■ 農業は死の床か。再生の時か。        濱田 幸生

~日本の野菜は高いのか?第2回 ジャパン・スペック~

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 前回で、日本の野菜が高いとすれば、それは煩雑な流通にあるのかもしれない
と書きました。
  では、なぜ、そのように複雑な流通になるのかを考えてみましょう。
  その理由は、実は日本人の極端なまでのキレイ好きにあるのではないかという
ことを考えてみます。

 葉に穴ひとつあればクレーム、傷があれば返品、量販店にかぎらず、生協で
も日常的に繰り返される風習です。その都度、頭を下げて返金、クレーム処理で
す。まったく品質に関係のない見てくれだけで日本の消費者は大騒ぎをするため
、流通が農産物規格を厳しくチェックする必要が生まれたのです。
  だから、日本には、世界一煩雑で精緻な農産物規格が存在します。ごぼうなど
は10種類ちかくあってごぼう鑑定士が村にいるほどです(笑)。葉物なら、丈は
30センチまで、葉に穴があってはならない、大根は大きさはここまで、肌がツ
ルツル虫喰いひとつあってもいけない。

 ホウレンソウでは穴(食痕)の直径まで規定されているのです。たかだか、葉
の穴が大きい小さい、ゴマの色の違う粒が数粒あったたということが、どんな食
卓に影響を与えるというのでしょう!くだらない!このような日本の消費者の過
度な清潔癖が日本の農産物をダメにしているのです。もうあの膨大な規格表をお
見せしたいくらいですね。味や栽培方法といった本質的なことはまったく違う次
元で「規格」という首かせがガチンと締まるのが日本の農産物です。これに農家
や流通の労苦と時間が注がれ、価格を押し上げている大きな原因となっています

  実際農家は畑にいるより、納屋で選別している時間のほうが長いと揶揄されて
いるほどです。すこしくらい安かろうと、あのチマチマとした選別作業はしたく
ないというのが、農家の本音なのです。

 これが世界でもっとも悪名高い「ジャパン・スペック」(規格)というやつで
す。これは農産品以外にも海産物、畜産物などすべての食品を覆っています。中
国のゴマ加工工場で、ピンセットで一粒一粒色が違う粒を摘まみだしていたとい
うビックリ仰天な光景もあるそうです。こんなことで価格を押し上げ、農家や加
工業を苦しめてなんの意味があるのでしょう。その分しっかりコストは乗ります
。つまり消費者にとっても高いものを買うはめになるのです。
 このような消費者の清潔癖のために農産品や水産品が高くなったとして、そ
れが第1次生産者と流通のみを責めるのはお門違いだと思います。消費者の意識
構造が変わらない限り、日本の食品は永久に「高い」と言われつづけるでしょう

  少しずつですが、消費者の意識も変わってきています。葉に穴があるのは初
めは気持が悪いし、嫌でしょうが、理由がわかれば納得できますでしょう。

 食育教室や野菜ソムリエなどの動きの中で少しずつ消費者も「キレイで安いこ
とだけがいい」という平板な見方から変化をし始めてきました。ほんとうに素晴
らしいことです。このような「眼」が育ち、農と消費者とのつながりが強まらな
いところで、高い安いを言うこと自体がおかしいことに気がつき始めたのです。
  高くて良質の国内産か、安いが危ない輸入ものかという二者択一ではなく、第
3の道が拓けてきたのです。地域の中で地場農業と組んで、良くて安い、しかも
顔が見える農産物を得る道が拡がってきつつあります。この道をもっと拡げて、
踏み固めていきたいですね。私は外国に日本の農産物を輸出するなどということ
より、この地域内での農産物の動きを活発にしていくほうがより素晴らしいこと
だと思っています。
               (筆者は茨城県有機農業推進フォ-ラム代表)

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