CO2削減を地元環境のなかで求めよう

                            力石定一
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 「グローバルに考えローカルに行動しよう」と言われる。地球温暖化の脅威に
関するグローバルな情報量はますます増加し、危機意識がひしひしと強まってい
る。にもかかわらず、ローカルな行動は「いまだし」の感がある。
  逗子市で生活している者として具体的にできることは何があるだろうかを考
えてみよう。


◆一、自動車利用の適正化


  自動車利用による排気ガスを減らすには、逗子駅に到達した横須賀線の15両
編成の前の4両を切り離して、ストックヤードに入れておき、次の通勤時間帯の
11両編成に4両を増結するという今のやり方を改めたらどうか。
  4両編成の車両を東逗子-逗子-鎌倉-大船のローカル線を往復運行させる
濃密なダイヤを実施するのである。そうすれば、大船-東逗子間の線路に平行す
る県道を走る乗用車を電車利用にモーダル・シフトさせる可能性を提供するだろ
う(注)。
  県道の自動車利用が減少すれば、県道から横道に入る市道の上の車も減るから、
自転車利用の危険が低下するし、バスの渋滞緩和にも寄与する。市道を一方通行
化できるところも生まれよう。
(注)=この案を先頃、JR東日本の役員会に提案したところ、前向きに対処し
たいとの回答を得ている。
  自動車利用を減らすもう一つの方法は、京浜急行の単線地下鉄を新逗子駅から
葉山を経て三崎口駅まで新設し、東海岸の複線と結んで「三浦半島環状鉄道」を
形成することである。葉山-秋谷間を結ぶ国道の地下にシールド工法でトンネル
を堀り、地下鉄への出入り口は公共用地に設置する地点をできるだけ選ぶように
し、そこを「上下線の行き違い駅」にする。このようにすれば用地買収費を極力
少なくすることができる。
  葉山、秋谷の人口はすくないので、4両ないし6両で、700名ないし100
0名の乗客を10分間隔で運び、新逗子駅で待っている車両に連結するならば、
国道134号線の自動車交通から、これへのシフトをかなり起こす可能性があろ
う。さらに朝夕の通勤時間に奥様によるJR逗子駅や京急新逗子駅への自家用車
送迎は、最寄りの地下鉄駅までと大幅に短縮されるから排気ガスの減少に寄与す
るであろう。
  JR横須賀線と京浜急行線との乗換えを今のように歩かなくて済むように、J
Rのストックヤードの池子に近い地点で、京急線が上、JRが下になって交差し
ているところに二階建ての乗換え駅をつくる。


◆二、太陽電池の利用促進


  次にCO2削減に寄与できるのは太陽電池の利用条件を整備する事である。逗
子では全国に先駆けて市役所と小学校の全校舎に太陽電池の設置を行っている。
これからは県立高校や文化会館、公民館その他あらゆる公共施設にまでこれをひ
ろげるべきである。
  私たちは、当時次のような計測をおこなった。
  全国の災害時の避難所に指定されている四万校の学校に住民安静のために9
0KWの蓄電池つきの太陽電池を設置する。
  90KWx4万=3600MWの計画的な導入によって、量産効果によるコス
ト低下が引き起こされ、ワット当たりの在来電力の料金とほぼ同じ水準に下がる
と見通した。この提案は実行されることなく、民間企業の開発競争にゆだねられ
てきた。2005年の累積導入量は1421.9MWのところを歩んでいるため
にワット当たりのコストも在来電力料金の2倍のレベルのところに位置してい
るのである。
  2005年の累積導入量ではドイツが1429MWに達し日本は世界トップ
の座を奪われたというニュースが注目されている。ドイツは、太陽電池の発電に
対し、電力会社に市場価格の割り増し料金で買い取らせる公的システムをとらせ
ることによって、この追いつきを実現したのである。
  日本も同じような方式をとるかどうかが議論されている。
  私たちは、公的部門の購入計画という兼ねてからの方式を再確認して量産効果
によるコスト引き下げを通じてスピン・オフするというオーソドックスな道を選
ぶべきだと思う。


◆三、緑の光合成によるCO2吸収


  逗子市域の面積1734ヘクタールのうち、森林面積は894ヘクタールで5
2%を占めている。このうちシイやタブなど常緑広葉樹林50ヘクタール、スギ、
ヒノキなど常緑針葉樹林200ヘクタールを除いた落葉広葉樹林は650ヘク
タールで全森林面積の70%を占めている。落葉広葉樹林には、エノキ、ケヤキ
のような天然の喬木が部分的に含まれているが、大部分はクヌギ、コナラ、サク
ラのような二次林である。この70%を占める落葉樹林は、冬季は落葉し、CO
2を吸収する光合成機能を停止するから逗子の冬の景観は灰色を呈している。
 
しかし近年、樹林の上層は灰色の二次林に覆われているが、その下層に、常緑
広葉樹の実生や残されている古い根株からの萌芽が次第にひろがってきている。
コナラ、クヌギを薪炭林として利用する人手が絶えず加わっている間は、このよ
うな潜在自然植生への遷移は永年の間容易に起こらなかったのであるが、エネル
ギーを化石燃料に依存するようになってくると、放置された二次林の自然植生へ
の遷移が生じるのである。森林の下層で常緑樹による光合成が、冬季にも復活し
てきていることを見落としてはならない。しかしながらこれについて、「里山の
自然」が常緑樹の復活によって荒らされている、この侵害から里山の景観を守ら
なければならない、といった「環境運動論」が一部に叫ばれているが、これは間
違った議論である。里山が「荒れる」のはツルやツタがクヌギ、コナラに巻き付
いて、ジャングル化するときに言われるべき表現である。ただ遷移にのみゆだね
ていたのでは厳しい異常気象に対して抵抗力の弱い急傾斜地の二次林が倒木し
て土砂崩れを引き起こしたり、豪雨が表土を泥水として押し流したりといった被
害に見舞われることになる。そのような地盤の弱い地域に対して、ポット苗の宮
脇昭式の植栽を計画的に行って(その直根と深根性のひげ根の力を用いて)被害
を予防するような混交林化を行うことが望ましいのである。


◆四、海草の光合成機能


 CO2を吸収する光合成機能で今一つ忘れてならないのは、植物プランクトン
と海草類(ワカメ、ノリ、アラメ、カジメ、ホンダワラなど)の役割である。海
草類が光合成をおこなうためには、太陽光が到達しうる水深10メートル内外の
浅瀬であることが必要である。その浅瀬が、前述の山からの泥水によって濁らさ
れたのでは、太陽光線が届かないために、光合成が不可能になってしまう。海の
森林の光合成機能を妨げている例には、沖縄の赤土の海への大量流出や黄河や揚
子江の河川水がほとんど泥水であるため、黄海、東シナ海の沿岸部の海草の成長
を不可能にしていることなどがある。
 
逗子ではどうか。汚水と雨水の合流方式の下水道が、ハイランド地域と逗子三
丁目、四丁目、桜山一丁目、二丁目に残存している。豪雨の時には、終末処理場
が、受け入れることができないので、未処理のまま久木川や田越川に放流される。
それが、相模湾の潮流に押されて、逗子海岸の砂浜に堆積されている。以前は一
年のうち六十日そのような未処理の放流が行われていたが、近年は異常気象のた
めに、豪雨に見舞われる機会が増えているから、この問題は一層きびしくなって
いる。
  海岸の泥土は、波打ちによって、水深10メートルの範囲にかき出され、海草
に太陽光線が到達するのをさまたげその光合成機能を低下させる。最近養殖ワカ
メが不作であると小坪の漁民がなげいているが、この間の事情が背景にあると思
われる。
 
下水道の合流方式から「分流方式」に切り替える土木工事は、CO2削減対策
としても見直されなければならない。
  以上のような各種の政策手段を実施するために逗子市民の間にNPOを組織
し、横浜、横須賀、鎌倉など周辺都市の企業のうちで、逗子のCO2削減の政策
モデルに共感をもつ人々から寄付を募り、集めた基金で、政策的行動をおこなっ
てゆくというような運動が期待されよう。今日本の商社は、日本企業のために海
外のCO2排出権の購入を盛んにすすめているが、逗子のNPOの基金募集は、
「排出権取引」ではない。これは、カーボンオフセット(相殺)制度の一種であ
る。西欧ではCO2を排出せざるをえない企業や個人が、CO2を吸収する事業
に対して寄付をして、自らの排出責任を相殺してもらう制度がひろがっている。
  たとえばイギリスでは、旅客機に乗った乗客が、到着した空港において、飛行
中に排出したCO2の量を相殺するだけ森林事業や太陽電池事業などに対して、
自発的な寄付金を支払うといった行動をおこなっている。
 
逗子の周辺の湘南地域にまで手をひろげて、カーボンオフセットをおこなおう
と思ったら逗子市の行政のイニシヤティブでは難しい。NPOなら、それが可能
になるという点が、特徴である。
  基金の用い方については、京浜急行の株を取得して、単線地下鉄建設計画の実
施に株主権を利用するとか、金融機関の株主権をもち、市民の太陽電池設置への
融資を促すなど色々工夫がありうるだろう。
                      (筆者は法政大学名誉教授)

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