◆◆ヤンバルの自然林に軍事用ヘリ着陸帯


 
  鳩山前首相の「方便」発言に続いて、ケビン・メヤ米国務省日本部長(Direct
or of the Office of Japan Affairs)の沖縄(日本)占領者意識丸出しの「講
義」が、1945年以来米軍基地を押し付けられてきた沖縄住民を怒りに駆り立てて
いる。今回は沖縄本島北部の軍事訓練場を世界自然遺産に登録して自然を守るべ
きという主張を書いていたが、急遽、これら二つに関する思いを追加することに
した。
 
  「方便」というのは、2009年の総選挙で、市街地にあってきわめて危険な普天
間海兵隊基地を「国外、少なくとも県外」に移すと公言して政権を勝ち取った鳩
山氏が、対米追従の日米軍事同盟路線から離脱できない外務省や防衛省、外交・
防衛「専門家」などに取り囲まれ、「学ぶにつけ」在沖米海兵隊が日本防衛の「
抑止力」であることを知って、自民党政権とブッシュ米国政権の間小泉政権の下
で合意された在日米軍再編合意(→普天間の代替基地は沖縄北部・辺野古に建
設)に回帰した(2010年5月末)ことを「説明」した、今年1月31日の発言である。

 「対等な日米関係」を目指すと述べて、これでようやく沖縄も米軍基地からの
解放の第一歩を踏み出すかと大きな期待を与えた鳩山首相の、指導力欠如と言行
不一致を示す、沖縄に対する裏切り発言であった。米国政府、在日米軍、「ジャ
パン・ハンドラー」たちが好んで使い、中央メディアがそのまま引用する在沖海
兵隊の「抑止力」は、米軍が巨大な嘉手納空軍基地や横須賀海軍基地などに加え
て超高度無人ステルス偵察機、遠隔操作無人爆撃機、攻撃・防衛ミサイル、先鋭
機と爆弾を積んで世界の海を走り回る空母をもって「世界に敵なし」を誇示する
今日、何の意味もない。
 
  メヤ発言(昨年12月3日、報道は今年3月7-10日)は、この怒りが覚めやらぬ
中で飛び出した。ハワイ大学で近代東アジア史を学び、ジョージア大学で法学の
博士号を取得したあと弁護士資格を取得、国務省に入省して香港総領事館副領事
駐日大使館経済担当官や政治軍事担当副課長、国防総省空軍副次官室国際政策
課長部、さらには福岡領事館首席領事、駐日大使館で日米同盟や在日米軍再編を
担当する政治軍事部長、沖縄総領事(2006~09)などを務めた「日本通」「沖縄
通」のメヤ氏にして、米軍視点のみから日本や沖縄を見下す発言をするというの
は、こうした歪んだ考え方が「常識」として国務省や国防総省に広まっているこ
とを示すのではないか(国務省は否定している)を疑わせる。

 日本政府は、鳩山発言に続くメヤ発言に対して、戦後沖縄が置かれてきた地位
や日米安保下の日米関係を見直し、辺野古「代替基地」ややんばるの森でのヘリ
パッドの建設を含め、軍事植民地・沖縄における米軍基地のあり方を根本的に洗
いなおすべきだろう。 なお、メヤ氏の発言については、以下を参照。

・「沖縄、ゆすりの名人」 メア米日本部長が発言」(「琉球新報」、3月7日
  http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-174327-storytopic-53.html
・「日本部長発言録全文(日本語)」(「沖縄タイムス」、3月8日、
  http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-03-08_15192/
・「メア氏講義メモ全文(日本語訳)」(「琉球新報」、3月8日、
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-174366-storytopic-3.html

・「『沖縄差別発言』」メア氏を解任すべきだ」(「沖縄タイムス」社説3 
  月8日)
  http://www.okinawatimes.co.jp/category/%E7%A4%BE%E8%AA%AC/1/

・「メア氏差別発言 解任し米の認識改めよ ゆがんだ沖縄観を投影」
(「琉球新報」社説、3月8日
  http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-174331-storytopic-11.html

・「ケビン・メア米国務省日本部長の発言に対する抗議決議(全文)」
(「琉球 新報」3月9日、
  http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-174384-storytopic-3.html

・「[解説]県議会怒り党派超え 異例の即決議」(「沖縄タイムス」)
  http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-03-09_15197/


◆◆世界的な絶滅危惧種生息地:やんばる


 
  ヤンバルクイナやノグチゲラなどの世界的な絶滅危惧種の生息地として知ら
れ、国定公園(原生自然環境保全地域)や世界自然遺産に指定されてもおかしく
ない沖縄本島北部のヤンバル(山原)の森。
 
  普天間基地問題と辺野古移設問題の陰に隠れて、本土ではほとんど取り上げら
れないが、ここ数年、ヤンバルの森の東沿岸近くに位置する東村高江(ひがしそ
んたかえ)を中心に、軍事用ヘリパッド(ヘリコプター着陸帯)建設反対運動が
続いている。高江は、沿岸から1キロほど内陸部に入った一面緑色の台地状のと
ころに、50戸ほどの住宅、学校、公民館、共同組合(売店)が並ぶ、人口200人
弱の村落だ。村の前を通る、大浦湾に面する名護市大浦から国頭村奥に通じる県
道70号線の両側には、小さな畑地やハーブ園が並ぶ。
 
  高江の北には、新川ダム、安波(あわ)ダム、与那覇岳天然保護区域、南西に
は沖縄本島最大の水がめ・福地(ふくじ)ダム、つつじエコパークなどが点在し
東沿岸には太平洋が広がる。県都・那覇から北東へ90数キロ、村役場のある平
良(たいら)から沿岸道路70号線をへて北東へ約12キロという高江は、まさに自
然に囲まれた過疎の村である。


◆北部訓練場の過半は返すが……


 
  コトの発端は、1996年12月の日米SACO(沖縄に関する特別行動委員会)合
意にある。「沖縄県民の負担を軽減し、それにより日米同盟関係を強化するた
め」に設置された委員会は、「以下の条件の下で、平成14年度末までを目途に、
日本最大の米軍訓練施設・北部訓練場の過半(約3、987ヘクタール)を返還し、
また、特定の貯水池(約159ヘクタール)についての米軍の共同使用を解除す
る」ことに決めたのである。

 「条件」は、
1.北部訓練場の残余の部分から海への出入を確保するため、平成9年度末までを
  目途に、土地(約38ヘクタール)及び水域(約121ヘクタール)を提供する。
2.ヘリコプター着陸帯を、返還される区域から北部訓練場の残余の部分に移設
  する。というものであった。つまり、ヤンバルの自然林に広がる北部訓練場
(7513ヘクタール)のうち約4000ヘクタールは返還するが、訓練場内に新たにヘ
リパッドを建設する訓練場から沿岸へのアクセスロードと沿岸水域121ヘクター
ルを基地として利用するというのである。
 
  北部訓練場から海への出入り口が確保された後、海兵隊が揚陸訓練に使ってい
た本島東岸の安波沿岸訓練場(4893ヘクタール)も閉鎖されることになった。北
部訓練場の沿岸を揚陸訓練場として使用するということだろう。


◆◆高江のヘリパッドにオスプレイ?


 
  特に問題になっているのは、住民の体を張った反対運動にもかかわらず、東村
にすでにある15のヘリパッドに加えて防衛省が高江から数キロの範囲内に6つ(
当初の計画から一つ減らした)のヘリパッド建設作業を強行していることだ。高
江の反対運動については、インターネット・サイト「座り込み以外でできること
:やんばる東村 高江の現状」http://takae.ti-da.net/を参照)。
 
  ヘリパッドとは、空港やヘリポートのほか、船の甲板、高層ビルの屋上や病院
駐車場、発電所内、校庭など、人命救助、消火活動、緊急避難などのために設
置・利用されるヘリコプターの緊急離着陸場のことである。?印が描かれている
ところがそうだ。高江で工事が進められているヘリパッドは、それぞれ、直径
45mの着陸帯と周囲15mの無障害物帯(合計直径75m)に進入路がつくという。
 
  しかし、高江周辺のヘリパッドは、こうした人命救助や緊急避難のための離着
陸場ではない。軍用ヘリが、武装した海兵隊員を北部訓練場から沿岸に停泊する
揚陸艦や空母、辺野古に建設される予定の海兵隊航空基地へ、または揚陸艦、空
母、航空基地から訓練場へ運び、あるいは離着陸訓練を行うための基地である。
 
  騒音がひどく、墜落事故が多発している上、コストも他の機種の5倍もかかる
ため、かつてチェイニー国防長官が「失敗作だ」として4度も調達中止を決めた
という垂直離着陸機V-22オスプレイの配備もうわさされているだけに、住民の
不安は計り知れない。
 
  ベル・ヘリコプター・テクストロン社とボーイング社ヘリコプター部門の提携
で開発した、ヘリコプターのように垂直に離着陸し、両端にローター(プロペ
ラ)のつけた主翼をティルトして(傾けて)飛行機のように航行する同型機は、
姿勢制御や重力維持が不安定で、離着陸時には騒音が激しく、事故も多い。
  開発中のオスプレイは1990年か2000年の間に30人もの犠牲者を出し、米軍内で
は「未亡人量産機」として恐れられていた。

 1989年に、国防総省はコストがかかり過ぎ、しかもまだ実験段階であるとし
て、開発計画をキャンセルしようとしたが、議会の拒絶により、計画は続行され
た。当時のオキーフ海軍長官も、国防総省の要件を満たさないとして、テスト用
の3機の製造に議会が計上していた7億9千万ドルを国防総省は投資しないと下院
国防委員会で述べていた。しかし、海兵隊は、ベトナム戦争で活躍した輸送ヘリ
コプターC-46 に取って代わる機種がないとして、輸送ヘリと飛行機の機能を兼
ね備えたオスプレイには強い期待を抱いていた。

 1992年7月には、首都ワシントン近郊の海兵隊航空基地に向かっていたオスプ
レイがポトマック川に墜落、乗員7人全員が死亡、2000年4月にはアリゾナ州での
墜落で乗員19人の海兵隊員が死亡した。最近では、昨年4月9日の夜、アフガニス
タンで戦闘中のオスプレイがエンジン・トラブルを起こして墜落、砂漠の着陸場
に着陸しようとしたが果たせず、パイロットとエンジニア、16人の乗客のうち兵
士一人と契約業者一人の計4人が死亡し、16人が負傷した。
 
  軍需産業は、連邦議員の支持を得る目的もあって、合衆国各地に分散してお
り、議会・国防総省・兵器メーカーのいわゆる政軍産複合体の強力な支持で成り
立っている。 しかも、92年7月の「ニューヨーク・タイムズ」によると、軍と
契約業者は、「設計ミス」による製品の軍人その他の死傷に責任を負わない、と
連邦最高裁判所は5対4との判決を下している。

 今年1月には、米軍も利用しているアラバマ州のブルートン民間空港で周辺住
民の騒音への苦情が殺到したため、空港が調査したところ、フロリダ州のハート
バート空軍基地から飛来してきた空軍特殊部隊のオスプレイが原因だということ
が判明した。地元のオンライン紙「ブルートン・スタンダード」(1月22日)に
よると、市営空港当局の申し入れを受けて、オスプレイが属する飛行中隊の司令
官は謝罪するとともに、ただちに今後の演習を取り止めることに同意した。


◆◆ヘリパッド建設をめぐる5つの質問


 
  高江のヘリパッド建設については、糸数慶子参議院議員の質問主意書(平成21
年1月9日)とそれに対する政府(麻生太郎首相)の答弁書(同年1月20日)を見
ていただこう。
 
  糸数議員は、まず「沖縄県東村高江区周辺における在日米軍のヘリパッド(ヘ
リコプター着陸帯)建設をめぐり防衛省・沖縄防衛局は2008年11月、高江区の住
民を債務者とする通行妨害禁止を求める仮処分命令を那覇地方裁判所に申し立て
た(以下、「申し立て事件」という)。申し立て事件は、国が在日米軍の施設建
設のために短絡的に司法の手を借り、建設反対の住民運動を排除しようという極
めて異例な事案であるうえ、その申し立て内容においても八歳の子供を債務者(
後に取り下げ)とするなど、ずさんさが指摘されている」と述べた上、次の5点
について質問した。

一 防衛省は、申し立て事件の目的を明らかにされたい。
二 防衛省は、申し立て事件に至る経緯を具体的に明らかにされたい。
三 防衛省は、申し立て事件の内容(通行妨害の日時、人数、妨害行為の方法、
   手段等)を詳細に明らかにされたい。
四 既に東村には15か所のヘリパッドがあり、毎日昼夜を問わず高江集落上空で
   飛行訓練している。それにもかかわらず新たに高江区周辺に6か所のへリ
   パッ ドを建設する理由は何か、明らかにされたい。
五 しかも、ヘリパッドの一部は垂直離着陸MV-22オスプレイが使えるよう設
   計されているが、日本政府は、次のように、そうした計画を否定してい
   る。 

 防衛省は、高江区周辺のヘリパッドでの米軍機・オスプレイの訓練を想定して
いるからかにされたい。

 政府は、一及び二について、こう答弁した。「北部訓練場のヘリコプター着陸
帯の移設工事については、平成19年7月以降、当該工事に反対する人々によっ
て、国の所有地である進入路における座込みや車両の駐車、テントの設置等の妨
害行為が繰り返し行われ、その円滑な実施が阻害されてきたところである。

 防衛省としては、当該工事に反対する人々に対し、これらの妨害行為を行わな
いよう警告するなど対処してきたところであるが、これらの妨害行為が改善され
る状況にないことから、平成20年11月25日、当該工事を安全かつ円滑に実施する
ため、工事に反対する人々を債務者とする通行妨害禁止及び工作物等収去の仮処
分の申立てを那覇地方裁判所名護支部に行ったところである。

 三については、「現在、仮処分手続が裁判所に係属中である」として、返答を
控えた。
  四については、「北部訓練場の土地の返還については、平成8年12月2日に発表
された沖縄に関する特別行動委員会の最終報告を受け、平成11年4月27日の日米
合同委員会において、返還される区域に所在するヘリコプター着陸帯7か所を同
訓練場の残余の部分に移設すること等を条件として、同訓練場の過半を返還する
ことが合意された。

 その移設については、自然環境の保全にできる限り配慮するとの観点から、那
覇防衛施設局(当時)が自主的に行った環境調査の結果を踏まえ、平成18年2月9
日の日米合同委員会において、移設される着陸帯の数を7か所から6か所に縮小等
した上で、御指摘の高江地区を含む移設候補地が合意されたところである」と回
答。
 
  また、住民の工事妨害に関する質問3については、「現在、仮処分手続が裁判
所に係属中である」として、返答を控えたが、その後、「仮処分」訴訟が係争中
であるにもかかわらず、那覇防衛局に雇われた作業員が文字通り住民の「頭越
し」に工事現場に砂利や土のうなどの資材を投げ込むなど、工事を進めている。
抗議のための座り込み用掘っ立て小屋が、無人の深夜、吹き飛ばれたこともあ
る。米軍ヘリコプターのホバリング(低空飛翔)によるものと思われるが、米軍
は否定した。
 
  なお、防衛省沖縄防衛局の「通行妨害禁止仮処分禁止に」に関する訴訟の経過
については、新聞報道のほか、上記インンターネット・サイト「やんばる東村 
高江の現状」の「裁判についての状況」をご参照いただきたい。


◆◆オスプレイ沖縄配備の真偽


  最後のオスプレイに関しては、政府は「垂直離着陸機MV-22オスプレイの沖
縄への配備については、アメリカ合衆国政府から、現時点において何ら具体的な
予定を有していないとの回答を得てきている。したがって、防衛省としては、垂
直離着陸機MV22-オスプレイが、北部訓練場のヘリコプター着陸帯を使用する
ことを想定していない」と述べた。 高江のエリパッドがオスプレイ用に設計さ
れていることを否定したのである。

 オスプレイが沖縄(辺野古代替施設)に配備されることは、2007年4月5日付け
の沖縄の新聞が、「共同通信が入手した96年10月23日付の米軍メモによると、日
米の作業部会は普天間飛行場の代替施設の滑走路について約1300メートルと約
800メートルの二案を協議。米軍はオスプレイを沖縄に配備する考えを表明し
た」と報道し、次のように伝えている。
 
  日本側は「同機に合う施設受け入れへの理解を(国内で)求める難しさ」を説
明。沖縄側と協議するに当たり、同機配備を公表すべきかどうか米側に助言を求
めた。こうした経緯を受け、最終報告の直前に当たる11月下旬の草案は「海上施
設(代替施設)はオスプレイ部隊の配備を支援する」とした。しかし12月公表の
最終報告は「短距離で離着陸できる航空機の運用も支援する」と、オスプレイに
関する表記は削除された。
 
  11月26日の日米協議を記録したメモによると、在日米軍は日本側に同機配備の
情報を国内で公表するよう要請していた。交渉を担当したキャンベル元国防副次
官補は削除の理由について「日本側が非常に懸念した。特に外務省の懸念が強か
った」と語った。

 2010年9月11日には、朝日新聞電子版が「米国防総省のモレル報道官が9日、
米海兵隊の新型垂直離着陸輸送機MV-22「オスプレイ」の日本国内への配備を「
日本政府に伝えた」ことを明らかにした。
 
  米海兵隊は、2012年10月にミラマー基地(カリフォルニア州サンディエゴ)の
第561中型ティルトローター中隊、13年4月に第562中隊(計24機)を普天間に
配備し、普天間飛行場に配備中のヘリ2個中隊を順次ミラマー基地に移すと発表
している(「沖縄タイムス」、2010年10月1日)。
 
  日本政府は、「普天間代替航空基地」の建設が合意されている辺野古を含むや
んばるの住民にとって騒音迷惑と危険性が高い上に、自然を破壊する恐れがあ
り、中南部の住民にとって必須の水源地を破壊する可能性が高いオスプレイ配備
には、はっきり「ノー」をつきつけるべきである。
 
  仲井真知事は、海兵隊のV-22沖縄配備計画について、「もし本当だとすると反
対だ。特にオスプレイは危険な機種というイメージが非常に強い。騒音が低くな
るとも思えない」と述べ、「馬鹿げている」と不快感をあらわにした(「沖縄タ
イムス」)。 しかし、日本政府は、相変わらず、オスプレイの沖縄配備計画の
事実を認めていない。


◆◆高江に2つのオスプレイ・パッド


 
  これだけでは、ヤンバルの森に建設されるヘリパッドがオスプレイ仕様かどう
かははっきりしない。しかし、オスプレイが辺野古に配備されれば、辺野古と北
部訓練場を結ぶ(訓練場の出口にある)高江のヘリパッドに離着陸することはほ
ぼ間違いないだろう。
 
  なお、今年2月末の段階での報道によれば、北部訓練場には22のヘリパッドが
設置され輸送ヘリCH-53などが訓練に使用している、金武町と宜野座村にま
たがり、辺野古に接する海兵隊基地キャンプ・ハンセンには39ものヘリパッドが
おかれている(金武町の調査)、新たに建設されるヘリパッドは国頭村に4つと
東村に2つに計6つで、オスプレイの沖縄配備については「可能性はあるが、現
時点で米国政府から日本政府への正式通告がなく、沖縄配備は確定していない」
(糸数議員に対する政府答弁書)。


◆◆ヘリパッド建設中止を求める世界自然保護基金ジャパン


 WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)は、「多くの固有種、希少種が生
育・生息する沖縄島山原(やんばる)の森を、優先的に保護すべき地球上の重要
な自然環境のひとつに位置づけ、保護活動を行なっている」として、「米国海兵
隊北部訓練場の新たなヘリパッド建設は、やんばるの自然環境を破壊し、地域住
民の平穏な生活を脅かすため、建設の中止を強く求め」ている。運動は、「グリ
ーンピース・ジャパン」、「日本自然保護協会」、「日本野鳥の会」、「日本環
境法律家連盟(JELF)、「JUCON (Japan - US Citizens for Okinawa
Network)」「Network for Okinawa (NO)」、 「US for Okinawa」、

 「沖縄に基地はいらない!」「WORLD PEACE NOW」などの支持も得ている。

 以下は、「WWWジャパンの2007年6月14日付け声明文より。 「北部訓練場
(ジャングル戦闘訓練センター)には、沖縄島北部の亜熱帯性常緑広葉樹林が良
好な状態で残されている。この森は、地球上でここだけに生息するノグチゲラ、
ヤンバルクイナなど、数多くの固有種、固有亜種、絶滅のおそれのある種の重要
な生息地となっている。  那覇防衛施設局の「環境影響評価図書(2006年)」
を見ると、ヘリパッド建設予定地とその周辺では、4、000種をこえる野生生物が
記録されている。

 このなかには、植物で12種、動物で11種の固有種・固有亜種、177種(環境
省)から188種(沖縄県)の絶滅のおそれのある種が含まれている。これは、世
界自然遺産の選定基準のひとつである「世界的な価値の絶滅のおそれのある種を
含む生物多様性の保存のための重要な自然の棲み場所がある地域」という項目を
十分に満たしている。

 沖縄島では、復帰後の開発により森林が失われてきた。しかし、約7、500haの
面積を有する北部訓練場の森林は自然状態で残され、野生生物の避難場所(レフ
ュージ)となっている。生物多様性に富む貴重な自然環境を破壊し、その価値を
失わせる6か所の軍用ヘリパッドと進入路を造るべきではない。  IUCN(国際自
然保護連合)の世界自然保護会議は、2000年(アンマン)と200年(バンコク)
の2度にわたり、ノグチゲラ・ヤンバルクイナとその生息地の保全を勧告した。

 日本政府に対しては、生物多様性と絶滅のおそれのある種の保全計画を作成す
ること、自然遺産への指名を検討すること、保護区の設置と保護の行動計画を作
成すること、ヘリパッドに関するゼロ・オプション(造らない選択)を含む環境
アセスメントを実施することを勧告し、アメリカ政府に対しては、米軍の環境管
理基準をもとに野生生物保護の観点から日本政府と協議すること、日本政府の環
境アセスメントに協力することを勧告している。  

 日米両政府は、それぞれの政府が加盟しているIUCN(国際自然保護連合)の勧
告に従い、軍用ヘリパッドを建設することではなく、野生生物の生息地を保護す
ることに力を入れるべきである。

 前述の那覇防衛施設局の「環境影響評価図書」では、環境への影響を回避・低
減し、保全措置をとることによって、環境保全上特に問題はないとしている。し
かし、この報告書自体が環境アセスメント法の対象外とされ、ヘリパッドの建設
を前提に書かれているため、その手続きも含めて正当な環境アセスメントにはな
っていない。回避、低減などの措置も実効性は疑わしい。環境保全上問題はない
と言う結論は、明らかに間違いである。

 むしろ、同書の環境現況調査の結果からは、科学的に、保全生物学的に検討す
れば、ヘリパッドの建設と軍用機による訓練は、自然環境と野生生物へきわめて
大きい影響をおよぼすと予測されるので、建設は不適当であり断念すべきという
結論が導き出されるはずである。
 
  6か所の米軍ヘリパッドは、東村高江地区を取り囲むように計画されている。
直径75メートルのヘリパッドの建設と垂直離着陸機オスプレイによる軍事訓練は
高江の住民の生活環境に大きな悪影響を及ぼす。高江は人口約150人で、中学
生以下が20パーセントを占める小さな集落である。居住者を軍用機の耐えがたい
爆音や墜落の危険にさらすことは、基本的人権を無視する行為であり、平和で文
化的、健康な生活を保障する日本国憲法に背くものである」


◆◆米国のネットワークも沖縄の新基地建設にノー


  米国と世界の平和・環境団体、宗教的奉仕活動団体、大学・研究機関やシンク
タンクの代表者を結びつけ、沖縄における軍事施設建設に反対し、民主的な判断
をサポートする米国の草の根ネットワーク「Network for Okinawa (NO)」(沖縄
のためのネットワーク)は、2月21日、やんばるの森と辺野古における新基地建
設に反対する声明を発表した。
 
  ジョン・フェファー代表は、声明の中で、次のように述べた。
  「建設作業員が建設資材や機材を高江の山原(やんばる)の森へ移動する際、
地元住民を押しのけて通り過ぎました。また、キャンプ・シュワブと海辺の境界
にある有刺鉄条網を臨時の壁に置き換えることで、建設現場を抗議者の 視界か
ら妨げる試みです。住民は、1996年末に日米政府が計画を発表して以 来、
両建設現場では住民たちが反対運動を行ってきました。住民たちは、繊細な 環
境および文化遺産の危機をずっと訴えてきました。両方の現場は、沖縄でしか見
つけることのできない希少種や絶滅危惧種の生息地です」
 
  「沖縄防衛局の行為は大きな懸念であり、沖縄地域の正当な不満をあきらかに
しています。私たちは、工事関係者には不適切な行動を慎むよう要求します。私
たちは、日米両政府に対し、沖縄の圧倒的大多数の人々が新基地建設阻止のため
に投票した民主的な願いを尊重するよう求めます」
 
  「日米両政府が、世界で最も多様な生態系に取り返しの付かない損傷をもたら
す建設計画を主張し、推し進めるのは信じ難い悲劇です。金融危機や悪化する財
政状況の中、両国が、教育や社会福祉活動を削減し、軍産複合体への利益のみを
支援する計画を受け入れるとは、衝撃的です。」

  NOのウェブサイトは、  http://www.closethebase.org/

           (筆者は沖縄在住・元桜美林大学教授)

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