【コラム】槿と桜(106)

韓国語の資格試験について

延 恩株

 韓国語を大学で教えていますと、毎年、受講生から韓国語の検定試験について質問されます。自分が学んでいる語学の実力を客観的に知りたいと思うのは、自分の語学上達度を掴んでおきたいということですから、語学学習者としては積極性があり、教師としては歓迎すべき学習姿勢だと思っています。
 そこで、ここでは韓国語の検定試験について少し触れておくことにします。

 韓国語の能力を知るための試験は日本には3種類あります。
 ① 韓国語能力試験(TOPIK)
 ② ハングル能力検定試験
 ③ 全国通訳案内士試験です。

 ただ、③の全国通訳案内士試験は、主に外国人観光客を日本各地に案内して、日本の歴史や文化、習慣・風俗を基本的には外国人観光客が使用する言語で紹介する「通訳ガイド」の資格を取得する試験です。そのため試験は言葉だけではありませんので、ここでは省き、①と②について紹介します。

【①韓国語能力試験(TOPIK)】
 韓国の教育部(日本の文部科学省に当たる)が主催する試験で、日本の公益財団法人韓国教育財団が実施しています。「TOPIK」とは〝Test Of Proficiency In Korean〟の頭文字を取ったもので、そのため「トピック」とも呼ばれています。
 この試験は、"韓国語を母国語としない外国人と在外韓国人への韓国語普及"を目的としていて、1997年から実施され始め、26年ほどの歴史です。開始当初から日本にあります韓国教育財団が関わり、現在は年に3回、4月、7月、10月のいずれかの日曜日に日本全国の40~50前後の会場で一斉に行われます(韓国では年6回)。この試験の目的からもわかりますように、世界各国の韓国語習得を目指す人びとが対象で、韓国の大学や企業で採用されている唯一の韓国語資格試験です。現在、世界の97カ国で実施されていて(公益財団法人韓国教育財団ホームページより)、試験問題はすべて韓国語で出題されます。
 受験できる試験はTOPIKⅠとTOPIKⅡの2種類です。ただし、TOPIKⅠとTOPIKⅡはそれぞれ次のように細分化されています。

 TOPIKⅠ(初級前半レベル 1級)、TOPIKⅠ(初級後半レベル 2級)、TOPIKⅡ(中級前半レベル 3級)、TOPIKⅡ(中級後半レベル 4級)、TOPIKⅡ(上級前半レベル 5級)、TOPIKⅡ(上級後半レベル 6級)
 つまり試験は2種類ですが、韓国語の能力を測る基準としては6段階あって、1級が最初級、6級が最上級ということになります。そして、TOPIKⅠに分類されている1級か2級かを判定するのは試験での点数です。それはTOPIKⅡでも同様で試験での点数によって3級から6級と判定されます。韓国語初習者はTOPIKⅠからの挑戦となりますが、すべて韓国語で出題されますから出題内容を理解するためにも一定レベルの語彙力が必要です。

 では、どの程度の韓国語能力が求められているのか、韓国教育財団のホームページに掲載されています案内によって1級、2級に限って紹介してみましょう。
 級別の認定基準(全般)
【1級】・自己紹介、買い物、飲食店での注文など生活に必要な基礎的な言語(ハングル)を駆使でき、身近な話題の内容を理解、表現できる。
・約800語程度の基礎的な語彙と基本文法を理解でき、簡単な文章を作れる。
・簡単な生活文や実用文を理解し、構成できる。

【2級】・電話やお願い程度の日常生活に必要な言語(ハングル)や、郵便局、銀行など の公共機関での会話ができる。
・約1,500~2,000語程度の語彙を用いた文章を理解でき、使用できる。
・公式的な状況か非公式的な状況かの言語(ハングル)を区分し、使用できる。
 TOPIKⅠ(1級と2級)の試験は「聞取り」と「読解」で行なわれ、TOPIKⅡではさらに「筆記」(作文)が加わります。TOPIKⅠの解答はすべて四択によるマークシート式で、聞取り30問(40分)と読解40問(60分)、それぞれ100点で合計200点満点です。
 気になる合格ラインは1級が80点以上、2級が140点以上です。1級から2級への合格点数差が大きく、認定基準でも1級の語彙数が約800語程度に対して2級では約1,500~2,000語とほぼ倍増しています。

【②ハングル能力検定試験】
 こちらはNPO法人の日本のハングル能力検定協会が主催しています。名称を短縮させて「ハン検」とも呼ばれています。
 "日本語を母国語とする人へのハングル普及"を目的として1992年から実施され始めましたから「韓国語能力試験(TOPIK)」より5年ほど早く、日本で初めての韓国語検定試験でした。"日本語を母国語としている人"を普及対象としているため、日本だけで実施されている検定試験で、1級と2級以外は日本語で出題され、国籍、年齢を問わず誰でも受験できます。試験は年2回、6月と11月に実施されます。
 受験できる試験は1級、2級、準2級、3級、4級、5級の6段階で「韓国語能力試験(TOPIK)」とは逆に1級が最上級レベルで5級が最初級レベルとなります。また試験もレベルごとに実施され、検定料も各レベルで異なり、上級になるほど料金が高くなります。

「ハングル能力検定試験」では、それぞれのレベルでどの程度の韓国語能力を求めているのか、ハングル能力検定協会のホームページの内容に沿って、初級レベルの2段階についてだけ紹介します。

 最初級の【5級】では以下のようになっています。
・60分授業を40回受講した程度。韓国・朝鮮語を習い始めた初歩の段階で、基礎的な韓国・朝鮮語をある程度理解し、それらを用いて表現できる。
・ハングルの母音(字)と子音(字)を正確に区別できる。
・約480語の単語や限られた文型からなる文を理解することができる。
・決まり文句としてのあいさつやあいづち、簡単な質問ができ、またそのような質問に答えることができる。
・自分自身や家族の名前、特徴・好き嫌いなどの私的な話題、日課や予定、食べ物などの身近なことについて伝え合うことができる。

【4級】
・60分授業を80回受講した程度。基礎的な韓国・朝鮮語を理解し、それらを用いて表現できる。
・比較的使用頻度の高い約1,070語の単語や文型からなる文を理解することができる。
・決まり文句を用いて様々な場面であいさつやあいづち、質問ができ、事実を伝え合うことができる。また、レストランでの注文や簡単な買い物をする際の依頼や簡単な誘いなどを行うことができる。
・簡単な日記や手紙、メールなどの短い文を読み、何について述べられたものなのかをつかむことができる。
・自分で辞書を引き、頻繁に用いられる単語の組み合わせ(連語)についても一定の知識を持ちあわせている。

 いずれにも「60分授業で40回、80回受講した程度」という目安が示されていますが、一般的な大学での授業ですと、半期で週1回、90分授業、15回が基準ですから、60分授業40回はほぼ前期と後期を合わせた1年間の授業を受講した時間数になります。したがって80回は2年間ということになります。
 試験は5級、4級とも出題数は聞取り20問、筆記40問、試験時間は聞取り30分、筆記60分、配点は聞取り40点、筆記60点の100点満点です。そして合格ラインは60点以上ですが、聞取りを受験しないと不合格となります。

 さてこのように2つの検定試験について説明しますと、次に必ずどちらの検定試験を受けたらいいのかと質問されます。そこで次のような説明を加えることにしています。
・韓国語能力試験(TOPIK)は、韓国政府公認で韓国の大学や企業で認めている唯一の韓国語資格試験。
・ハングル能力検定試験は基本的には日本人向けに実施されている検定試験。
 したがって、将来、韓国へ留学するつもりなら韓国語能力試験(TOPIK)の方が有利、ちょっとだけ自分の韓国語能力レベルを知りたい、あるいは日本での就職時の自己アピールポイントにしたいというならハングル能力検定試験、というように説明します。

 また、韓国語能力試験(TOPIK)は資格取得後、有効なのは2年間だけで、ハングル能力検定試験は有効期限がないので、一度取得すれば生涯有効という大きな違いがあるということも説明します。
 そして最後に「どちらの試験でもあなたなら7~80%、合格する可能性があると思っているので、どちらの検定試験にするのかは自分で判断して、是非チャレンジしてみて。たとえ不合格だったとしても、まだまだチャンスはたくさんあるのだから」と背中を押すことにしています。
 実はどちらの検定試験も初級段階での合格率は統計的には80%を下回ることはあまりないのです。

大妻女子大学教授

(2023.7.20)
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