【コラム】槿と桜(78)

韓国のお茶は甘い?②

延 恩株

 現在、韓国での緑茶(ノッㇰチャ 녹차)の生産地として知られているのは、宝城(ポソン 보성)、河東(ハドン 하동)、済州(チェジュ 제주)で、三大茶産地などと呼ばれていますが、その地域はかなり限定的なのがわかります。宝城(ポソン)は全羅南道(ぜんらなんどう 전라남도 チョㇽラナㇺド)、河東(ハドン)は慶尚南道(けいしょうなんどう 경상남도 キョンサンナㇺド)にあって、済州(チェジュ)は済州特別自治道、つまり周囲を海で囲まれた済州島で、済州島南部地域が産地となっています。

 全羅南道は韓国の南西部にある行政区で、西は黄海(ファンへ 황해)と呼ばれる海に面し、南は済州海峡を挟んで済州特別自治道があり、東は慶尚南道と接しています。海岸はリアス式海岸で、海産物が豊かで、特にカキや海草の産地で知られ、日本の瀬戸内地方と似ています。ほとんどが平野で穀倉地帯となっていて、適当な降雨があり、温暖な気候のため農業が発達し、野菜や綿花、果物も栽培されています。

 こうした地理的、気候的な条件がお茶の栽培にも適しているため、韓国でお茶の本場と見られている宝城(ポソン)があるわけです。ここで生産されるお茶は韓国の茶生産量がもっとも多く韓国第一の栽培地になっています。

 慶尚南道は韓国の南東部にある行政区で、東は蔚山(ウㇽサン 울산)広域市と釜山(プサン 부산)広域市があり、南は対馬海峡に面していますから、東と南側は海に面していることになります。そして西には先述した宝城(ポソン)のある全羅南道と接しています。この行政区を流れている洛東江(ナッㇰトンガン 낙동강)がこの地域の水利用に大きな働きをしています。

 金海(キㇺヘ 김해)周辺の洛東江の三角州となっている、釜山広域市にまたがる平野は韓国の穀倉地帯となっていて、米、豆、ジャガイモ、大麦、ごまなども作られています。また、温暖な気候であるため綿花や果物なども生産され、韓国の東南端に位置して海に面しているため漁業も盛んな地域です。

 河東(ハドン)は韓国で2番目に大きな茶産地ですが、宝城(ポソン)に比べるとその生産量は3割程度にすぎません。韓国の高級緑茶として知られている「雨前(ウジョン 우전)」の生産地で、河東(ハドン)では茶の栽培面積は宝城(ポソン)とほぼ同じです。つまりこの地域は高級緑茶を売りにしていると言えるかもしれません。

 いずれにしても宝城(ポソン)と河東(ハドン)の2地域で韓国の緑茶の8割程度を生産していて、残りの2割程度が済州特別自治道、つまり周囲を海で囲まれた済州島の南部地域で生産されています。
 済州特別自治道は韓国の南端にある韓国最大の島で、気候がもっとも温暖で、韓国で唯一、みかんが生産されています。日本でみかんの生産地はどこですか、と質問しましたら、いくつもの地域が挙げられることは間違いありません。でも韓国ではほぼ済州島(チェジュド 제주도)だけです。それだけ韓国の気候が、日本より平均気温が低く、寒暖の差が激しく、大陸性気候で厳しいことを証明しています。

 もうおわかりのように、韓国での緑茶生産ができる地域は気候が比較的温暖な韓国の南部3地域で、日本のように各地域に広く分布していません。当然、緑茶の生産量は日本に比べると少なく、日本のように人びとの生活に緑茶が密着しているとは言えません。
 それに代わって韓国では、前回、書きましたようにチャノキの葉や芽、茎を乾燥させるなどして作る「お茶」ではなく、他の植物の葉、花、樹皮、根などを乾燥させ、お湯を注いで抽出した飲み物、つまり「茶外茶」が盛んに飲まれるようになりました。

 こうして韓国人の多くは、「韓国の伝統茶」と言えば、緑茶ではなく、たくさんの種類がある「茶外茶」を思い浮かべるはずです。そこで、以下に韓国人に日常、親しまれているお茶を紹介します

・ユジャチャ(柚子茶 유자차)
 柚子のお茶。最近は日本のマーケットでも買うことができるほど、日本でもよく知られた韓国の伝統茶の一つです。秋に収穫した柚子の皮を薄く細く切り、種を取り出した果実は汁を絞り、ほぼ同量の砂糖か蜂蜜を瓶などに入れて漬けます。1、2週間すればジャム状になり、スプーン1杯分をコップに入れて、熱い湯を注いで飲みます。
 日本の方にはお茶というより甘酸いホットジュースと感じるかもしれませんが、ビタミンたっぷりで、私も風邪をひいたときなどよく飲みます。

•テチュチャ(ナツメ茶 대추차)
 ナツメのお茶。ある程度熟したナツメで、もちろん虫に食べられていないナツメを使います。水洗いしてから乾燥させ、ナツメが柔らかくなるまで煮込み、その汁を絞って、さらに煮込み、蜂蜜を混ぜてビンにいれておきます。
 あとは適量の熱湯を注いで飲みます。貧血性、食欲不振、冷え性などに効果があるとされています。

•メシㇽチャ(梅の実茶 매실차)
 梅の実の果汁のお茶。日本では梅の実に焼酎を入れて梅酒を作りますが、私は砂糖だけをかなり大量に青梅の実と一緒に入れて作ります。私は少なくとも半年ほど漬けておいてから飲み始めます。
 疲労回復、消化促進、解毒、殺菌作用があり、食後によく飲みます。

•モグァチャ(花梨茶 모과차)
 カリンのお茶。バラ科の植物で、カリンの実の皮をむき、種を取って薄く切って瓶に入れて砂糖漬けにします。1、2週間漬けて、その実と果汁をスプーンですくってカップにいれてお湯で飲みます。酸味の少ない甘さがあります。
 食もたれ、吐き気、気管支炎などに効果があると言われています。

•センガンチャ(生姜茶 생강차)
 生姜のお茶。日本でも風邪を引いたときなど、生姜を刻んでお湯を入れて飲むと聞いたことがありますが、それに似ていると思います。韓国では薄く切ったものに水を加え、しばらく煮てから飲みます。砂糖や蜂蜜を入れて飲むこともあります。
 消化不良、吐き気の改善、血行促進、解熱などに効果があります。

•ククァチャ(菊花茶 국화차)
 乾燥させた菊花のお茶。乾燥させた菊の花にお湯を注いで飲みます。ただそれだけですが、菊の香りがほのかにして、心が落ち着く感じがします。
 菊花には血圧を下げ、肝臓に良い、頭痛を和らげるなどの効果があるとされています。

•サンファチャ(双和茶 쌍화차)
 韓国では、風邪などに効果があるとされ、よく知られているのがこの双和茶(双和湯とも言う)です。漢方薬として使われる白芍薬、キバナオギの根、熟地黄、桂皮、ショウガ、ナツメなどが入っています。苦みがあるため砂糖などを入れて飲みます。呼吸器疾患や風邪、疲労回復に効果があります。

 まだまだあります。例えば名前だけ挙げますと、クギジャ(枸杞子、クコの実)茶、トラジ(桔梗 ききょう)茶、キュㇽピ(橘皮 ミカンの皮)茶、チッㇰ(葛 クズ)茶、スッㇰ(よもぎ)茶、トゥㇽケ(エゴマの実)茶、オッㇰスス(とうもろこし)茶、トゥングㇽレ(あまどころ)茶、メミㇽ(そば)茶、キョㇽミョンジャ(決明子)茶、ユㇽム(ハト麦)茶、オミジャ(五味子)茶、ポㇰプンジャ(山いちご)茶、ポㇽクㇽ(蜂蜜)茶、サグァ(りんご)茶、紅参(高麗人参)茶、さらには、スジョングァ(水正菓、生姜と桂皮を煎じた飲料)やシッケ(一名、お米の飲料)などの伝統茶もあります。

 最後に日本でもおなじみのポリ(麦)茶、ヒョンミ(玄米)茶など、甘みのないお茶もよく飲まれていることを付け加えておきます。

 (大妻女子大学准教授)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧