【コラム】酔生夢死

Jアラートによる世論操作

岡田 充

 濃い目のコーヒーを飲みながら朝食をとっていた手が思わず止まった。「Jアラート! Jアラート! 飛翔物体が発射されました。建物の中か地下に避難してください…」 TVのニュース番組が中断され、甲高い無機質なアナウンスがエンドレスに繰り返された。10月4日朝7時半ごろから8時まで…
 日本政府の発表によると、北朝鮮は同7時22分ごろ中距離弾道ミサイルを日本海に向け発射し「日本上空」を通過した。これを受け政府が、北海道と東京島しょ部に、全国瞬時警報システム(Jアラート)を発令したのは同29分ごろ。だが実際に青森県上空を通過したのは同28~29分ごろとされる。
 わずか1分間で、対象地域の住民が避難行動をとるのは難しい。対象地域では、防災無線やサイレンが鳴り響き、通勤、通学時間帯の交通機関は新幹線を含めて乱れ、臨時休校した学校もあった。ミサイルは実際には約20分間で約4600キロ飛行し、太平洋に落下していたというのに。
 問題なのは、①避難呼びかけはミサイル通過とほぼ同時か通過後だった②東京島しょ部と千代田区、稲城市にも誤って送信されたー。自民党内の会議では、Jアラートについて「不正確で遅い」「国民を惑わす形になった」など、批判が相次いだという。
 ミサイル発射を受けJアラートが発令されたのは2017年以来だった。17年4月29日のミサイル発射(失敗)では、東京メトロはなんと地下鉄全線を停止させた。仮にミサイルが日本向けなら約10分で落下する。地下鉄の運行停止は発射から40分後。しかも「実験失敗」報道の後だった。「Jアラート」の精度と問題点は、当時から指摘されていたのだ。
 ことほど左様に、弾道ミサイル発射を探知しその軌道を瞬時に割り出すのは難しい。米、中やロシアは、低空で極超高速を飛行する極超高速ミサイルを開発、配備しているとされる。イージス艦や「イージス・アショア」など、現在のミサイル防衛システムでは、これら新型ミサイルには対応できない。
 注意したいのは①日本上空通過②落下地点が日本の排他的経済水域(EEZ)の内か外かーの2点。今回は青森県上空を飛行したとされるが、「上空」と聞き「日本領空が侵犯された」と早とちりしてはいけない。領空は地上から約100キロの大気圏内までであり、そのさらに上の大気圏外には、領空は存在しない。だから領空侵犯ではない。
 第2.かりにEEZ内に落下しても「資源の優先開発権」を冒すわけではないから違法性はない。この辺りはメディアはちゃんと説明すべきだ。では政府が落下地点にこだわる訳は何か。EEZ内なら日本の権益が侵されたと受け止め、被害者意識を駆り立てる効果を計算しているからではないか。
 久々にJアラートを体験し、「メディア・ジャック」できる「権力の強さ」を改めて感じた。うまく利用すれば、TVなどメディアを通じ、世論操作も不可能ではない。国葬に加え、旧統一教会と自民党の癒着問題で支持率下落が止まらない岸田政権にとって、Jアラートは国民の関心を、国外の「敵」に向ける絶好のチャンスと映ったのではないか。(了)
画像の説明
「Jアラート」を伝えるTV画面

(2022.10.20)
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