【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(15)

バングラデシュ人のお肉屋さん
~Bismallah Halal Food ナズムルさん(2)

坪野 和子


 クリスマスが近づいています。日本ではどんちゃん騒ぎはハロウィンにシフトしてきたので恋人と過ごす日に特化されつつありますね。
 今回も(キリスト教ではなく)イスラム教徒。前回の続きです。バングラデシュ人のハラールのお肉屋さんナズムルさん。

◆ 4.ナズムルさんが日本に住むことになって

 最初に観光で入国し、日本で勉強して、日本に住もうと思ったそうです。ビザを切り替え、専門学校に入学し、それから様々な職業を転々とし、中古車の仕事をしたときはパキスタン人に騙されたり、バングラデシュ人の保証人になったときも騙され、貿易の仕事をしたときは日本の銀行との取引と現地の時間感覚の違いで思い通りにすすめなかったり。現在のお肉屋さんの仕事は、信頼関係に基づく取引ができるから…牛や鶏の供給元の牧場の紹介からはじまり、買っていただくお客様も自分への信頼…だからこの商売に定着したとのことでした。

◆ 5.ハラール認証 おかしいだろ??

 「ウチの肉の処理は完璧、お祈りも血抜きも。この設備…ずいぶん考えたんだよ」といつも衛生的に見えるピカピカの肉処理部屋を指さし自信満々に言っていました。ですが、ある日「ハラールじゃないと悪口を言う人がいた」と怒るというより呆れて言ったのです。認証マークがないと言われたのです。「ムスリムのオレが処理しているんだ。日本人じゃないんだよ」と言い「ハラール認証マークは金儲けだよ」2010年くらいからいくつもの機関ができ、認証マークと証明を出していて、当然、マークをつけませんかと言ってくる団体・機関が来て、必ず断っているそうです。
 「ハラールとハラームは誰が決める?? 決めるのは神さまだよ。人が検査して決めるものではない」と言って。

 昨今、書類申請・面談・検査と…重箱の隅をつつくような手続きをして、実はアルコール分が1%を認めていた団体があった、マレーシアと他国では基準が違う…などという情報が出ていたことを思い出しました。

◆ 6.書き溜めたノート

 ナズムルさんは珍しく私と私の言葉を聞きながら宗教の話ができる友達のひとりです。イスラム教徒の友人や知り合いにありがちなことですが、私を一般的な仏教徒という先入観をもって話をするため「拝んでいるのは仏教じゃない」「イスラムが最も古い普遍的な宗教」と私の話を聞かずにバカにするような言い方をするので、そういう人とは二度と宗教の話をしません。さらにそういう人が後に私が大学院のとき仏教学を専攻していたことを知ると、ドクター・ザキル(インドの比較宗教学者)などもっと研究業績がある人と比べてバカにしようとするのですから。

 ところが、ナズムルさんや人の話を聴こうという態度を持つ人たちは「私の経典は伝統宗教の中で最も新しく、インドがイスラム支配になったころ作られたもの。ヒンドゥー教のタントラもイスラムの天文学・医学も入っていて、とても難しいけれど、すべての教えのいいところが入っているのです」(『時輪タントラ』)という話もきちんと聴いてくださります。
 ナズムルさんは仕事の机の下から200冊くらいあるノートを出し、見せてくださいました。アラビア語のコーランをベンガル語にし、いろいろな注釈や解釈を手書きで書き写しているノートです。日本に来てから書き溜めたとか。もしも私もインドから帰ってきて毎日こういうことをやっていたら、もう少し深い人間になれたかもしれないと考えました。時間と心の余裕があるとき、チベット語で般若心経を詠むくらいですから。

◆ 7.コーランの智慧

 私は転勤してから、パキスタン人生徒たちがわかりやすい話ができるようにするために毎日コーランの一部をチラ見しています。それをやると、私、仏教徒だから…と自分の経典をさらに読みたいという気になります。ナズムルさんが言っていたことは、コーランのここに書いてあることなのねと気づくようになりました。

●嫌っていたら先に進めない
 ナズムルさんと知り合った翌年のことでした。私が息子とインド旅行から帰って数か月後、池袋で「ボイシャキメラ」というバングラデシュのお祭りイベントを開催されていたので、夫とともにカレーとステージを楽しみに…そして懐かしいベンガル語を聞きに…出かけました。1つだけ日本人しか並んでいない食販のお店がありました。バングラデシュ人が並んでいないのです。
 後日その様子をナズムルさんに話し「ここってバングラデシュ人の人達に嫌われているの?」「…嫌われていると思う。本来は食材や中古車の大手だけれど、商売のやりかたが全部自分たちだけが有利になるようにしかやっていないからね。普段彼にいい顔をしている人たちがこういう時に態度にでるんだろうな」「だけど、こういう時だからそれでいい。嫌っていたら先に進めないから、嫌いだという気持ちを捨てて忘れて付き合っていくことが大切なんだ」…コーランの言葉なのでしょうが敢えて言わずに良いことを言ってくださいました。

●許すこと
 「オレは日本に来て何回も騙されたり、イヤなことをされたりしたことがあるけれど、三日たったら許すことにしている。いつまでも怒っていたら、それが憎しみになって自分の心が悪くなっていく。だから許すんだ」
 …あら、これも最近読んだコーランに書いてあった。
 日本人、3回目は許さないのだけどね…。「仏の顔も三度まで」

 ____________________________
  Bismallah Halal Food ビシュマラー・ハラル・フード
  〒270-2241 千葉県松戸市松戸新田24−6−11
  電話)047-382-5400 ナズムルさん携帯)080-5379-7026
  https://www.facebook.com/BismillahHalalFoodJapan/
 ――――――――――――――――――――――――――――

 次回は中国ムスリム(回族)の女性鍼灸師先生。

 (高校日本語講師&専門学校時間講師)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧