【コラム】酔生夢死

金メダルの「属事」「属人」「属地」各論

岡田 充

 名古屋市長が、東京五輪のアスリートの金メダルをカミカミして非難された。メダリストが属するトヨタ自動車は「不適切かつあるまじき行為」と抗議声明を出し、組織委員会は新しい金メダルに交換すると決めた。公人がカメラを前にメダルを噛んでみせるのは確かに「異様」だが、メダルを交換するほどの話なのか。

 五輪表彰式でアスリートがメダルを噛んでポーズをとるショットは珍しくない。カメラマンが「写真映え」を狙ってアスリートに要求し、それが定番になったらしい。時代劇ドラマで、商人が小判を噛むシーンを観たことがある。金貨が通貨として流通していたころ、本物の金かどうかを確かめるために噛んだという。
 金メダルはもちろん純金ではない。「悪名高い」国際オリンピック委員会によると、銀含有率92.5%の「スターリングシルバー」に「最低6gの純金メッキを施す」と規定され、メダル自体の原価は約5万円。

 市長が噛んだ光景が報じられると、「本当に恥ずかしい」「非常識すぎて言葉も出ない」「名古屋の恥!」などと、SNSは非難で大炎上した。彼は「南京大虐殺」と「慰安婦問題」で、政府の責任を否定し、「偽造署名」の疑いがある「愛知県知事リコール運動」の主唱者の一人。だから「早く退場すべき公人の一人」と、常々考えていた。

 ただ「メダルを穢した行為」(「属事」=造語です)は重視せず、「洗って消毒すれば済む話」程度に考えていた。そこで「彼のような老人で、『卑しさ』が滲みでている人物だからこそ非難されたのでは?」と、非難は「属人」的要因が大きいのではないか、と問う書き込みをした。
 これに幾つか興味深いコメントが寄せられた。「誰の行為なら許せるかと考えてみると、よほど自分と近しい人間なら何とか」「他人の財産です。断りもなく齧ったりすりゃ、あのじじいじゃなくたって非難される」「大谷翔平に齧られたらどうかな、というコメントがあったけど大きな流れにならないまま消えた」、、、

 その一方「スカッとしたオヤジだったら何の問題にもなっていない」と、「属人論」支持の声や、「歯形がつけば価値が下がる」という「価値論」まで登場。そして「名古屋人はよくよく金が好きなんだ、、、」「市長のレベルの低さは名古屋市、大阪市、横浜市も同様」と、予想していた「属地論」も出てきた。

 市長は、名古屋城の金のシャチホコが展示された4月にも、かぶりつく仕草をしたことがあった。金を見ると、興奮と衝動を抑えられない「お病気」なのかもしれない。彼の唾液がたっぷりついたシャチホコはどうなったのだろう。拭いて消毒した後、名古屋城のてっぺんで鈍い光を放っているのだろうか。

画像の説明
メダルに噛みつく市長を唖然とした様子で見守る
アスリート~8月4日CBSニュースから

 (共同通信客員論説委員)

(2021.08.20)
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