【ドクター・いろひらのコラム】
限られた資源をどう分かちあうか
超高齢・人口減少社会の行く末は、財源不足で社会保障が崩れ、空き家が増え、貧困がはびこり、高齢者を狙った悪徳ビジネスが横行する、、、といった暗い話になりがちだ。
だが、世界に目を転じれば、人口は逆に増えている。すでに全世界で80億人の大台に達した。その成長のエネルギーを日本にも取り入れたいところだが、この勢いで増え続けると、2050年に世界人口は98億人を超えるとの予想もある。
人口爆発も、これまたゆゆしき問題をはらんでいる。真っ先に心配されるのは、「水」の枯渇だ。近年、気候変動によって中央アジアから中東にかけて旱魃がたびたび起きている。それが国際的な「水争い」を助長する。
たとえば、メソポタミア文明を育んだチグリス川とユーフラテス川流域では、上流のトルコが、両河川に22基のダムと17の発電所をつくる「南東アナトリア計画」を推進していて、下流のイラク国内の河川水位は目にみえて下がっている。トルコが方針を変えなければ、両河川は「2040年までに干上がる」と警鐘が鳴らされている。政府間での水の配分の取り決めが重要な課題に浮上してきた。
じつは、減るにしろ、増えるにしろ、人口の大きな変動には、社会のシステムを維持・安定化させる上で、同様なアプローチが求められる。それは、「限られた資源をどう分かちあうか」だ。私的所有権に一定の歯止めをかけつつ、公共のルールで資源を共有し管理する。換言すれば、経済学者の宇沢弘文が唱えた「社会的共通資本」の視点での再構築が必要なのだ。
今年1月1日に発生した能登半島地震は、非情にも、超高齢・人口減少社会の弱点を突いてきた。
石川県の珠洲市、輪島市、能登町=三市町の元旦の滞在人口は、約6万6千人と普段より約3割も多かった。帰省や観光で訪れていた約2万人が被災し、避難所には人が入りきれず、地元の高齢者は凍えながらビニールハウスで雨露をしのぐありさまだった。道路は寸断され、物資の搬入困難ななか、帰省や観光などの一時滞在者が去っていくと、高齢者が取り残される。肺炎の悪化など災害関連死が発生した。
あらためて言うまでもないが、超高齢・少子化社会は、災害に弱い。その弱点を踏まえ、共同体における人と人の関係をどうつなぎとめておくか。ボランティアの動員などに目がいきがちだが、政府の根本姿勢が問われているのはいうまでもない。
SNSの情報で知ったのだが、日本には「無限軌道災害対応車・レッドサラマンダー」という災害救助で抜群の力を発揮する車両が、わずか2台しかない。1台の値段が1億1000万円だというが、生産中止が決まったオスプレイ1機を220億円も出して米国から買うのに比べれば安いものだ。オスプレイ1機分で200台を揃えられる。
一事が万事で、政府がいかに無駄遣いをしているかがわかるだろう。
公共の視点からの予算の編成が急務である。
※この記事は著者の許諾を得て『大阪保険医雑誌』2024年2月号から転載したものです。文責は『オルタ広場』編集事務局にあります。
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(2024.8.20)
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