【コラム】フォーカス:インド・南アジア(33)

COVID-19状況下の南アジア研究の現状(2020年度)

福永 正明

 2020年3月以後の新型コロナ感染症による感染者数急増のなか2020年度は開始され、再びの「非常事態宣言」発出のなか終了した。
 南アジアにおける現地調査を自らの研究活動の最重要な務めとする私には、南アジア各国など海外はもちろん、国内移動も不可能な期間となった。南アジア研究者としては、誠に「苦痛」な1年度といえる。

 だがコロナ禍により、新たな研究活動として、リモートによる研究会・会議・授業・講演会などが活発になった。すなわち私が所属する、岐阜女子大学(岐阜市)における2科目の集中講義は、いずれも教室対面・リモート併用授業として実施した。
 さらに、国内外の研究会・講演会などへのリモート参加が、日常となり変化した。南アジア地域を含む海外の大学や研究所の南アジア関係討議に参加し、新しい知見を得て、研究成果・意見発表の機会を得ることができた。

 こうしたなかでの考察の新視点は、「コロナ感染拡大とガバナンス」、「コロナ外交の展開」、「連鎖的な民主主義崩壊と権威主義の台頭」、「コロナ後世界の展望」などであろう。
 南アジア各国社会が潜在的に有していた人びとに直結する重大な問題(経済格差、社会階層分化、差別、保健教育など民生部門)が、コロナ感染症という「フィルター」を通して、顕在化したといえる。

 例えば、インド各都市での「ロックダウン(都市封鎖)」は、最底辺居住者である地方貧困地域からの「出稼ぎ労働者家族」を直撃した。ロックダウンのため非正規勤務の工場が閉鎖となり、企業宿舎を追い出され、数百キロを何日も「歩いて実家に帰る家族」の多くの姿は、大国インドの現実を突きつけていた。
 それは、日本で一般に広まる「華やかな経済発展、消費、テクノロジーを看板とするインド」が、依然として「人には脆弱な社会」であることを示したと考えている。
 1970年代から現地言語(ヒンディー語)を用いた社会学的な調査研究、すなわち「社会成層研究」を専攻する者としては、2020年度に現地TVが繰り返し報道した「弱いインド」は痛烈であった。

 一方、連邦議会下院において過半数を有する現インド人民党(BJP)政権は、その支持基盤となる「ヒンドゥー教主義」の高揚を進める。すなわち、2014年成立した現第二次モディー政権の究極目標が、ヒンドゥー教「国教化」であることは明らかでる。
 過去7年間進められてきたさまざまな強権的政策は、少数異教徒、女性、「少数民族集団」など社会的弱者を、圧倒的な政治・経済・治安「力」を用いて押し倒し続けてきたといえる。特に、政権幹部による総人口2割のイスラーム教への排斥、嫌悪、ヘイト言動は、インド社会の破壊を続けている。
 民主主義の基本となる「選挙」により多数を得た勢力が、議会政治、議員内閣制を通じて「権威主義政治を台頭させた」として考察が必要であろう。

 いまインドは、1947年分離独立以来「第二の建国」へ向かうとの認識をもつ私は、インド現状を憂慮する。いまこそ、歴史事実、現実の社会分析、そして政治動向からの総合分析が求められている。
 冷静に、しかし、人びとの視線を大切にしながら、そして、ごく普通の人びとの暮らしを見つめ研究活動を続け、新たな考察を得た意義深い年度であった。
 コロナ禍が次段階となり、南アジアを訪れることを2021年度目標としている。

<2021年度 近刊予定>
・福永正明
「第Ⅳ部17 対インド援助―大国化と人々のための援助」
「コラム6 ナルマダ・ダム」
『日本の国際協力』(編著者:重田、太田、福島、藤田)、2021年6月(予定)。

・福永正明
「第2部 核開発と軍備の現状と課題 第3章「インド・パキスタンの核」
『アジアの平和とガバナンス』、2021年予定。

 (大学教員)

※本稿は、岐阜女子大学南アジア研究センター紀要『南アジア・アフェアーズ』第17号(2021年3月)掲載の「報告」について、加筆修正したものである(筆者)。
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