寺田静の2万票余の勝利に注目した。出口調査によると維新の比例区票2万票のほぼ100%が寺田に投票している結果に注目した。

 2019年参院選挙の最大の政治的焦点は1人区の勝敗にあった。だが安倍・菅が応援に入った1人区重点区の結果は4勝9敗となった。負けが100%と読んだ沖縄には幹部は誰一人入らなかった。
 菅直人元首相国政選挙での自公消費税値上げ案抱きつきで、2010年参院選で大敗して以降、国政選挙では連戦連敗の野党だが、1人区で見ると、2010年、自民21、旧民主など8、2013年、自民29、旧民主など2。2016年は野党統一によって自民21、旧民主など11、と健闘した。今回2019年は、自民22、野党統一候補10となったが中味の濃い結果だ。何よりも安倍・菅が全力を集中した1人区での健闘が光る。

◆ 菅の地元秋田県でイージス・アショア反対の女性候補・寺田静完勝

 2019年7月参院選の最大の勝利は、菅官房長官の地元秋田市で、イージス・アショア反対の女性候補・寺田静が2万票余の差で勝利したことだ。比例区票では自民・公明・維新3党が圧倒しているにもかかわらず勝利した。
 過去の1人区や知事選にも表れていることだが、安倍政権は争点のはっきりした選挙には弱い。その典型が沖縄だ。野党の票のみでなく、自民、公明、維新などの与党票プラス無党派層の圧倒的な支持によって勝利するというパターンだ。3年前の野党11議席獲得も今回の10議席も同様の現象が起きている。

 2016年の参院選は自民21勝、野党11勝だったが、今回は青森、福島、山梨、三重の4県で議席を取り戻した。一方、秋田、滋賀、愛媛3県で野党統一候補に敗れた。非改選と合わせ、自民の参院議員がいない選挙区は従来の岩手、沖縄2県に、新たに宮城、山形、新潟、長野、大分の5県が加わった。

 秋田県の佐竹知事は7月29日の記者会見で、参院選秋田選挙区で初当選した無所属の寺田静氏の勝因を分析し、「自民党はイージス・アショアでマイナス要素が広がり、(老後の生活資金の)『2,000万円問題』などが複合的に作用した」と語った。知事は、「寺田さんは感じが良い。女性の優しい感じ。女性票は相当流れている」とみる一方、落選した自民党の中泉松司氏の支持が広がらなかった要因については「イージスは男性社会の象徴のようなイメージでマイナスの要素が広がっている」と論評。安倍首相をはじめ大物弁士が続々と来援したことについては、「中央から大物が入ると反感を買う」と指摘し、「私は一切、応援は呼ばない」と語った。佐竹知事はその上で、「女性票の行方とイージスがあって、自民党は守りの選挙、寺田さんは攻めの選挙となった結果だ」と総括した。(秋田魁新報 2019年7月30日)

◆ 秋田選挙区:女性寺田静の勝利 アリが巨象(虚像)を倒した日

 秋田1人区では無所属の寺田静が、自民の現職中泉松司に約2万2千票の差をつけて完勝した。
  寺田静  無所属・新 242,286 得票率 50.46%
  中泉松司 自民・現  221,219 得票率 46.07%
  石岡隆治 諸派・新   16,683 得票率 3.47%

 比例区票で見ると以下の得票数・得票率だ。
  与党系: 自民 204,018 公明 48,784 維新 20,562
    合計 273,364票。
  野党系: 立民 62,029 国民 39,645 共産 37,129 れいわ 15,282
    合計 171,402票。

 自公維新の与党系だけで過半数をはるかに上回る61%を占める。野党票は合計で39%に過ぎない。(秋田魁新報 2019年7月22日)
 この虚弱な野党共闘がなぜ巨大な与党系に2万票を超える大差で勝利できたのか。安倍政権「終わりの始まり」と題する横田一氏のレポートから全体状況を知ることができる。その要旨を以下に紹介したい。

◆ 横田一のレポート 県内3小選挙区 参院2議席独占の自民

 ――イージス・アショア配備が争点となった秋田選挙区(改選1)で、野党統一候補の寺田静氏(44)の当確が出たのは21日の午後9時25分ごろ。その瞬間、選挙事務所の支持者から「よくやった」「頑張った」という歓声と大きな拍手が沸き起こった。
 支持者に感謝の弁を述べた寺田氏は万歳三唱の後、5歳の長男とそろって花束を受け取り、すぐさま安倍政権と対峙する姿勢をあらわにした。

 安倍首相は選挙期間中に2度も秋田入りして応援演説を行ったが、「アリが巨象を打ち倒した勝因は何ですか」「イージス・アショア配備反対の民意が示されたと思いますか」と問われると、寺田はこう答えた。
 「何事も力でねじ伏せようとする今の政治はおかしいという県民の思いが集まった結果」「イージス・アショア反対の民意が示された。配備の阻止に全力を注ぐ」。

 一強多弱」を謳歌してきた安倍政権の「終わりの始まり」を告げる奇跡的な勝利だった。県内3小選挙区と参院選2議席をすべて自民党が独占し、700以上の企業・団体からの推薦を受け、安倍首相をはじめ秋田生まれの菅官房長官や小泉進次郎・厚生労働部会長などの大物議員が続々と応援に駆けつける総力戦を展開したのに、政治家経験ゼロの子育て中の母親に打ち負かされてしまったのだ――

◆「母親目線」「生活者目線」選対本部長は石田寛・社民県連合代表

 ――本命の県議が固辞したことで候補者選考が難航する中、2カ月間をかけて寺田氏を説得して自ら選対本部長を務めた石田寛・社民県連合代表は万歳三唱後の囲み取材で、「安倍政権打倒を目指す野党選挙協力のモデルになる」と力説しつつ、アリが巨象を倒した勝因を分析した。

 「『母親目線』『生活者目線』の勝利です。演説内容への指導はまったくなく、候補者に任せて思うところを訴えてもらいました。不登校経験や弟さんの死別などの生い立ちを語りながら、イージス・アショア配備についても自分自身の息子を含めて『秋田の子どもたちにイージス・アショアのある未来を引き継がせたくない』と母親目線で訴えたことが共感を呼んで、支持拡大の原動力になりました」

 「それに比べて安倍首相の応援演説はアベノミクス自画自賛ばかりで、秋田県民の心にはほとんど届かない。『安倍政権下で農産物輸出が増えた』と成果をアピールしたが、安倍首相の訴えが響かないのです」(石田氏)。
 しかも安倍首相と菅官房長官が2度も秋田入りしたことで、イージス・アショアへの関心がかえって高まったと石田氏は指摘する。参院選が秋田配備への賛否を問う県民投票(住民投票)のような様相を呈してきたというのだ。――

◆ 無党派層の71.2%が寺田候補支持 比例区の維新票100%が寺田に

 共同通信社が7月21日、秋田県内投票所で実施した参院選出口調査によると、本県選挙区で当選した野党統一候補で無所属新人の寺田静氏は、立民、共産、社民など野党各党の支持層をまとめ、無党派層からも厚い支持を獲得、県南部を中心に他候補を上回った。調査対象は1,135人(男571人、女564人)。支持政党別で、寺田氏は立民の95.0%、共産の97.8%、社民の88.5%の支持を得た。無党派層にも浸透し71.2%を取り込んだ。
 さらに注目すべきは比例区票で2万票の維新票はほぼ100%が寺田氏に投票していた。自民現職の中泉松司氏は自民の80.8%を獲得したが、公明は52.3%と約半数。無党派層は24.6%にとどまった。(秋田さきがけ 2019年7月22日)

 橋下大阪維新の影響力は大阪府と兵庫県では圧倒的だが、全国の維新票はこれと全く異なる。野党共闘の成立で一本化した地域では、ほぼ野党候補に投票する傾向が見られる。このことを野党はもっと深く認識すべきだ。野党共闘の勝利の根本原因は公明、維新などの与党系支持者の野党候補への投票が無党派層とともに重要な因子となっていることだ。その認識が枝野立憲民主党に欠落していることを指摘したい。

画像の説明
  出口調査からみた県内投票行動~支持政党別の得票率 秋田

◆ 菅直人の消費税値上げに賛成討論の辻元清美副代表が総理をめざす発言

 それにしても民主党政権で消費値上げのリーダーとなった菅直人、野田首相らは、口を開けば民主党政権の成果は、消費税値上げと原発ゼロと恥じも外聞もなく公言する。消費税反対の社民党から、消費税賛成の民主党に移籍し、ついには衆議院予算委員会で、消費税賛成の総括討論までやった辻元清美議員の変節ぶりも見事だった。その辻元清美が最近AERA紙上で以下のように述べた。

 ――初当選から25年、野党では最もキャリアが長い女性議員になってしまいました。これまで、総理を目指しますかって言われた時、笑ってごまかしていましたが、最近は次に続く女性たちのためにも、やっぱり目指さないとアカンと思うようになりました。政治はミッション(使命)、パッション(情熱)と同時に、クールだ、かっこいいと言われるファッションが必要です。私が土井たか子さんに憧れたように、誰かがやっぱりリーダーを目指さないといけない。そうでないと、いつまでたっても国会が変わりません。――

 辻元清美の総理など誰が期待しているだろうか。地元大阪の惨状を見よといいたい。いまや大阪は民主党政権崩壊後の国政選挙で、参議院選挙では2013年、2016年、2019年と3連続ゼロ席が続く。衆議院では19選挙区中、当選者は辻元・平野博文のみ。大阪府議会は定数88名中2名、大阪市議会では定数83名中ゼロ議席と言う惨状である。県都の議会でゼロ議席というのは47都道府県で大阪市以外にはない。この状況をつくりだしたのは、消費税値上げをしないとの公約を菅直人首相とともに辻元自身が作ったためだ。その責任をものともせず、女性初の総理を目指すと言うのだから、誇大妄想もいいところだ。

''◆ 民主党政権総務相の片山善博慶大教授の「民主は大うそつきを清算せよ」
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 かつて民主党政権総務相の片山善博慶大教授は「民主は大うそつきを清算せよ」と以下のように述べた。
 ――民主党は高をくくっていた。3年前の衆院選で「消費税は上げません」といって政権を取ったのに、まるでそんなことは言っていなかったような振る舞いをした。野田首相は「消費税引き上げは大義だ」とまで言い始め、世間の人は大うそつきだと見た。ところが、どういうわけか、民主党に残った議員たちは自分の中でその問題を勝手に清算していた。党の再生はうそつきを解消する作業から始まる――(毎日新聞2012年12月18日 三者座談会「選挙結果と今後」)

 片山氏は雑誌『世界』2月号でも同様のことを述べている(『世界』2013年2月号「政党政治の希望はあるか 民主党大敗とその教訓」)。しかも片山氏は、民主党の大臣も議員もことごとく、消費税値上げなどの公約違反にたいして脳天気だったことに呆れている。

 党名を変えて逃げまくる立憲、国民など旧民主の幹部たちがリーダーでいる間は、野党連合政権など夢のまた夢だ。報道各社の調査では、立憲の支持率はさらに下落傾向だ。朝日新聞が菅氏の不出馬表明後の9月11~12日に行った世論調査では、政党支持率は自民党が37%で、前回調査(8月7、8日)から5ポイント上昇。一方、立憲は5%で、1ポイント下落している。比例区の投票先を聞いた質問でも傾向は同様で、自民が35%から42%に上昇し、立憲は15%から11%に下落した。

 (世論構造研究会代表・『オルタ広場』編集委員)

(2021.09.20)
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