■A Voice from Okinawa (9)            吉田 健正

-「日米同盟」から「米軍駐留なき友好関係」へ-

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 鳩山首相は、3月22日、防衛大学校(横須賀市)の卒業式で、「日米同盟を
基軸とする方針は、鳩山内閣でも揺るぎなく継続していく」と訓辞したという。
現時点(3月末)では、「主体的な外交戦略を構築し、日本の主張を明確」にし
て、「日米両国の対等な」相互信頼関係を築くことも、「新時代の日米同盟を確
立」することも、あきらめたらしい。沖縄が大きな期待を寄せていた、「日米地
位協定の改訂を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方等についても引き続き
見直しを進めます」という公約も、期待外れに終わりそうだ。

 自民党と米国が60年にわたって構築した壁がそれほど強固だったのか、それと
も民主党政権も結局は自民党政権と変わりなかったのか。ちなみに、谷垣自民党
総裁は、3月31日の党首会談で、鳩山首相が対米交渉に失敗すれば「日米関係の
信頼性を徹底的に失う」と述べたが、沖縄の現状を作ったのが米国に「ノー」と
言えなかった(言わなかった)歴代の自民党政権であったことをすっかり忘れて
いるようだ。

 議論の裏では、在日米軍がいなければ(脅威→中国と北朝鮮?)に対する抑止
力が崩れ、日本は自己防衛できなくなる、という米側の恫喝(「助言?」)と、
それに乗る岡田外相や北沢外相らの賛同めいた発言と発想変わらずの現状維持(
「米軍基地は沖縄」)思考がある。併せて考えると、日本は「同盟」のもと、今
後も米国の国際戦略の強いパートナーであり続けるということだ。一方で貿易・
投資・観光・文化交流を柱とする「友好関係」が深まってきた中国などを「脅威
視」「敵対視」する、矛盾した外交である。


■「抑止力」の詭弁


  鳩山首相や岡田外相によれば、どうやら日米関係は米軍基地駐留によって支え
られる対米防衛依存によって成り立っているらしい。「日米同盟を基軸とする方
針」と、「主体的な外交戦略を構築し、日本の主張を明確」にして、「日米両国
の対等な」相互信頼関係を築くことは、両立しない。在日米軍(基地)を「抑止
力」とする日米軍事同盟が、「主体的な外交戦略」や「対等な相互関係」につな
がるはずはないからだ。

 朝日新聞(英語版、3月5日)が海兵隊普天間航空隊を「敵」から日本を防衛
するための「抑止力」だと位置づけるジアラ元国防総省日本部長の文章を載せて
いたが、偵察衛星で地上の車両の動きまで監視し、世界中に超高度無人偵察機、
ステルス戦略爆撃機、長距離爆撃機、空中給油機、大型輸送機を備える強力な空
軍、原子力潜水艦、高速原子力空母、高速強襲揚陸艦などを有する海軍、攻撃ラ
イフルや機関銃を備えた多くの歩兵部隊、機甲部隊、空挺部隊、特殊部隊などの
強大な部隊に加えて長距離弾道ミサイルなどを擁する陸軍を配備する軍事超大国
で、世界最大の核保有国でもある米国は、中国や北朝鮮やロシアに「脅威」を与
える存在であり、その国が改めて「抑止力」を云々するのは笑い話にほかならな
い。
 
しかも、米国は多くの国と同盟関係(アライアンス)を結んでおり、ヨーロッ
パ諸国であれ、オーストラリアであれ、タイであれ、シンガポールであれ、フィ
リピンであれ、韓国であれ、防衛の義務を負っているという。条約の条文がどう
であれ、これらの諸国が軍事超大国の米国を軍事的に守る必要はない。もちろん、
米国に外国の軍事基地はひとつもない。

 日本が始めた「米軍駐留経費」(国防総省によれば「接受国支援金」または「
共同防衛に対する同盟国拠出金」は、いまでは多くの国に広がっているが、日本
は相変わらず群を抜いて多い。国防総省統計によれば、2003年の負担率はドイツ
32.6%、イタリア41%、北朝鮮および中国と接する韓国40%に対して、海に囲ま
れ、(米軍駐留を除いて)直接的な脅威を受ける理由も少ないはずの日本は74.5
%だ。在日米軍の駐留経費の4分の3を日本が負担しているのである。これでは、
在日米軍は「日本軍」の一部と呼ぶべきであろう。

 ところが3月28日付け米軍準機関紙「星条旗」に、「防衛省によれば」とし
て、国会が今月24日、21億ドル(1869億円)の思いやり予算を承認したという記
事が載っているのに、インターネットで調べた限り、日本のメディアでは報道さ
れなかった。


■「沖縄県民には申し訳ないが……」


 早房長治(地球市民ジャーナリスト工房代表)が、弱体化するオバマ政権相手
の「普天間」決着は困難、鳩山政権は「県内プラス負担軽減」で沖縄説得を」(
ネットサイト「リベラル21」2010.03.22)で、「鳩山政権にとって、ワシントン
と沖縄の両方とも納得させる解決案はありえないであろう。どちらかを選択する
とすれば、国益上、ワシントンを選ぶべきではないだろうか。沖縄県民にはまこ
とに申し訳ないが、国益を考えれば、沖縄の利害より国全体の安全保障の方が重
要であることは自明である」であると書いている。

 しかし、ここには「国益」や「国全体の安全保障」の現在的・将来的意味
も、なぜ「「自明」かの説明もない。

単なる現状維持論に過ぎない。沖縄戦終了後65年、安保改定から50年、冷戦終
結後20年が経過した、世界も軍事対立から貿易・投資に重点を移したというのに、
相変わらずの冷戦思考であり、「沖縄県民より安保を」というのは、沖縄戦に
おける「沖縄=捨て石論」さえ想起させる。米国(安保)への「思いやり」はあ
っても、「同胞」のはずの沖縄県民への「思いやり」はない。日本のどこも米軍
基地を受け入れないからという理由で、基地を沖縄に置くのではなく、それなら
国民の意思に従って日本全国から米軍基地を撤去すべきだという思考に切り変
えるべきであろう。

 米国は、防衛費の上昇を抑えるとともに、米軍の構成や機能を時代の流れに合
わせるため、1960年代以来、維持・運用費削減のため国内基地の整理縮小(BRAC)
に取り組んできた。冷戦終結後は、その勢いがさらに高まっている。米国が軍
事的要衝としてきたグアム、ハワイ、プエルトリコも例外ではない。米国領外で
も、フィリピン、韓国、イタリア、英国、ドイツなどで「トランスフォメーショ
ン」(軍事再編)が行われてきた。米国政府の都合(経費削減、戦略見直し)だ
けでなく、周辺危機の減少・消滅、地元の要求……と理由はいろいろだが、多く
の場合、基地閉鎖は決定から2年以内で実行されている。

なぜか日本では、周辺の脅威が過大に誇張され、基地を抱える地域住民の反発
をよそに地位協定によって米軍を特別扱いし、多額の「思いやり予算」までつ
けているが、そろそろ米国との「対等な関係」および近隣諸国との「友好的な
関係」を両立させる道を探るべきである。
 
そのためには、「国民の声」を汲み取って、在日米軍の「常時駐留なき安全保
障」構想(鳩山首相)や軍事優先ではない「米軍駐留なき日米友好関係」を推進
すべきであろう。それこそが、「沖縄問題」の解決や地域の平和にもつながる。

       (筆者は沖縄在住・元AP通信記者・元桜美林大学教授)

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