【私の視点】

2014年総選挙の結果をどう見るか

仲井 富


  安倍が仕掛けた「桶狭間」選挙
  勝利したのは自公政権と沖縄・共産・無党派層は棄権と分散化

◆はじめに

 総選挙は予想通り、自公政権側の圧勝に終わった。沖縄での建白書勢力の翁長知事当選を勝ち取った保革連合候補が4つの選挙区で全勝した以外は、民主党を先頭とする野党各派は、敗北した。民主党は前途に希望の持てない政党になった。これで010年菅元首相の消費税抱き着き発言での参院選敗北に始り、同じく菅元首相の下で011年地方選挙でも完敗。さらに012年野田元首相の自公民三党協議による総選挙で歴史的惨敗。海江田党首による013年参院選では、東京、大阪、京都都議席ゼロ、23の一人区で当選ゼロという結党以来の最低得票で惨敗。そして同じく014年総選挙での敗北と5連敗だ。

 5年連続の全国的選挙でことごとく敗北したことの原因はどこにあるのかを問わねばならない。しかし民主党周辺の御用学者、評論家などを含めて、民主党全体に根本的に敗因を問い総括する姿勢はない。彼らの頭は民主党指導者と同じで「ともかく政権に入ったことだけで満足」という事だ。後は野となれ山となれという脳天気さである。菅政権の総務相だった片山善博慶大教授が言った。「民主党政権は消費税は上げないと約束しながら、5%値上げは大義だと言った。そういう有権者に対する大うそを平気でついたことを謝罪することからはじめなければならない。然し私の見るところ、民主党議員全体に、そういうことに平然としている脳天気さがある」と指摘した(世界013年2月号)。まさに民主党議員から末端に至るまで、この能天気さが支配しているのだ。

 戦後70年の政治史の中で、数少ない政権担当時代、1948年の片山連立政権、93年の細川連立政権、94年の村山連立政権、そして09年の民主党連立政権と数少ないチャンスがあった。これをことごとく潰した原因はなにか。唯一、米軍占領下における48年の片山連立政権は失敗したが、その後、総評勢力をバックにした護憲三分の一確保を至上命題として次の選挙から社会党革新勢力の復活があっただけである。細川連立政権は小沢の消費税に代る国民福祉税構想で分裂、自社さ連立政権を許した。

 以降、自民党との連立政権を組んだ政党は、ことごとく自滅した。日本社会党は党是を放棄して、安保自衛隊合憲を宣言し、自民党政権の復活に協力した。加えて久保旦蔵相、土井たか子議長の下で、消費税値上げまで行って消滅した。99年、自自連立政権から自自公連立政権を組んだ小沢自由党も、自民党政権の補強に手を貸しただけで分裂。そして民主党連立政権も、沖縄辺野古基地移設問題での背信によって社民党が離脱。以降の民主は自公民三党協議での消費税値上げで、完全に有権者の支持を失った。

 うわばみのような自民党と連立を組んで生き残っているのは99年10月以降、連立政権を続けている公明党ただ一党だ。公明党という宗教政党はじつに逞しく連立政権の中で利益の分配に預かりながら生き延びている。この逞しさに比べれば、政権を取っただけで一丁上がりの社会、社民、さきがけ、自由、民主などの政党は歴史的には、自民一党支配継続のための小道具にすぎなかったと言えよう。

◆強者がしかけた奇襲攻撃 民主の対抗軸なき選挙での敗北

 12月14日投開票の総選挙は、多くのマスコミの予測通り、安倍自公政権の勝利に終わった。野党側は「大義なき解散」とか批判したが、準備不足を衝かれて散を乱して敗走したというところだった。本来総選挙は政治権力闘争の延長線上にあり、野党の間隙を衝いた安倍の「勝負勘」が勝っていた。その結果、新人議員130人のほとんどが生き残った。

 05年の小泉郵政選挙で反対派への刺客として当選した80人の新人議員が09年の民主大勝の選挙では8人しか生き残れなかった。その当時、当選した民主の新人議員140人は、鳩山、菅、野田の3人の首相のマニフェスト裏切りによって10人も残れなかった。それに引きかえ、前回当選の自民新人議員130人は、ほぼすべて生き残った。野党などには、自民は3人減ったなどと喧伝する向きもあるが、それは当たらない。自民は低投票率の中で比例区票を前回012年の1,660万票(27.6%)から1,766万票(33.1%)に増やした。

 それにひきかえ他の野党は維新は、得票、得票率とも大きく低下した。民主は得票率は2%余りとやや上昇したが、到底上向きとは言えない結果だ。海江田党首にも、明確な対抗軸を示す姿勢はなかった。直前の沖縄県知事選挙で、保革共闘の翁長知事が勝利しているのに、外交防衛問題の見地だけでなく、民主主義の原点である民意尊重の一言もなかった。石原慎太郎の次世代の党は、石原の「公明つぶし」意向を受けて、都知事選挙で名を上げた田母神俊雄を東京12区の公明太田昭宏にぶつけたが、結果は次点共産池内沙織(比例復活)、生活青木愛に次ぐ最下位で落選した。安倍政権の右翼的シフトが、次世代の古びた石原慎太郎的右翼党派の存在を奪ったともいえる。以下は今回の総選挙における党派別得票と得票率だ。(( )内は012年の得票と得票率)

◆014年総選挙比例代表党派別得票と得票率  総投票数 53,331,719票

 1.自民 17,657,907票 33.1% (16,624,457票 27.6%)
 2.民主  9,775,793票 18.3% ( 9,628,653票 15.9%)
 3.維新  8,382,034票 15.7% ( 1,226,228票 20.3%)
 4.公明  7,314,182票 13.8% ( 7,116,474票 11.8%)
 5.共産  6,063,871票 11.4% ( 3,689,159票  6.1%)
 6.次世代 1,413,382票  2.7% ( — )
 7.社民  1,314,385票  2.5% ( 1,420,790票  2.3%)

◆沖縄における建白書勢力の勝利と共産党の位置

 もう一つの勝者は共産党と沖縄の辺野古移設反対野党、社民、生活、保守の統一闘争の勝利だろう。共産党の議席倍増の予測は当初からマスコミ世論調査でも伝えられていたが、私は、沖縄1区の赤嶺公認候補は苦戦するだろうと予測した。何しろ共産党公認を自民党を離れた保守の建白書グループが推すのだから感覚的に無理がある。

 また1区には、県知事選で「辺野古問題は、県民投票での決着」をスローガンに出馬落選した県内保守政治家屈指の策師である下地が出馬した。今度は橋下維新党首と出馬会見を行い「普天間は県外移設が県民世論だ」として、赤嶺と同じ姿勢で立候補した。だが赤嶺は僅差で自民党現役を押さえて当選した。共産党は、他の3選挙区については候補者を取り下げ、沖縄2区、3区、4区は社民、生活、保守無所属を推薦し勝利に全力を上げた。翁長勝利の余韻がのこるなかで、建白書を実現するための保革共闘がうまく行ったのが最大の勝因だ。

 共産党は、全国的にも比例区得票を伸ばした。前回012年12月選挙では、維新、みんななど新興勢力の後塵を拝したが、今回は原発、沖縄、護憲など明確な方向を出した共産に、安倍自民に危機感を持つ民主支持者や無党派が投票した。私の身近な友人、知人の多くが「他にないから共産に入れた」という。比例区得票で見ても伸び率としては012年の総選挙369万票(6.1%)に対して今回は606万票(11.4%)とほぼ倍増した。

 とくに沖縄1区で翁長支持勢力の統一候補として唯一の選挙区当選を果した。ちなみに沖縄における比例区得票数及び得票率は以下の通り。この数字を各党の全国平均得票率から見ると、自民は全国平均33.11%だが、沖縄は全国最低の得票率だ。公明は全国平均13.71%よりやや高い。社民は全国平均2.46%だからダントツに高いことがわかる。共産は全国平均11.37%だが、それより高くなっているし、012年に比べて得票、得票率とも伸び率が一番高い。比べて維新が減少し、民主は前回惨敗時と変わらず、全国平均の18.3%に遥かに及ばない。

◆014年と012年における総選挙沖縄選挙区比例区得票と得票率

014年             012年
 自民 141,447(25.36%)    124,149(21.0%)
 公明  88,626(15.89%)    103,720(17.5%)
 社民  81,705(14.65%)    78,679(13.3%)
 共産  79,711(14.29%)    49,611( 8.4%)
 維新  77,262(13.85%)    96,490(16.3%)
 民主  49,665( 8.91%)    49,033( 8.3%)

◆民主は東京・大阪で再度の敗北 国政選挙4連敗の総括なし

 12月総選挙の最大の敗者は、現行憲法を廃棄し自主憲法制定を党是とする、次世代の党である。引退する石原の末路を飾るにふさわしく、現職19人のうち当選者は2人という惨敗だった。維新の党は41議席を40議席としたが、昨年の堺市長選挙での敗北に続くもので、橋下は代表の辞任によって、大阪都構想実現の府民投票運動に全力を上げることになった。

 民主は解散時の議席を11議席上回る71議席を獲得したが、比例区得票で前回の012年と比較すると963万票(15.9%)から976万票(18.3%)と微増にすぎない。比例区得票の伸びは主として北海道の20万票余、東海地区の20万票弱の伸びによっても支えられたものだ。民主党の復調はならずと思わせるのは、東京選挙区と大阪選挙区の低迷である。東京では前回012年の101万票から94万票へ、大阪では前回38万票から29万票へと減少している。東京では25選挙区で当選者1名、比例区3名、大阪府では19選挙区で当選者1名、比例区1名という惨憺たる敗北である。

 東京で共産は前回48万票から89万票へ、大阪では前回32万票から45万票へ、京都では前回の14万票から19万票へと確実に比例区票を伸ばしている。見逃せないのが大阪市の比例区開票結果だ。維新凋落というが、大阪市では依然第一党だ。公明党の協力を得て大阪都構想についての住民投票を推進する構えだ。これを自民、共産、民主が阻めるか興味深い。民主は大阪市では全く独自候補を立てられず、過去最低の比例区得票だった。

◆大阪市選管 比例開票結果

2013 参院
 維新 320,110 自民 255,095 公明 211,568 共産 140,507 民主 69,295
2014 衆院
 維新 331,343 自民 230,797 公明 183,442 共産 140,410 民主 65,479

◆野党魅力なく無党派層は棄権と各党に分散 マスコミ出口調査結果

 朝日新聞などの12月総選挙の出口調査では、以下のような結果が出ている。

「野党、魅力なし」72% 衆院選、自民が大勝の理由 朝日新聞社世論調査
 衆院選の結果を受けて、朝日新聞社は15、16日に全国世論調査(電話)を実施した。自民が290議席を獲得し、大勝した理由として「安倍首相の政策が評価されたから」を選んだ人は11%にとどまったのに対し、「野党に魅力がなかったから」を選んだ人は72%にのぼった。今後、首相が進める政策については「期待の方が大きい」は31%で、「不安の方が大きい」の52%が上回った。自民、公明の与党が合わせて3分の2を超える325議席を得たことについては59%が「多すぎる」と答え、「ちょうどよい」21%、だった。

◆分散した無党派層の投票動向

 朝日新聞の衆院選・出口調査分析(朝日新聞デジタル 014年12月15日)によると、自民が単独で過半数を占めたのは、支持層を増やしたことに加えて、無党派層を取り込んだのが大きな要因だった。自民は今回、特に比例区で議席を伸ばしている。朝日新聞社の14日の出口調査によると、自民支持層は40%に上り、前回の30%から増やした。支持層の71%が比例区で自民に投票した。さらに、20%にあたる無党派層のうち、22%が比例区で自民に投票。自民は前回の政権復帰時でさえ19%で、維新の28%に大きく引き離されていた。維新は前回を下回る22%だった。

◆終わりに

 原発反対運動を唯一のよりどころとして「原発反対世論は過半数、野党がまとまれば勝てる」というのが菅直人、小沢一郎らの東京都知事選後の所論だが、選挙の実積には全く結びついていない。もっとも原発反対運動が盛んに見える東京、大阪で勢いをつけているのが共産党で、民主は低迷を極めている。「原発ゼロ」を看板にし続けている菅直人元首相の選挙区での2連敗や生活の党消滅がその象徴だ。元首相が、選挙区に貼りついてどぶ板選挙をやりながら、2度も落選するという姿は憲政史上例を見ない。なぜそうなったのかという根本的な反省や総括が、菅、小沢ら民主党の過去の指導者には全く見られない。

 最大の有権者を有する東京と大阪の選挙区で、二度三度、民主が敗北した原因を徹底的に追究しなければ、民主党の政権政党としての復権はあり得ない。民主党政権下における三大汚点の普天間基地県外国外移設の破棄、消費税増税への自公抱き付き、原発再稼働と大間原発などの工事再開などによる敗北の責任をだれも取ろうとしなかった。東京新聞が選挙後の社説で要旨以下のように論じているが正鵠を得た指摘だ。

◆民主はマニフェスト裏切りの消費税増税などの反省を 東京新聞014・12・16

 —野党第1党の党首が落選したのは、1996年に小選挙区制が発足してから初めてだ。さかのぼっても1949年衆院選の片山哲社会党委員長以来だ。民主党はどこまで政権担当時の「失政」を反省したのか。決定的に欠けていることがある。09年衆院選マニフェスト(政権公約)に反して消費税増税を決めたことへの反省だ。この裏切りが民主党への忌避感を増大させたことは否定できない。民意を顧みない増税決定を猛省することこそ、党再生の第一歩だ。原発エネルギー政策について、「2030年代原発稼働ゼロに向け、あらゆる政策資源を投入する」と公約したが、今回の衆院選では労組支援をうけるため「原子力の平和利用推進」を明記した政策協定を結んだ候補者がいることも本紙の調査でわかった。いくら票集めとはいえ、原発ゼロを目指すつもりがあるのか、疑ってしまう。集団的自衛権も、閣議決定の撤回を求めるだけで、民主党ならどんな安全保障・外交政策を構築するのか不明だ。(東京新聞014・12・16社説「解党的出直しの機会に」)

 (筆者は公害問題研究会代表)


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