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≪2011年私の視点≫
■ 4島返還論者に問う              望月 喜市
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 菅内閣は新年になって急に内政問題で歯切れ良い指揮ぶり を示すようになっ
た。対米交渉もオバマ大統領との会談日 程がセットされた。対ロ外交はどう
か? 経済協力では、東シベリアでのガス田の共同開発で大ガス田を発見した
り、LNG工場 の建設工事を受注するなど、明るいニュースが飛び込んでくる
反面、 領土交渉の見通しは依然不透明である。

在ロシア日本大使の交代が あったが、新大使も4島堅持論者のようだ。外務大
臣は新しいアプローチが必要だ、と言っているが、その内容は定かでない。
  政府が4島要求を修正しようとすると、4島論者が猛烈な圧力をかける 構図は
変わっていない。私は次のように4島論者を批判したい。

(1) 市民感覚でみて、島が帰った場合、本当に元島民は島に移住する つもり
   だろうか?すでに高齢になられているので、そうはしないので はないか 
  (朝日投稿欄より)。

(2) 現在4島に住んでいるロシア人はどうなるのか。一方的に追い出す のであ
れば、日本人がされたことを繰り返すだけになってしまう。 それは恥ずかしい
ことではないか(朝日投稿欄より)。

(3) 4島返還に伴う、ロシア島民の個人財産の買取補償や、移転費補償 など莫
大な国費が必要になるが、国民は納得するだろうか?さらに 島に財産登記済の
元島民の財産処理費も大きな国費負担になろう、

(4) 島の防衛、維持管理費などの必要経費が毎年予算化されなければな らな
い。この経常費の負担をどう考えるのか

 (5) 政治的視点から見て、ロシア側がゼロ%、日本が100%の解決を、 ロシア
の大統領は甘受すると思うのか。つまり、政治的自殺行為を自 らやるだろうか?

(6) 軍事的に見て、択捉島は極東海軍の重要な要衝である。かって 真珠湾攻
撃の艦隊出撃基地になった故事を想起すべきだ。

(7) 4島返還の要求を下ろさない限り、ロシア側は交渉のテーブルに着 かない
だろう。この間にクリル開発の既成事実が一層進むだろうし、 進捗状況を視察
するために、ロシア側要人の島訪問はこれからも実行 されよう。そのたびに、
犬の遠吠えを繰り返すのか。日本外交の恥さら しではないか。

(8) 島の開発には、2兆億5000億ドルもの経済効果のあると言われ てい
る。ロシアは北方領土開発を日本以外の国、たとえばすでに進出し ている韓国
始め中国、シンガポールあるいは米国などの企業に投資、 協力を働きかける可
能性はありうる。こうした流れを日本が阻止する手立 てはない(N氏によ
る)。島を巡る観光事業を手掛ける外国企業が現れる 兆しがある。

(9) WIN-WINの妥協を考えるべきだ。島の所有にこだわるより、共同利用を 考
えたらどうか。

(10) 地政学的力のバランスからみて、中国の強引な対外進出を牽制す る意味
でも、さらに北朝鮮の脅威に対抗するためにも、日本は米国とだけでなく、 ロ
シアとの外交関係を強化すべきだ。積年のトゲを抜いて、対ロ政治関係を強化す
べきだ。

           (筆者は北海道大学名誉教授)

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