■ 海外論潮短評【番外編】            初岡 昌一郎

~労動組合―寒冷期から脱出か~

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  『エコノミスト』3月14日号は、資本主義の危機が労働運動に再生と再構築
のチャンスを与えているという記事を表記の見出しにより掲載しているので、そ
のポイントの2,3を紹介する。

 オバマ大統領はAFL-CIO執行評議会にメッセージを送り、自分が組合の
友人であり、彼の政府は組合にたいして常に門戸を開放していると述べた。カー
ター大統領以来初めて親組合的なホワイトハウスが誕生した。ブッシュは、8年
間に一度だけAFL-CIO会長を招待したが、スウィニー会長は今や少なくと
も週一度はホワイトハウスを訪れている。

 オバマは、チムスター労組支部長の娘、ヒルダ・ソリスを労動長官に任命した
。彼は既にいくつかの親組合的な法律に署名している。経済界からの激しい批判
にもかかわらず、彼は、"カードチェック"法と呼ばれる、従業員(組合)自由選
択法案を両院に提出した。この法案は組合組織化を促進するためのものである。
1935年にニューディールの一環として制定された、団結権とストライキ権を
承認する全国労動関係法(ワグナー法)以来の親組合的立法である。

 マイアミのAFL-CIO執行評議会で士気が高揚していたのはアメリカの組
合幹部だけではなかった。欧州労連書記長ジョン・モンクスは、「ヨーロッパと
アメリカの労動運動は蘇えりつつあり、われわれの考え方が脚光を浴び、真剣に
取り上げられている」と述べた。レーガンとサッチャーの登場以来始まった組合
員と組合の影響力の後退が不可避的と見られたことが今や逆転した、とモンクス
はみている。

 「組合が寒風に晒されてきたアメリカで潜在的な可能性が最も大きくなってい
る。ヨーロッパでもあらゆる論者や政治家が今や社会民主主義者とか、社会主義
者と名乗り出しており、われわれは追い風を受けている」(モンクス)

 2005年にAFL・CIOが分裂したが、この醜い争いも終結に向かってお
り、遠からず組織的統一が回復されそうだ。1950年代半ばの35%から現在
の8%に低下していたアメリカの組織率が上昇に転ずる兆しを既に見せている。

 ノーベル経済学賞受賞者のケネス・アロー、ロバート・ソロー、ジョセフ・ス
ティグリッツをはじめとする、指導的なエコノミスト40人が連名で「従業員自
由選択法」を支持する声明をワシントン・ポスト紙に発表した。

               (評者は姫路獨協大学名誉教授)

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