■A Voice from Okinawa(12) 吉田 健正
-日米同盟の「基軸」を首都・東京に移して日本を守ろう-
───────────────────────────────────
誰が考えても、首都・東京しかないだろう。
何せ、国民のほぼ1割が集中し、政治・経済・通信・交通・学術・文化の中心
地である。皇居や靖国神社、明治神宮もある。NHKをはじめ、日本を代表する
マスコミも本社を構えている。「敵」が日本を狙うとすれば、まず東京だろう。
東京を破壊すれば、日本を敗北させることは目に見えている。これでは日米同盟
は意味をなさない。
日本の象徴とも言うべき東京を、二千キロも離れた沖縄から警備・防衛させる、
というのは無茶な話だ。警備員を金庫や重要資料のつまった、社長以下の幹部
が勤める本社ビルから、わざわざ海の向こうの遠いところに駐在させるようなも
のではないか。これでは、防犯カメラも無用の長物になってしまい、本社で何が
起こっても、あまり防犯には役に立たない。交番や消防署も、近いところにある
方が安心できる。
■頼りになるのは米海兵隊
ポール・ジアラ元国防総省日本部長によると、「日本に駐留する米軍人は、日
本防衛のために死ぬ覚悟がある」、と太平洋海兵隊司令官のキース・スタルダー
中将が語ったという("Special to the Asahi Shimbun," Asahi.com, 2010/3/5、
日本語の要約は2 月25 日付け朝日新聞の「私の視点」に掲載されたジアラ氏
の寄稿文「沖縄の海兵隊」)。
ジアラ氏は、「海兵隊は世界で最も能力の高い戦闘部隊」で、「日本でのプレ
ゼンスは北朝鮮を含む『敵』に、攻撃を躊躇させる抑止力になっている」から、
沖縄に駐留し続けなくてはならない」と、海兵隊の「抑止力」も強調している。
日本の軍事専門家や政治家たちも、在日米軍の「抑止力」を重視する。ところが、
日本のために命をかけるという在日米軍の64%、海兵隊に至っては86%が南端
の沖縄に駐留しているのである。本土では、海兵隊は東京から遠い岩国と富士演
習場で訓練しているだけだ。
これでは、せっかく日本防衛のために命をかけるという米軍が、全国人口の1
割を占める日本の政治・経済・文化の中心・東京を守る防衛力、あるいは首都攻
撃に対する抑止力にはならない。
日米同盟のために日本を防衛するというのであれば、米軍は中国や北朝鮮に近
い東京または東京近郊に大挙駐留しなければならないはずだが、東京駐留の米軍
は少なく、米軍も日本の専門家・政治家たちも、ひたすら沖縄の「戦略的優位性」
を強調して、米軍、とりわけ海兵隊は沖縄に駐留する必要がある、と述べるのみだ。
■中国・北朝鮮から日本防衛するには東京に米海兵隊駐留を
6月に首相に就任した菅直人氏によれば、「日米同盟は、日本の防衛のみなら
ず、アジア太平洋の安定と繁栄を支える国際的な共有財産」だという。鳩山前首
相も同様のことを述べていた。軍事専門家、評論家、政治家、主要メディアも日
米同盟を後生大事にする。
日米同盟が日本やアジアの安全保障(安定と繁栄)のためにそれほど重要であ
るならば、まず日本の中心である首都に軸をすえるべきであろう。そうすれば、
中国や北朝鮮が日本に攻撃を仕掛ける恐れは消え、日本の安全は確保される。海
兵隊だけでなく、沖縄に駐留する空軍、海軍、陸軍も東京やその周辺に移せば、
済む話である。
東京の方が、沖縄より中国や北朝鮮に近く、沖縄に駐留する米国の空軍も海兵
隊も海軍も陸軍も東京に移ってもらった方が中国や北朝鮮の脅威に対する「抑止
力」になり、ほんとうに中国や北朝鮮が日本攻撃をしかけた場合でも、日本防衛
に役立つはずだ。
しかし、「戦略論」や「抑止力論」の立場から、日本の国防のためには日米軍
事同盟は死守すべきだ、自衛隊は憲法9条にしばられ、また大した能力もないか
ら、在日米軍は不可欠だと主張する軍事専門家や政治家や評論家は多いのに、な
ぜか、東京やその近郊での米軍駐留を支持する声は聞かれない。北朝鮮が韓国哨
戒艦を沈没させて挑発行為にでたなどの警戒発言が続く中で、メディアで紹介さ
れるのは、普天間海兵隊航空基地も他の米海兵隊も沖縄に駐留すべきだ、北朝鮮
の脅威や台湾海峡での有事に対しても、それが「敵」の行動を抑制し、紛争を回
避する「抑止力」になるという意見の方が圧倒的に多い。
米軍に「日本」を防衛してもらうのは構わないが、「首都」を外国軍に防衛し
てもらうのは日本の尊厳にかかわるとでもいうのだろうか。東京から遠く離れ、
人口140万の沖縄(東京は約1300万人)の方が、中国や北朝鮮から日本を守る基
軸になるというのは、米国防衛には首都ワシントンおよびその周辺の軍事基地よ
り、ハワイやアラスカの基地が重要というのと似て、かなりあやしい。
■米首都と比べて手薄な東京防衛網
ちなみに、インターネットでワシントンD.C.周辺の基地を調べると、東京都の
およそ10分の1の面積しかない首都にボーリング空軍基地、ワシントン海軍造船
所、海兵隊兵舎、フォート・マクネア陸軍基地が位置する。国防総省のほか、国
境警備隊・シークレットサービス(秘密検察局)・ 沿岸警備隊・原子力事故対
応チーム・国家通信システムなどを擁するアメリカ国土安全保障省もある。首都
はさらに、バージニア州の5つの陸軍基地、6つの海軍・海兵基地、ラングリー
空軍基地、複数の沿岸警備隊基地、メリーランド州の4つの陸軍基地、2つの海
軍・海兵隊基地、巨大なアンドリュ-ス空軍基地、ノースカロライナ州の2つの
陸軍基地、4つの海軍・海兵隊基地、2つの空軍基地、2つの沿岸警備隊基地…
…などに囲まれている。
東京や周辺にも、練馬、市谷、新宿、府中、立川、厚木、百里、霞ヶ浦などに
自衛隊基地がおかれているが、上記の軍事専門家、政治家、評論家の自衛隊に対
する評価はきわめて低い。そこで、頼りは米軍基地ということになろう。しかも、
首都機能だけしか果たしていないワシントンと違い、東京は経済・通信・交通
・学術・文化など、日本のありとあらゆるものの中核であり、人口もワシントン
と比べものにならないほど多い。
ところが、米軍占有基地は沖縄の229平方キロ(全国の73.94%)に対し、東京
都はわずか13平方キロ(4.26%)、近辺の神奈川県は18平方キロ(5.86%)、千
葉県は2平方キロ(0.68%)、埼玉県も2平方キロ(0.66%)しかない(防衛省
「在日米軍施設・区域の状況」平成22年1月1日現在)。基地の規模も、東京の横
田飛行場は7平方キロ、硫黄島通信所は7平方キロ弱、千葉県の木更津飛行場は
2平方キロ、神奈川の厚木飛行場は5平方キロ、池子住宅地区及び海軍補助施設
は3平方キロ弱、横須賀海軍施設は2平方キロ強。沖縄の北部訓練場(78平方キ
ロ)、キャンプ・ハンセン海兵隊演習場(51平方キロ)、嘉手納弾薬庫地区(27
平方キロ弱)、キャンプ・シュワブ海兵隊演習場(21平方キロ弱)、嘉手納空軍
基地(20平方キロ弱)とは、まるで比較にならない。
要所は新宿御苑から日比谷公園の一帯、近隣で揚陸、市街戦訓練……
東京そして日本を防衛する海兵隊基地の具体的な場所は、日比谷公園か新宿御
苑がいいだろう。日比谷公園なら、皇居、国会議事堂、首相官邸、最高裁判所、
外務省などの官庁、大手町、東京駅、東京港、銀座といった日本の「中枢」を守
るだけでなく、公園内から平和集会を排除することもできる。
しかし、16,881人(国防総省、2009年9月末)の在日海兵隊が駐留するには、
日比谷公園だけでは足りない。新宿御苑から国立競技場近辺をへて日比谷公園ま
で米海兵隊基地にすれば、市ヶ谷の防衛省と一体化できるし、靖国神社、明治神
宮、赤坂御用地、迎賓館も直接防衛責任地域(AOR)に組み込める。
ただし、「海兵空地任務部隊」として知られる海兵隊が揚陸、航空、砲撃・射
撃、歩兵訓練を行うだけの広さはないので、東京に近い江ノ島や九十九里浜を揚
陸演習場に、利用便が減っている空港を飛行訓練基地に、少し離れた近隣を射撃
訓練、歩兵訓練、車両訓練、救援訓練、市街戦〈都市型戦闘〉訓練などの演習場
にしたらよい。
海兵隊は東京に駐留するだけでなく、訓練のため日本各地を往来して、日本人
とその暮らしに触れ、日本防衛の責任を痛感する。一方で、日米軍事同盟を支持
する多くの日本国民は、日本防衛のために米国を離れて駐留してくれる海兵隊の
演習やその他の活動に接して、同盟の有難さを実感する。
在日海兵隊を都内に駐留させることにより、海兵隊員とおよそ1万人の扶養家
族も都内に住まわせれば、海兵隊が沖縄で「よき隣人」としてやっているような
英会話講習や老人ホーム訪問などを通じて、都民の「国際交流」にも役立つだろ
う。地震や津波、大火災などの災害救援にもかけつけてもらえるはずだ。東京は
海兵隊員と家族の休養や娯楽の場所としても困らない。駐留による経済効果も大
きい。
こんなにいいことづくめなのに、なぜ海兵隊を沖縄から東京に移駐させないの
だろうか。
(沖縄在住・元桜美林大学教授)
目次へ