ミャンマー通信(27)

ミャンマー通信(27)

ミャンマー社会の過酷な一面
—ヤンゴンの清掃労働者の暮らしと仕事—

中嶋 滋


●経済ブームの陰に

 経済自由化政策が進展する中で、多くのホテルやコンドミニアムの建設ラッシュが続いています。道路や下水道の工事も市内のあちらこちらで行なわれていて、急激に増えた車による交通渋滞も日常茶飯事となっています。ヤンゴンでは、ある種の活気が溢れバブル期特有の高揚感が漂っているように思えます。その陰に、取り残されたかのように過酷な条件で働き暮らしている人々がいます。ヤンゴンの清掃労働者は、その典型といえます。
 清掃労働者の組織化に向けた初のワークショップが、ITUCヤンゴン事務所とCTUM(Confederation of Trade Unions : Myanmar)との連携で開催されました。東京清掃労組の協力によるものです。押田五郎氏(清掃人権交流会会長)と山崎精一氏(東京清掃退職者組合)を講師に迎えての2日間のワークショップからと、それに先立って2日間実施した現場視察とインタビューから、過酷な労働と生活の実態を知ることができました。その一端を報告したいと思います。

●3種類の労働者群

 ヤンゴン市の清掃はYCDC(Yangon City Development Committee =ヤンゴン市開発委員会、任命制の市長を責任者に選挙で選ばれる5人の委員で構成。清掃・環境、交通、教育、上水道、下水道の5重要政策分野に責任を負う)によって実施されています。清掃にかかわっている労働者には、このYCDC雇用のWA(Worker Assistant、雇用形態は極めて不明瞭)の他に、有価物(ペットボトル、アルミ缶、ビンなど)の収集・販売(リサイクル業者への)業者に雇われている労働者、有価物収集・販売を生業とするいわば「自営労働者」がいます。計3種類の労働者がいるのです。
 WAという存在は、実態は労働者以外の何者でもないのですが、「労働者の補助者」として位置づけられているのです。この訳の分からない位置づけは、詰まる所、安上がりに労働力を確保するための姑息な手口というべきものです。労働者として保障されるべき権利も待遇も曖昧にして、雇用責任を回避しようとする意図がありありと見えます。WAとYCDCの雇用関係を示す物は、身分証明書を兼ねた1枚のカードのみです。カードには名前と登録番号と発行日が書かれていますが、雇用期間は書かれていません。雇用契約の内容どころかそれ自体が不鮮明なのです。そういう状況下に置かれていますから、多くの問題が生じています。

●3つの重要課題

 ワークショップで、参加者全員に困っていること、怒りを感じていることを、ひとつだけ絵に描いてもらいましたが、その中で明らかになった大きな問題が3つありました。第1は労働災害、第2は長く基準もない労働時間、そして第3はYCDC職員(作業監督者)による恣意的で無理難題的な指示でした。

 労働災害は日常的に起っているということです。ヘルメット、安全靴、手袋、作業着などの防具は全くといってよい程支給されていません。深夜作業中の交通事故死の例や、ほとんどの人が腰痛や膝痛などを抱えていること、ゴミ圧縮のために踏みつけたガラスが突き刺さり甲にまで抜ける怪我をした例も報告されました。被害を受けた労働者には何の補償もなく、医療費も自己負担ということです。

 労働時間の2シフト制(6:00−18:00、18:00−翌6:00)は建前で、作業監督官の恣意的な指示によって午前3時頃から就労する場合も多くあり、受け持ち地域が広げられ作業が終わるのが夜遅くなる場合も少なくないといいます。作業監督官はタウンシップ毎に配置されていますが、WAに対して絶対的権限を持っていて、予算執行・労働管理を恣にしているといいます。その故かタウンシップ間にかなりの相違があることも明らかにされました。中にはWAの出勤簿が2重にあって、定数と実数との差から生み出される人件費の差額が不正に使用されているという話も出されました。このたぐいの話は常態化しているようで、疑いをはさむ人は誰もいませんでした。

 賃金・収入面での不満や要求の声は、思いのほか少ないものでした。日給3,000チャット(約3ドル)は決して満足できる額ではありませんが、有価物を売って得る額が5〜6,000チャットあり、それを加えればそこそこの収入になるからだというのです。1日休むと3日分の日給がカットされるという厳しい「管理」の下で年中無休なのですが、家族総ぐるみ労働によって凌いでいるのが実態のようです。

●住居保障が「人質」

 清掃労働者には地方の農村部からヤンゴンに出てきた人が多いようです。そういう人にとって住居の確保=住民票の取得はヤンゴンで暮らし続けるための最重要事項です。それを確保するためには他の条件は目をつぶらざるをえないのです。WAの職を失うことは直ちに住居を失うことを意味します。住居を失わないようにあらゆる思いや要求を我慢せざるをえないことになります。YCDCの作業管理者のいうことを何でも聞かざるをえない訳です。いわば「人質」をとられているのと同様なのです。YCDCがWAに入居を保障する住居は8フィート(2.5メートル弱)四方の部屋一室で、入り口の脇に明かり取りの窓がひとつあるだけで、台所、トイレ、水浴び場など全て共用というものです。ここに5人程度で住んでいる人が多いそうです。

●社会的な差別

 ミャンマーでも、清掃が社会的に必要とされる重要な仕事なのに、ゴミを扱うことから、汚い、下等な仕事との社会的差別があります。バスに乗る時に他の乗客から臭いと露骨に嫌がられることは日常的にあるといいます。仕事量も関係して家族ぐるみで働くことも多く、差別は家族全員に及ぶそうです。それに加え、教育と非識字の問題があります。実態として非識字の人の比率が高いのも深刻な問題で、ワークショップへの23名の参加者の中で名前を書けない人が5人もいたことが、このことを示しています。

●児童労働との結びつき

 ヤンゴン市東西2カ所にあるゴミのダンピングサイトを視察し、そこに働く労働者にインタビューする機会がありました。その中に有価物の収集・販売を行なう業者に雇用される労働者がいましたが、彼らは明らかな児童労働の経験者でした。若いカップルで夫が16歳、妻が18歳で、現在の職場での労働歴がそれぞれ3年、4年を超えているといいます。13、4歳から働いていることになります。彼らはエラワディの農村の出身でした。2008年にミャンマーを襲い10万人以上の犠牲者を出した巨大サイクロン「ナギルス」による壊滅的な被害を受け、未だに復興ができない村から出てきたのだといいます。先に触れた家族ぐるみ労働からも児童労働が多く使われる傾向が強いのですが、求めれば職に簡単に就くことができる社会状況に問題があります。全般的に労働監督が行き届いていませんが、特に清掃現場には全く及んでいません。児童労働の温床のひとつであることは間違いありません。

●労働組合結成で展望を

 以上報告した状況下に置かれている清掃労働者に労働組合結成の動きが始まりました。未だ登録組合にはなっていませんが、2つの組合が発足しています。これを基礎に全市的な拡大を目指そうとワークショップは開かれました。講師の押田氏、山崎氏から東京の清掃作業の実態と「ゴミ問題」の歴史的な経緯が伝えられ、社会的差別の克服と待遇改善を如何に闘いとってきたかが紹介されました。そして清掃の社会的重要性を再確認し誇りと尊厳を持って働いていくことが大切であり、それに相応しい環境・条件を整備していくために組合活動の存在と強化が必要であると訴えられました。この訴えに応えるCTUMの活動が求められています。

 (筆者はヤンゴン駐在・ISTU代表)


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