【オルタ広場の視点】

2019年参議院議員選挙の総括

岡田 一郎


 本誌13号(通算185号)に掲載された「統一地方選挙・衆議院補選の総括」において、私は今年の参議院議員選挙は、「投票率は低く、与党の勝利に終わる」と予言した。根拠は、今年が亥年で、統一地方選挙と参議院議員選挙が重なり、地方議員による参議院議員選挙への支持者の動員が自身の選挙疲れにより低調になること、および統一地方選挙において野党が不振だったことである。

 投票率に関しては予想通りであったと言ってよい。投票率は48.8%で、1995年の44.52%に次ぐ低さであった。亥年選挙に加え、有権者を選挙に駆り立てるトピックに欠けた選挙であったことから、この結果はやむを得ないといえるだろう(ちなみに、1995年も亥年である)。

 「与党の勝利」という予言に関しては、半分当たり、半分外れたというべきだろうか。与党は改選議席(77議席)から6議席減らしたが、6年前の参議院議員選挙は民主党政権崩壊直後の選挙であり、現与党が勝ちすぎた選挙だったので、これぐらいの議席減は織り込み済みであろう。ただ、自民党が単独過半数を失ったこと、改憲勢力が3分の2を割ったこと、1人区で野党が前回参議院議員選挙の11議席とほぼ同じ10議席を獲得したことを考慮すると、野党も十分善戦したと評することが出来る。選挙結果は与野党痛み分けといったところだろうか。

 しかし、直近の国政選挙である2017年総選挙と比較すると、今度の参議院議員選挙の違った側面が見えてくる。それは、立憲民主党ブームの終焉である。2017年総選挙において、立憲民主党は比例代表区において約1,100万票を獲得したが、今回の参議院議員選挙では比例代表区における立憲民主党の得票は約790万票にとどまった。
 その原因は、ひとえに立憲民主党が、有権者の心をつかむスローガンや公約作りに失敗したことにある。立憲民主党は今回、「令和デモクラシー」をスローガンに掲げたが、一見しただけでは何を言いたいのかよくわからない文言である。有権者からすれば、「デモクラシー」より「毎日の生活」だと反論したくもなるだろう。同党の政策も抽象的で、有権者のために何を実現してくれるのかよくわからなかった。これでは、日々の生活に追われている有権者の気持ちをつかむことは不可能である。

 代わって、有権者の気持ちをつかんだのが、れいわ新選組とNHKから国民を守る党であった。れいわ新選組の公約はきわめて明快である。「消費税廃止」「奨学金チャラ」「最低賃金1500円」等々生活に追われている人々の頭の中にすっと入る公約である。
 もちろん、れいわ新選組の公約には「実現可能なのか?」「ポピュリズムではないか?」という疑問がわく。2009年総選挙の際、当時の民主党が魅力的な政策をいくつも掲げながら、政権獲得後は、それらのほとんどを実現出来なかったことを我々は知っている。多くの有権者はかつての民主党の二の舞になると、れいわ新選組を見たであろう。しかし、約228万の有権者はそれでもれいわ新選組の公約に賭けたのである。それほど切羽詰まって追い詰められている人々が存在することを我々は忘れてはならない。

 同じことはNHKから国民を守る党にも言える。この党の政見放送を私は見たことがあるが、まるで漫談であり、「まともな有権者でこの党に投票する者が存在するのだろうか」という感想を抱いたが(多くの有権者もそうであろう)、予想に反して1議席を獲得した。それだけNHK受信料を重荷に感じている有権者が多かったということだろうか。さらにいえば、NHKから国民を守る党は、NHK受信料不払いを勧める運動を「地道」におこなっており、NHK受信料に関する人々の相談にも乗っているという。こういう姿勢が有権者の心を打ったのではないだろうか。

 他にこの選挙における勝利者がいるとすれば、それは今回、自民党から比例代表区候補として立候補し、約54万票を獲得した山田太郎候補であろう。山田候補は前回の参議院議員選挙において、新党改革から立候補し約29万票を獲得、落選したものの大きな注目を集めた。私も本誌157号で山田氏の著書の書評を掲載する形で、山田氏について紹介している。
 山田氏の特徴は、表現の自由擁護や子供に対する虐待防止、障がい者の就労支援などの分野で実績をあげ、インターネットを通じて有権者に伝えるという作業を何年にもわたって地道に続けたことである(山田氏は前回の参議院議員選挙落選後も、氏の出来る範囲で上記のような問題に取り組み続けた)。さらに、何か問題が起こった時に与党を批判し留飲を下げて終わりとせず、必ず与党と交渉して、少しでもその政策による悪影響が後世に残らないように努めるという姿勢を貫いたことである。

 このような姿勢は、問題が起こるたびにただ騒ぐだけで、何の問題解決も出来なかった従来の政治家に失望していた、若い有権者の心をつかんだ。多くの若者が山田氏の選挙応援にはせ参じた。山田氏の得票の多くも若い有権者によるものであったと言われている。若者が政治に対して無関心であると何十年も言われ続けているが、若者が関心を持つ政策に地道に取り組み、それを若者のもとに届く形で訴え続ければ、心動かされる若者は多いことを山田氏の大量得票は示している。

 今回の参議院議員選挙の結果は、有権者が真に求める政策を地道に訴える政党や候補者が勝利をおさめるという、何十年前から言い古されている原則を再確認するものであった。裏を返せば、その言い古された原則を実現できていない政党がいかに多いかということである。日本の既成政党の多くは、「選挙前に少し気の利いた事を言えば、有権者は簡単に票を入れる」と心の奥底で有権者を甘く見てはいないだろうか。もし、そのような心持でいるならば、あっという間に新興勢力に足元をすくわれるだろう。

 (小山高専・日本大学・東京成徳大学非常勤講師)

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